連載
posted:2022.5.31 from:福岡県糸島市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
自分たちの食の一切をスーパーやコンビニに頼らずに
暮らしていくことはできるのでしょうか。
自らの手で住まいをつくり、電力を供給し
何ものにも頼らずに暮らす完全な「自給自足」の生活は難しいかもしれませんが、
衣食住を自分たちでまかなっていく暮らしに憧れて
少しずつでも自給自足の生活を実践している人がいます。
コロカルの連載「糸島での自給自足の日々を綴った ―田舎暮らし参考書―」を
執筆している畠山千春さんもそのひとりです。
お米をつくることからはじまり、洗剤やエネルギー、食肉の自給まで、
〈いとしまシェアハウス〉の自給自足のメソッドをご紹介します。
福岡県糸島で食べ物、エネルギー、仕事を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉を運営している畠山さんは、
上下水道が通っていない集落で、湧き水暮らしを実践しています。
自分たちが出した生活排水がそのまま畑や田んぼに流れ込むため、
化学的な洗剤などが使えない環境にあります。
日々当たり前のように食器洗剤を使っている人にとっては
想像がつかないかもしれませんが、畠山さんが実践する方法は
・汚れが落ちて
・お肌にやさしく
・環境にもよく
・さらに経済的!
・我慢しなくてOK!
な取り組みばかり。
食器洗いに使っているのは「米ぬか」と「ヘチマタワシ」。
油でギトギトになったお皿でも水で洗わず、そのまま米ぬかを振りかけます。
これまで数年間、米ぬかで食器洗いをしているそうですが
落ちなかった油汚れはほとんどないとのこと。
また、脱臭や手荒れ対策になり、
米ぬかにはビタミンEやフェルラ酸なども含まれているため保湿効果もあるそうです。
もうひとつの食器洗いの自給自足メソッドがヘチマタワシ。
ヘチマの繊維からつくられた100%天然素材のタワシで
プラスチックフリーなうえ、泡立ちもよく、使っていて気持ちがいいとのこと。
そのうえ、使い終わったら庭にポーンと放り投げておいても
自然に分解されるところが気に入っているそうです。
そのほかにも、洗剤を使わない衣類の洗濯方法についても教えてくれました。
記事はこちら:手軽に始められる“洗剤なし”生活! 食器洗い、洗濯、どんな方法があるの?
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「自分たちでつくれないからこそ、身の丈にあった分だけ大事にいただこう」。
そんな〈いとしまシェアハウス〉の生活スタイルでは卵は貴重品でした。
しかし、ニワトリを飼いはじめると想像以上にたくさんの卵を産む姿に
「こんなに贅沢に……卵を使ってもいいの!?」と感動したそうです。
産みたての卵はまったく臭みがなく、手づくりの餌をあげているので安心・安全。
庭で放し飼いをしており、ニワトリたちもストレスフリーです。
加えて、雑草をはじめ虫、悪くなった野菜、料理で出た生ゴミなど、
人間が食べられないものを食べて、食べられるものを生み出してくれる循環が生まれたそう。
ただし、ニワトリを飼ううえで気をつけなければならないことも忘れてはいけません。
まずは、当然ですが毎日世話をしないといけないこと。
なかなか家を空けられないうえ、糞の掃除も大変です。
次に、ニワトリをめぐる騒音トラブルもよく聞く話です。
特にオスは夜中に鳴いたりするため、ご近所とのコミュニケーションが欠かせません。
そして、卵を産まなくなったニワトリたちをどうするかということ。
一般的にニワトリの平均寿命は約10年といわれていますが、
2年目からゆるやかに産卵率が下がり、そこから5〜6年後にはほぼ停止します。
こういったニワトリたちをペットとして飼うこともできますが、
卵を産まなくても今までと同じようにエサを食べますし、
増えていくばかりでは家計の負担になりかねません。
ニワトリを飼うということは、ニワトリの生涯に最後まで責任を持つということなのです。
記事はこちら:産みたて卵に感動したり、癒されたり……憧れの“ニワトリ”との暮らし。
〈いとしまシェアハウス〉で食べるお肉は自給率100%。
イノシシやシカ、アナグマなど野生肉がメインで、
野菜や米と同じようにお肉も“自分たちで得る”ことを大切にしています。
お肉の自給率100%、といっても猟をするのは難しいですし、
量もさばけないので、お肉が食卓にのぼるのは自分たちで獲物をとったときや、
いただいたお肉をさばいたときなど、ハレの日にみんなで楽しむご馳走です。
イノシシやシカ、サルなどによる農作物被害は非常に深刻で、
〈いとしまシェアハウス〉でも一度で約4か月分の食糧にあたる被害を受けたことがあります。
ですが、里山は動物と人間の住処が重なる境界線のような場所。
だからこそ、自分たちが生きる場所は自分たちで守っていかなければいけません。
そして、野生動物から農作物を守り、自分たちが食べるお肉を自給するには
罠をつくり、毎日見回りをし、
罠にかかっていれば獲物にとどめを刺し、担いで帰って解体して食べる……。
一連の作業をこなすために、莫大な手間と時間、エネルギーが必要です。
それならば、自分がさばける分だけ、自分の身の丈に合う分だけ食べよう、と思い
この食事スタイルにたどり着きました。
お肉を食べることと、動物の解体はひと続き。
どちらも暮らしの一部であり、特別なことではないのかもしれません。
記事はこちら:まちで暮らしていた私が糸島に移住して、“狩猟”と“お肉の自給”を始めた理由。
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電力会社の送電網(グリッド)に頼らない生活を「オフ・グリッド」といいます。
エネルギーを100%自給する、完全オフ・グリッドの生活をするために
〈いとしまシェアハウス〉が行ったのは、
・太陽光パネルによる電力の供給
・供給した“直流”の電気を、家庭で使う“交流”への変換
1枚で275ワット発電する太陽光パネルを18枚。
合計約5キロワットの発電量となり、
これは、標準的な家庭の電気消費量を十分まかなえる電気量だそうです。
これまでも〈いとしまシェアハウス〉ではエネルギーの自給を目指し、
シェアメイトひとりにつき1枚、モバイルソーラーチャージャーを配布し、
そのエネルギーでスマートフォンを充電する取り組みをおこなってきました。
このモバイルソーラーチャージャーと比較すると約247倍。
ですが、これだけでは発電中、つまり太陽が昇っている昼間だけしか自給した電気は使えません。
つくった電気を貯めておくには蓄電池が必要です。
蓄電ができないとなると、夜に照明が使えなかったり、
冷凍庫の中のものが溶ける、インターネットが使えないなど
とにかく不便……。
まだまだエネルギーの100%自給とはいきませんが、
完全オフグリッドにするためには、少しずつでも自分たちのエネルギーを
自分たちでまかなっていくことが大切です。
記事はこちら:太陽光パネルで目指せ、エネルギー100%自給! 〈いとしまシェアハウス〉のオフグリッド計画・その1
どんなに食べものを自給していたとしても、
国民健康保険、税金、年金、車や農機具を動かすためのガソリン代など、
生きていくためにはお金が必要です。
お金そのものも自分たちで生み出せるようにならないと、
本当の意味での“暮らしをつくる”ことはできないのでは、と畠山さんは考えています。
現在の楽しい暮らしをずっと続けていくために
〈いとしまシェアハウス〉では、小さな仕事づくりに挑戦しています。
仕事づくりの軸となるのは、この3つ。
・地域の資源・人材を使うこと
・持続可能な暮らしを伝え、体験してもらうこと
・シェアメイトが楽しくとり組めること
せっかく里山で生活をしていても地域の暮らしに交わることなく、
都市部に出てフルタイムで働いてしまったら
地域での活動が減り、家は寝に帰ってくるだけの場になってしまい、
この地に集まった才能や時間、消費さえもまちへ流れる一方です。
そこで〈いとしまシェアハウス〉は、
できる限り自分たちの地域にある資源や人材を使って仕事をつくろう、
と決めました。
具体的には、使われなくなった集落の甘夏畑で甘夏狩りイベントを企画したり、
ご近所さんの管理する果樹園で採れる梅やビワをオンラインで販売したり、
お茶摘みをしてお茶づくりのワークショップをしたり。
地域の人たちがなかなか気づかない価値を発見するのが移住者の役割でもあり、
自分たちの力でどういうかたちでお金をつくり、循環させていくのか、
自分たちの伝えたいことを仕事にしてお金を稼ぐことで
“お金”の自給という考え方のひとつの方法かもしれません。
記事はこちら:モノではなく、プロセスを売って“お金の自給”を目指す! 〈いとしまシェアハウス〉の仕事のつくり方
都心を離れローカルに移住した人も、あるいは都心で暮らす人にとっても、
少しずつでも生活の一部を自分たちでまかなっていくことに憧れる人は多いと思います。
それは自分たちの暮らしについて考えることであり、
VUCAの時代を迎えた現代人にとって、
自らの生活を自らの手で自立させなければならないという
不安からくるものかもしれません。
この記事で紹介した〈いとしまシェアハウス〉のメソッドはほんの一部であり、
庭先で家庭菜園をすることも、廃材を利用してDIYすることも
小さな自給自足であり、人ぞれぞれの自給自足の暮らし方があります。
少しずつでも自分たちができそうなことから始めて
自給自足の範囲を広げてみてはいかがでしょうか。
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