連載
posted:2018.5.28 from:香川県小豆郡土庄町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
editor profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。コロカル編集部員。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。
Photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。「暮らしを考える旅 わが家の移住について」を夫婦で連載中。
2012年秋に家族で小豆島に移住し、〈HOMEMAKERS〉として
農業とカフェを営む三村ひかりさん。
2013年4月にスタートしたこの連載「小豆島日記」も、
今回でなんと200回を迎えました!
そこで、100回目に続き、編集部が再び小豆島を訪れて取材。
その模様をお届けする200回記念特集です。
今回は、自らも伊豆下田に移住し、
「暮らしを考える旅 わが家の移住について」を連載中のフォトグラファー、
津留崎徹花さんと三村さんの対談をお届けします。
ひかり: 前に取材に来てくれたのは3年前。
そのときは徹花ちゃん、まだ移住できたらいいな、くらいの感じだったもんね。
いま連載読んでますよー。
徹花: 読んでくれてるんだ〜、うれしいな、ありがとう!
下田に移住して1年暮らしてみて、ようやく少しずつ落ち着き始めたところで。
自分たちの連載にも書いたけど、移住した当初は
子どもに無理をさせてるな〜って感じて、移住を選択したことは
自分たちの身勝手なんじゃないかってしばらく悩んでたんだよね。
ひかり: それは私たちも同じ。でも私たちは核家族で、
たくちゃん(夫)といろは(娘)と3人暮らしだったけど、
徹花ちゃんのところはお姉さん夫婦も同居してて、
娘さんにとってはいとこも一緒だったじゃない?
そういう暮らし方だったら、移住しなくても楽しめるんじゃないかと思ってたけど、
それでも移住しようと思ったのはなんでだったの?
徹花: 移住しようと思った理由は、東京での暮らし方に
違和感を感じたからだったんだよね。
だけど、いま思えば、東京でいとこたちと暮らす生活は、
子どもにとってはすごく恵まれた環境だったと思う。
だから、移住して本当に子どもにとってよかったのかどうかって、
半年くらいずっと自問自答して悩んじゃって。
ひかり: いまはちょっと落ち着いた?
徹花: うん、娘も下田の暮らしを楽しんでる。移住して半年くらいで
娘の運動会があって、お友だちと仲良く自然に振る舞ってる娘を見て、
もう大丈夫なんだ、この子は私たちの知らないところで乗り越えてたんだと思って。
じーんとして思わず涙流してたら、友だちに「なんで泣いてるの?」って(笑)。
ひかり: 時間はかかるかもしれないけど、ちゃんとなじんでいってくれてると思う。
たしかに親の自分勝手じゃないかって気持ちもあるけど、
親が楽しくない状態でいるよりも、生き生きと自分たちの好きなように生きてるほうが、
子どもにとってもいいんじゃないかな。
徹花: うん、そうだよね。
私は東京にいるときよりも少し余裕ができたような気がする。
東京ではハードに仕事して、保育園のお迎えも駆け込みで、
全然余裕がなくてイライラしてた。
私が不安になってると娘も不安になるし、私がイライラしてると娘は寂しいと思う。
ひかり: 自分がイライラして子どもに怒ったりすると、あとで後悔するよね。
自分が穏やかでいることが大事だなと思う。
徹花: 東京にいたときよりも、娘と過ごす時間がすごく増えたのは大きな変化だな〜。
お母さんのあり方って、家族にとって大事だよね。
いろはちゃんのことで、不安なことはあった?
ひかり: 不安だったよ。
こっちに来たときも、すぐにうまく話ができなかったみたいで、
幼稚園の先生から発達障害じゃないかって言われたけど、
3か月くらいしたら話せるようになって。
やっぱり言葉も違うし、最初は緊張するよね。
徹花: そういう心配も、いまなら実感としてすごくわかる。
ひかり: 徹花ちゃんたちの連載読んでると、私たちにとっては
4、5年前の思いとすごくシンクロする部分があって。
同じだなーって思うよ。旦那さんは家で仕事したりしてるの?
徹花: 午前中は養蜂場で農園づくりの仕事してて、
帰ってきて家で建築の図面を引いたりしてる。
私たち親が家にいるから、近所の子どもたちが遊びに来るんだよね。
近所にお友だちがいっぱいいるこの環境はすごくよかったと思ってる。
ひかり: きっと雰囲気がいいんだよね。うちにもいろはのお友だちが来てくれるし、
いろはも遊びに行ってるよ。そういう環境って大事だと思う。
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徹花: 下田と東京との違いを感じるのは、ご近所づき合いがあること。
東京だと隣にどんな人が住んでいるかすら知らなかったりするけど、
私たちの住んでる地域ではおおよそ顔が見える感覚。
いろんな旬のものをいただいたり、お惣菜のおすそ分けをいただいたり。
それは東京ではなかったつき合い方なんだよね。
この農村の集落だと、ご近所づき合いってどんな感じなのかな?
ひかり: かなり濃密だと思う。人づき合いに関しては苦労はいまもあるけど、
慣れたかな。行事は積極的に関わるようにしてる。
農村歌舞伎も毎年参加させてもらってて、とてもありがたいし。
でも、集中して何かやりたいことがあるときに人が訪ねてきたりすると、
ありがたいんだけど、やりとりに時間がとられてしまったりね。
徹花: 私たちは夫婦とも東京で育ったから、ご近所づき合いのさじ加減に
まだ迷っているところがあって。たとえば、いただきものをしたときに、
お返しは必ずしたほうがいいのか、とか。
お返しをするほうが、かえって相手に気を使わせてしまうのかな……とか。
ひかり: 毎回お返しはしなくても、その都度、ひと言お礼を言うようにはしてるかな。
忘れることもあるけど(笑)。甘えるところは甘えていいと思う。
甘え上手のほうが、田舎ではうまくいくかも。
でもきちんとお礼をするとか、会ったら言葉を交わすとかはしたほうがいいよね。
徹花: そうか、物を返すんじゃなくて言葉で感謝の気持ちを伝えればいいんだね。
ひかり: そうそう、こうして料理して食べました、とかね。
この時期はたけのこをもらったりするけど、あんたたち忙しいやろって、
今年はゆでてあく抜きしたものを持ってきてくれたり。
そうやって少し甘えてもいいのかも。
徹花: まだ私はそこまで甘えられないな。
ひかり: だんだん甘えられるようになった気がする。
私は料理もすごく上手なわけじゃないし、
何かたくさんつくっておすそ分けを持って行くタイプでもないし。
全然できないお母さんだなと思って落ち込んだけど、
できない人でもいいかなと思って。それからちょっと楽になったかな。
徹花: たくちゃんは、この3年で心がけてきたことってある?
たく: 前はこの土地になじまないといけないって努力してたけど、
無理に合わせなくても、認められてきてるところはあるかな。
たとえばいろんな会合があって、なるべく顔を出すけど、いまは出ないこともある。
でも俺はここでこれだけやってきてるよっていう自負もあるし、
地元の同世代の関係ができてきたと思うよ。
徹花: 自分たちの軸がしっかりしてるよね、三村家は。
たく: やっぱり少しずつかたちになってくるんじゃないかな、
人間関係とか信頼とか。いきなりそうはいかないと思う。
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徹花: 3年前に来たときより、ひかりちゃんもたくちゃんも落ち着いた感じがする。
たくちゃんもすごくたくましくなって、どっしり構えてるというか。
ひかり: ほんとに? でもそうかも。
ちゃんと段取りができるようになったかな。
今日はここまでに何を終わらせようとか、ちゃんと組み立ててやるようになったり。
いまは畑もカフェもアルバイトの人に来てもらってて、
その分私は事務作業したり、カフェのお菓子を焼いたりとか、
プラスアルファができるようになった。そういう余裕が出てきたのはたしか。
徹花: 前は全部ふたりだけでやってたもんね。
でもほんとに夫婦がすごくいいところに着地してる気がする。
夫婦の仲も良くなった?
ひかり: この前、大げんかしたけどね(笑)。基本的には良好だと思う。
あと前は、家事とか子どものこと含めて、私が家にいなきゃと思ってて。
家族に負担をかけられないって思ってたけど、いろはも5年生になって
自分でいろいろできるようになったし、手伝いに来てくれる人もいるし。
だから今年に入って外に出ていくことができるようになったのはありがたいなと。
徹花: それはたとえばどんなこと?
ひかり: 少し前に和歌山でツアーの記録撮影の仕事があったんだけど、
たくちゃんも行っていいよって言ってくれたから、1泊で行ったきたの。
前は、カフェがあるから週末は出られないなと思ってたけど、
いまは人が来てくれてるから。子どもの成長や自分たちの仕事の状況に合わせて、
家族の距離感も変わっていくんだなと思って。
徹花: そうかー。やっぱり3年前と雰囲気が違うね。
うちも早くこんなふうに落ち着けたらいいな。
ひかり: うちも最初はバタバタしてたよ。でもたしかに落ち着いたかも。
3年前に来てもらったときと今日の気持ちはだいぶ違う気がする。
徹花: そうやって外に出て行けるのも、たくちゃんの理解があったり、
余裕が生まれてるからだよね。外に出たいのに出られないっていう
フラストレーションがあると、どうしても家の中がうまく回らないよね。
ひかり: 夫婦喧嘩はよくするけど、なるべくしないようにするには
どうしたらいいかってよく考えるかな。やっぱり穏やかでいるのが大事だね。
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ひかり: 実際に移住してみてどう?
徹花: 確定申告したら、収入はみごとに昨年の半分だった(笑)。
ひかり: でも半分もあるんだ。うちもひどかったから大丈夫だよ。
徹花: 旦那もサラリーマン時代から考えるとすごく減ってるからね。
でも暮らしていければいいかなと思って。
ひかり: あの1日の食費を2000円に収める『クリアファイル家計簿』、
連載で読んだよ(笑)。
徹花: クリアファイルはいまはもう使ってないんだけど、
あれを実践したことで買いすぎないクセがついた。
旦那とお互い意識して、今月はもうあと5000円しかないから気をつけよう、とかね。
ひかり: その感覚が大事だよね。
徹花: そんなにお金使わないけどね。
ひかりちゃんたちが、都会にいたときより誘惑がなくなったから
お金を使わなくなったって言ってたけど、実感としてすごくわかる。
この移住は、働き方を変えて自分の精神状態を落ち着かせたいというのも
大きかったんだよね。そういう意味では7割くらいは成功してると思う。
ひかり: 7割そう思えるならよかったんじゃない。あとの3割は?
徹花: もうちょっと穏やかな母親になりたい(笑)。
ひかり: 移住したからってすぐに穏やかになれるわけではないよね。
でも生き方を変えたいなら、住む場所を変えるというのは一番だよね。
同じ場所にいたら、自分の意識だけではなかなか変われないんじゃないかな。
移住したからってそんなにすぐには変わらないけど、
そういう意味では移住って選択肢のひとつだと思う。
徹花: でも自分たちの連載の初期を見直してみると、
「こういう理想の暮らしがしたい」みたいなこととか、
すごい頭でっかちだったなーと思って。
すぐに自給自足的な暮らしを始めたい! って思っていたし。
ひかり: うちも自給自足タイプじゃないよ。
お野菜は自分たちのつくったものを食べられるようになってきたけど。
もともと私たちはわりとゆるくて、できないことはほかの誰かにお願いしたり、
買ってきたりしてた。
あまりなんでも無理して自分たちでつくって、ということではなかったかな。
徹花: そこが三村家はスマート。うちは突っ走るタイプだから、
「こうなりたい」っていう最初に思い描いた理想が、
自分たちの身の丈に合ってなかったなって思う。
でもそれがなかったら、そもそも移住できなかったのかもしれないし。
ひかり: 移住しても自給自足じゃなくて、ふつうの暮らしをしてる人はいっぱいいるし、
どこかに勤務してる人もたくさんいるから。
でもいまの小豆島は、おもしろい人たちが次から次へと移住してきていて。
行政が主導で何かしているというより、自発的にいろんな場所で
いろんなことが発生してるのがほんとにおもしろい。
徹花: 年間300人以上も移住してるって、ほんとにすごいよね。
島に移住するのって結構勇気がいると思うんだけど。
ひかり: 小豆島は比較的、外に開いている島だと思う。
陸とわりと近いし、港もいくつもあって、いろんな土地とつながってるし。
関西や四国の人にとっては日帰りでも行けるような距離だから、
行き来しやすいんじゃないかな。私たちも高松に日帰りで行ったりするよ。
徹花: そういえば、この前東京に行ったとき、たまたまラッシュの時間帯に
駅に降りたら、あまりの人の多さにうわーってびっくりしちゃって。
いや、待てよ、1年前まで住んでたのに(笑)。
人って子どもだけじゃなく、順応性あるんだなーと思って。
満員電車に乗らない生活にもう慣れてしまった……。
ひかり: 私はもう都会には戻れないと思う。
もし都会で暮らしたらヒマに感じちゃうかも。
だって畑とか草取りとかしなくていいでしょ?(笑)
都会と田舎では忙しさの種類が全然違うね。
徹花: 三村家の場合は、最初から農業とかカフェとか、
目標がはっきり見えてたじゃない。うちの場合、正直まだ見えてないところもあって。
いろんなことをやりながら、まだ探しているところなんだよね。
ひかり: それはみんなそれぞれだからね。津留崎家のこれからが楽しみ!
徹花: 先輩、いろいろ教えてください。
うちも三村家みたいに、3年後には落ち着けるように前進します!
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