連載
posted:2018.6.4 from:香川県小豆郡小豆島町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
editor profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。コロカル編集部員。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。
Photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。「暮らしを考える旅 わが家の移住について」を夫婦で連載中。
2012年秋に家族で小豆島に移住し、〈HOMEMAKERS〉として
農業とカフェを営む三村ひかりさん。
2013年4月にスタートしたこの連載「小豆島日記」も、200回を迎えました!
そこで、100回目に続き、編集部が再び小豆島を訪れて取材。
その模様をお届けする200回記念特集です。
小豆島で移住支援や空き家活用に取り組むNPO法人〈Totie(トティエ)〉。
移住体験施設の運営や、町が管理する空き家バンクのサポートなどを行っています。
自らも移住者である理事兼事務局長の大塚一歩さんを、三村さんが訪ねました。
ひかり: いま小豆島に移住してくる人ってどれくらいいるんですか?
大塚: 年々少しずつ伸びてますね。
2017年度は土庄町と小豆島町を合わせて、IターンとJターンの合計が350人弱。
Uターンも入れると500人を超えます。これは転勤などは除いた数字です。
ひかり: すごい!
大塚: 人口の1%の移住者がいれば、将来的に急激な人口減少は
食い止められるという説もあって。
小豆島の人口は約2.7万人だから、1%はいるということになります。
これを維持していけたらいいですね。
ひかり: トティエの活動目的は、移住者を増やしていくということですか?
大塚: 主な活動としては移住定住促進活動になりますが、それは手段であって、
もう少し先のことを見据えて活動しています。
僕自身もこの島が好きで移住した移住者なので、
島の文化とか産業とか風景とか、この空気感を維持していきたいと思っています。
ひかり: トティエの立ち上げの経緯について、あらためて聞かせてください。
大塚: 設立は2016年です。
〈dot architects(ドットアーキテクツ〉という建築グループが
〈瀬戸内国際芸術祭〉のときに小豆島町でプロジェクトを展開していたんですけど、
そのドットアーキテクツにいた向井達也くんが、
そのまま小豆島町の地域おこし協力隊になって島に居着いたんです。
彼がトティエを立ち上げました。
ひかり: いまは町の職員として移住担当の仕事をしてるんですよね。
大塚: そうなんです。
どこもそうだと思いますが、地域課題として人口減少は避けられないし、
空き家も増えてる。そういった問題に対して行政でしかできないことは当然あるし、
一方で民間でしかできないこともあると思うんです。
ひかり: たしかにそう思います。連携できるのがいいですよね。
大塚: また、小豆島は小豆島町と土庄町のふたつの町があるので、
行政区を越えて島への移住をサポートする民間団体が必要だろうということを、
設立前に向井くんと話していたんです。
そのときに僕が「それならNPO立ち上げちゃえば?」とけしかけたようなこともあって、
最終的に向井くんがいろんな方の協力を取りつけて設立した、という流れですね。
彼が町の正職員になるということになり、
僕はその話を受けて2017年4月から事務局の運営をしています。
ひかり: 移住って何が一番ハードルになるんでしょう?
大塚: やっぱり家と仕事ですね。どちらかが決まれば移住してくるんです。
逆にどちらもタイミングが合わなかったりして決まらないと、なかなか移住できない。
ひかり: そのどちらかでも決まると移住してくるんですね。
大塚: どちらかというと家が決まるのが大きいですね。
家がないと現実的に住めないですし。僕がまだ家を探していた6年ほど前は、
いまより空き家バンクの物件は少なかったし、不動産業者はいることはいるけど、
そういうところで探そうとしてもなかったんですよね。
いまは僕らが運営している移住体験施設も増やして、
そこに住みながら家探しをすることもできます。
ひかり: ホテルに宿泊して家探しって大変ですもんね。
大塚: それに一軒家のほうが島の暮らしもわかると思います。
滞在施設を利用して実際に移住してくる人もけっこういますよ。
ひかり: 家探しや仕事探しもサポートしてあげるんですか?
大塚: いろんなケースがあって、人によってフォローすることも違います。
移住に興味があるという入り口の人もいれば、小豆島に移住しようと決めてくる人も。
仕事は、直接紹介することはしていませんが、希望とか情報を聞き出せたら、
こんな会社もありますよ、ということは教えたりしています。
ひかり: どんな人たちが多いですか?
大塚: 相談の段階では、本当にさまざまですね。多いパターンとしては、
子どもが小さくて、都市部での子育てに疑問を感じて移住を考えている方とか。
40代だと手に職を持っていたりフリーランスの人も多いですね。
50年代はリタイアを見据えて早めに動こうという人が多いですし、
60代は定年後の終の棲家を探している方もいます。
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ひかり: 空き家バンクは自治体が管理するものなんですか?
大塚: そういったところが多いと思います。
僕らも自分たちで物件を持っているわけではなくて、大家さんから
「空き家があるんだけど」という相談を受けることもありますが、
空き家バンクに登録してくださいって促したり。
ひかり: 空き家はたくさんあるけど、
全部が空き家バンクに登録できるわけじゃないですよね。
大塚: 空き家バンクに登録したくないという人もいて。
周囲の目が気になるみたいです。いくらで貸しているとか、
そもそも空き家を貸しに出しているということを知られたくないとか。
あとこれから全国的にもさらに問題になると思いますが、
相続登記がされていないとか、所有者がわからないことも。
ひかり: 所有者が不明だと貸せないんですか?
大塚: 親戚がいれば貸せる場合もあると思いますが、売買はできないですね。
そもそも相続登記の手続きが面倒で、費用もかかるので登記するメリットがない。
すると家が放置されて、もしそのまま相続人が亡くなると、
相続する権利がある人が親戚とかに広がって、
全員の承認がとれなくて売買できないとか。
法整備をしていかないと、今後大きな問題になると思います。
ひかり: 国全体の問題なんですね。小豆島は住める家はまだたくさんあるはず。
大塚: 空き家バンクの登録物件は両町で50軒くらいあって、
香川県では高松市に次いで多いと思います。
ひかり: それもトティエががんばっているからかもしれないですね。
大塚: 島の人に会うたび「いい空き家ないですか?」って聞いたりして、
あったら役場に連絡してくださいと言ったりしています。
家を放置して、もし傷んで倒壊したら、
持ち主が高いお金を出して撤去しなくちゃいけなくなるので、
それを考えたら、手続きなどが面倒でも住みたい人に住んでもらって、
大事な家を維持していったほうがいいと思いますよ。
ひかり: 私もよく空いてる家を見つけると
「おばちゃん、あれどうなっとるん?」って聞いたりしてます。
でも私たちみたいに商売をしてる人は、自分たちの仕事で手一杯で、
気になっていてもなかなか地域のための活動までできないのが現状。
大塚: そうなんですよね。だから地域の大事な部分は、
地元の人や移住して熱意がある人にがんばってもらって、
僕たちは島が良くなるように徹底的に裏方をやりますよ、
という考えで活動をしています。
ひかり: 私たちは農業をやっていることで、風景を含めて
小豆島の暮らしの充実につながると思っているけれど、
なかなか直接的に地域のための活動ができないから、
一歩さんたちがこういうことをやってくれているのはすごくありがたいし、
トティエみたいな存在って大事だと思います。
大塚: でも地域の活動ということで言えば、
三村さん一家は肥土山(ひとやま)農村歌舞伎に参加しているのはすごい。
自分の子どもがあの舞台に立つってすごいことだと思います。
ひかり: ありがたいことだと思います。
島に移住した翌年から出させてもらっているので、
今年で6回目、娘が舞台に立つのは5回目です。
大塚: 歌舞伎は、島があり続ける限り続いてほしい、大事な文化ですね。
移住者が増えていると言っても、島の高齢化率は40%に迫っています。
20年後にいま地域を仕切ってる人たちが引退していったら、
伝統行事や文化はどうなるのかという不安はあります。
ひかり: お隣の中山地区の歌舞伎はもう中山だけでは維持ができないので、
町からお金も人的支援もあります。肥土山はいまは地元の人たちでやっていて、
私たちの世代まではなんとかやっていけるとしても、問題はその次の世代。
いまがんばって歌舞伎をやっている子どもたちが、
島を出ても帰ってきてくれたら続いていくのかな。
そういう意味ではUターンってすごいパワーになると思います。
大塚: 僕はこの島の文化とか風景とか空気感が好きで移住してきたけど、
人がいなくなるとそういうものが壊れていくので、
それを何とか維持していきたいというのが活動の根幹ですね。
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ひかり: 一歩さんたちも私たちとほぼ同じ時期に移住したんですよね。
大塚: 僕らが移住したのは2012年で、半年くらい早かったのかな。
ひかり: 一歩さんはどうして移住しようと思ったんですか?
大塚: 理由はいくつかあるけど、僕は東京生まれで、
ここに来る前は東京の青梅に住んでいたんですが、
通勤時間が片道2時間半くらいかかっていて。あるとき計算してみたら、
仮に65歳まで勤めたら、約4年を通勤時間に費やしてしまう。
それが衝撃的で、これはなんとかしないと……と思っていたら東日本大震災があって。
その前から都会の生活に疑問も感じていたし、東京を離れようかなと思いました。
ひかり: なんで小豆島だったんですか?
大塚: ほかの土地もいろいろ行ってみたんですけど、
最終的にご縁があったのが小豆島。実は僕と妻、両方とも遠縁の親戚が小豆島にいて、
最初はそのつてで家探しをしたんですが、なかなか決まらなくて。
それで当時からあった移住体験施設を1か月くらい予約して、
これで見つからなかったらあきらめようと思ったら、
滞在中に運良くいまの家を見つけたんです。
ひかり: やっぱりいい家を見つけられるかは大事ですね。
一歩さんの家で、よくごはん会をやってましたよね。
大塚: うちの奥さんは、小豆島でもカフェやパン屋さんで働いたり、
料理に携わってきたけど、もともと彼女の料理は
人をつなげる可能性があるなと思っていて。
それで、移住してきたばかりの頃、島の人脈をつくりたいと思って、
毎日のように彼女の料理でもてなすごはん会をしてたんです。
そうしたらそんな噂が広まって、いろいろな人が来てくれて。
ひかり: 私たちもよく行ってて、移住して3日後くらいに
ごはん食べに行ってましたよね(笑)。
大塚: それがあったから、いま仲良くしている人たちと
たくさん知り合えたかなと思っています。
ひかり: 一歩さんの奥さんにはうちのカフェでもデザートをつくってもらったりして。
いまは産休でお休みしてもらってるけど、いつもお世話になってます。
大塚: HOMEMAKERSもいろんな人が集まるいい場所になってますよね。
ひかり: 移住したいという人もよく相談しに来たりするんですけど、
すぐトティエを紹介してます。こういうところがありますよって。
うちは窓口のひとつになればいいかなと思ってます。
大塚: 結局、そういう“場”が大事なんですよね。
HOMEMAKERSができる前はあまりそういう場がなかったから。
ひかり: いまはすごくおもしろい場所が増えてますよね。
ボルダリングジムの〈ミナウタリ〉とか、
海辺のカフェ〈Today Is The Day Coffee and Chocolate〉も、
とてもいい場所だと思います。
そういうところが移住の相談窓口みたいになっていて。
大塚: そういう場が必要とされていたと思います。これからもっと増えてくると、
僕らとしてもありがたいし、暮らしの質が上がってきますよね。
ひかり: いい意味で、たまり場みたいな。そういう開いた場ができていくというのは、
島にとっても価値があることだなと思います。
大塚: そういう場ってすごくパワーがありますよね。
ひとつのお店が小さな集落を変えられるし、
島という、もう少し大きな地域も変えられると思います。
小豆島って何かおもしろいことができるんじゃないかと
思わせてくれるような空気があると思うんです。
なんでかわからないけど、僕もそう感じて移住してきたから。
ひかり: まだまだそういう場が増えるといいですね。
うちもそういう場のひとつとしてがんばっていきます!
information
Totie
NPO法人トティエ
住所:香川県小豆郡小豆島町坂手甲1847(坂手観光案内所内)
TEL:0879-82-1199
小豆島を「知って観て体験して楽しめる」移住ガイドツアー2018開催!
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