連載
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
editor profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。コロカル編集部員。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。
Photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。「暮らしを考える旅 わが家の移住について」を夫婦で連載中。
2012年秋に家族で小豆島に移住し、〈HOMEMAKERS〉として
農業とカフェを営む三村ひかりさん。
2013年4月にスタートしたこの連載「小豆島日記」も、200回を迎えました!
そこで、100回目に続き、編集部が再び小豆島を訪れて取材。
その模様をお届けする200回記念特集です。
今回は、小豆島の新しいプロジェクトについて。
以前コロカルニュースでも紹介しましたが、
使われなくなったホテルをゲストハウスとして再生させようという試みです。
小豆島にいくつかある港のなかでも数多くのフェリーが発着する土庄港。
その土庄港にほど近い場所にある、かつて〈海南荘〉として営業していたホテルが、
新しいゲストハウスに生まれ変わろうとしています。
その〈ゲストハウスKAINAN〉のプロデュースを手がけるのが、小笠原哲也さん。
高松市の高校を卒業してから渡米し、古着や雑貨を扱うビジネスをしてきました。
現在はそういった輸入販売業の傍ら、高松市で本屋とギャラリー
〈BOOK MARÜTE〉や、〈ゲストハウスまどか〉を運営しています。
「僕にとっては小豆島は身近で、同級生の友だちもたくさんいますし、
よく遊びに来ていて、もともと好きな島。
いま観光客も増えてますけど、気軽に泊まれる場所がそんなにないんですよね。
もっと宿があったらいいねと、仲間と話していたんです」
〈瀬戸内国際芸術祭〉の期間中は特に訪れる人が増えるものの、
島に泊まらずに帰ってしまう人も。ここが宿泊施設として再生できれば、
高松や豊島へのフェリーもある土庄港を拠点にしてもらい、
芸術祭に訪れた人にもっと利用してもらえるのでは、と小笠原さんは考えているのです。
1階の広いロビーを、カフェと本屋さんとギャラリーに、
2階から5階を宿泊スペースにするプラン。
アーティストが長期滞在しながら制作できたり、
アーティストと旅で訪れた人が交流できたり。そんな場所づくりを目指しています。
「小豆島はいままでもこれからも、世界中から集まる旅人たちの
瀬戸内海の拠点だと思っています。この島に僕らが手がける宿があれば、
世界中からもっといろんな人たちが集ってきて、
世界がもっと近くに感じられると思うんです」
台湾にも拠点を持ち、幅広い人脈のある小笠原さんがそう言うと、
本当にそんな気がします。
また、ここが再生すれば、新たな雇用も生まれるはず。
「1階ではピザ職人の方にカフェをやってもらおうと思っています。
移住してくるので、また移住者が増えることになりますね。
三村さんたちの〈HOMEMAKERS〉以前は、
外から来た人が商売を始めることは少なかったですが、
いまはだいぶ増えてやりやすくなったと思います」
またひとつ、小豆島に人が集まる楽しい場所が増えそうです。
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でも建物を見ると、ゲストハウスというより、ホテルの規模。
改修工事も相当大変ですよね……?
「そうですね。でもオーナーさんは絶対やると言ってますから」と小笠原さん。
実は小笠原さんはプロデュースとゲストハウスやカフェの運営を担い、
オーナーは別なのです。
そのオーナーが、地元企業〈小豆島ヘルシーランド〉。
自社農園でオリーブを栽培し、そのオリーブを使って開発した化粧品や
健康食品の通信販売をするオリーブ事業のほか、地域の文化事業にも力を入れています。
その代表ともいえるのが〈MeiPAMアートプロジェクト〉。
土庄本町は細い路地が入り組み「迷路のまち」とも呼ばれますが、
その迷路のまちにある古い建物を利用して、アートプロジェクトを展開しているのです。
そのMeiPAMで代表を務めていた磯田周佑さんが、この新しいKAINANの担当者。
現在は、小豆島ヘルシーランドで、こういった古い建物を利活用する
不動産開発事業に携わっています。
つまり、廃業した海南荘を小豆島ヘルシーランドが買い取り、
ゲストハウスのノウハウを持つ小笠原さんと組んで
再生に取り組んでいるというわけなのです。
「古い物件を利用したアートプロジェクトや飲食店などの店舗を展開しているなかで、
こういった新しい事業もやっていこうと。
ほかにも島にある物件を何か事業に使えないかと動いているところです」
実は磯田さんも移住者。
東京で働きながら横浜で暮らしていましたが、社会人大学院で学んでいたときに、
同級生に当時会長だった小豆島ヘルシーランドの創業者がいたのだそう。
その柳生好彦さんの話に小豆島の魅力を感じ、2013年に小豆島へ。
以来、小豆島ヘルシーランドで働いています。
「僕みたいな人間はサラリーマンしかできないので」と謙遜しますが、
小豆島ヘルシーランドのような地元企業に勤め、
やりがいを感じながら働いている人がいるのも、
小豆島に移住者が増えている理由かもしれません。
もとより地域活性に興味があり、移住を考えていたという磯田さん。
「現代は超少子高齢化で、地方こそさまざまな問題に直面しています。
それをビジネスで解決することができれば、
東京や大阪といった都市部が同じ状況になったときにも、
培ったノウハウが使えるだろうと思っています」
つまり、ビジネスで地域を元気にできれば、
都市部やほかの地域でもそのやり方が有効だというのです。
とはいえ、小豆島を単なるステップとして考えているのではなく、
島に家を建てるために土地を買ったそう。
「自分で土地を買うというのは重要だと思います。
その地域の土地を買うことは、その土地の資産価値を上げていくことにつながります。
そこに根を下ろすという意識を持つと、見方も変わりますしね」
さすが、不動産事業に携わる磯田さん。
こうした地元の企業が、地域のことを考えながら事業を展開していく。
ゲストハウスKAINANも、そのいい事例になりそうです。
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三村ひかりさんも、小笠原さんが手がけるゲストハウスKAINANに興味津々。
この機会にいろいろ聞いてみました。
ひかり: 小笠原さんは海外からUターンしたことになるんですよね。
小笠原: 高校を卒業してアメリカで10年くらい暮らして、
そのあとも東南アジアやインド、ネパールと、世界中転々としてました。
僕はミッドセンチュリーの家具やモダンデザインが好きなんですけど、
イサム・ノグチも香川県に縁があったり、
猪熊弦一郎の美術館や丹下健三の建築も香川県にあるし、
自分の生まれ育ったところにこれだけ好きなものがあるんだったら、
と思って27、28歳で帰ってきたんです。
ひかり: アメリカで古着を仕入れて販売したりしていたんですよね。
それはいまもされてるんですか?
小笠原: そうですね。
アメリカやアジアの、古着やアンティークの雑貨を販売するのが本業です。
世界中いろいろ見てきたなかで、住みたくなるようなまちには、
小さくてもいい本屋さんとかギャラリーがあるんです。
自分のまちにもそんな場所があったらいいなと思って、
高松でBOOK MARÜTEを始めました。
採算抜きで、いろんな人が集まってくれたらいいなと。
ひかり: そうなんですね。
小笠原さんの本業を知らなかったので、正体が少しわかりました(笑)。
でも、あんなに大きなホテルをゲストハウスにするのって大変ですよね。
小笠原: 本館と新館があるんですけど、本館はゲストハウスにして、
新館はヘルシーランドさんがスタッフ寮や月貸しの部屋にする予定です。
たとえば1か月くらい長期滞在しながら仕事探しができたらいいですよね。
ひかり: 空き家を借りるのも大変ですしね。
小笠原: あとは繁忙期だけの季節労働者が滞在できると、
賃金を支払いながら、家賃を払ってもらうことができる。
小さいけど、そんな積み重ねがあれば経済が回りますよね。
移住しても、みんながみんな手に職があるわけじゃないから、
これからは企業に雇われて働くという
磯田さんみたいなサラリーマン移住も増えてくるんじゃないですか。
ひかり: 島内の会社に勤めている移住者も多いですよね。
お醤油屋さんやオリーブの会社に就職したり、宿もたくさんあるので観光業も。
労働時間を減らしてやりたいことをやる時間を増やすとか、
島で働きながら自分のスタイルが見つかればいいですよね。
小笠原: 仕事をつくる人と雇われる人がいて、どちらでも移住は可能です。
たとえば東京で月50万円稼いでも45万かかる生活をしていたら、お金ないですよね。
小豆島は賃金は安いかもしれないけど、
10万稼いで家賃が2万だったら、そのほうがお金も貯まるし。
ひかり: 小豆島は働く場所はあるほうだと思います。
うちは、いまではいろんな人が来てくれるようになって、
移住の窓口のひとつになっていると思いますが、
KAINANもそんな窓口のひとつになってくれたらいいなと思います。
小笠原さんは、ほかに拠点はあるんですか?
小笠原: 台湾にもお店があるんですが、国内では女木島の海の家だったところを
スタジオ兼宿泊施設にして、いま新しい拠点になりつつあります。
ひかり: そこは私もイベントで行ったことがありますが、とてもいい場所ですね。
小笠原: 来年の芸術祭のときにはちゃんと泊まれるように、
できれば今年の夏くらいからいろいろ整備できたらと思ってます。
ひかり: 宿は需要があるから、大変だけど、商売としてはいいですよね。
人が来てくれることによってできる何かで、お金を得られるのはいいことだと思います。
小笠原: 瀬戸内の島はまだまだ可能性があると思いますよ。
芸術祭のときはフェリーの時間を気にしながら移動しなくちゃいけないでしょう。
いまも海上タクシーはあるんですが、なかなか気軽に利用できないので、
もう少し気軽に島を回れるようなしくみができたらと考えてるんですが、
これはなかなか大変そうです。
ひかり: まだまだ島を楽しくしてくれそうな小笠原さんの活動にも期待してます。
まずはKAINANのカフェのオープンを楽しみにしてます!
information
ゲストハウスKAINAN
住所:香川県小豆郡土庄町甲1776
information
迷路のまち
セトノウチ 島モノ家
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