連載
posted:2019.2.28 from:福岡県糸島市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。
writer profile
CHIHARU HATAKEYAMA
畠山千春
はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森
こんにちは。
「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。
「田舎暮らしをしたら、いつかニワトリを飼ってみたい」
これが、地方移住する前の私の小さな憧れでした。
産みたての卵を収穫しながら、かわいいニワトリに囲まれて暮らす……。
本や映画で見てはいたものの、実際の暮らしはどんな感じなんだろう。
産みたて卵はどんな味がするんだろう。
ワクワクした気持ちと一緒にこの集落へ引っ越して、6年。
今は念願叶って6羽のニワトリたちと一緒に住んでいます。
今回は、ユニークでかわいいニワトリたちのとの暮らしのなかで感じた
学びや発見、実際に飼ってみて大変だったことについて
お話ししたいと思います。
まずは、ニワトリを飼ってみてよかったところから。
これはもう、ニワトリを飼って何よりもよかった! と感じたところ。
産みたての卵は臭みがまったくなく、贅沢な卵かけご飯が心ゆくまで味わえます。
さらに手づくりの餌をあげているので、安心・安全。
庭で放し飼いをしているので、ニワトリたちもストレスフリーです。
今でこそ卵の自給率100%ですが、ニワトリを飼う前は、卵は貴重品でした。
「自分たちでつくれないからこそ、身の丈にあった分だけ大事にいただこう」
というスタンスで使っていたため、
ひとり1個卵を使う“ゆでたまご”なんて、贅沢中の贅沢!
ひとつの卵で8人のお腹をどうやって満たすか。
ときたま汁にしてみたり、豆乳を足して量増ししてみたり、
限られたものから知恵を絞っておいしいものを生み出す作業は
意外と楽しいものでした。
こういう暮らしが長かったからこそ、ニワトリがやってきてからは驚きの連続。
若い彼らが予想以上にぽんぽこ卵を産むものだから、
初めての収穫のときは、手の中にいっぱいの卵を見つめて
「こんなに贅沢に……卵を使ってもいいの!?」と感動で胸がいっぱいになったなあ。
これまでの暮らしでの卵の概念が覆るくらい、衝撃的な出来事でした。
よくよく観察してみると、ニワトリの卵って彼らの頭と同じくらいの大きさがあるのです。
毎日、自分の頭ほどの大きさの卵を肛門から出していると考えたらどうでしょう……。
私だったら、痛みで失神しているかも。
こうやってひとつひとつ、体を張って産んでくれているんだと思うと、
卵に対する想いも一層強くなります。
ニワトリたち、いつも本当にありがとう。
ニワトリが卵を産む姿が大好きすぎて、
「あ、産みそう」と思うとつい覗いてしまいます。
ニワトリとしてはあんまり見られたくないだろうなあ……ごめんね。
慎ましい卵生活を送ってきた私たちにとって、
卵が毎日増えていくのはうれしくもありつつ、
自分たちだけじゃ食べきれないなあ、と思う日もあります。
そんなときは、ご近所さんへおすそ分けです。
この集落ではニワトリを飼っている方がいないので、
皆さん大喜びしてくれて、お返しにたくさんのお野菜をいただきました。
田舎では「周りの人がつくっていないものをつくる」ことが大切。
我が家にとって、卵は食料でもあり、
ご近所さんとのコミュニケーションツールでもあるのです。
野菜の自給率が低い我が家は、
この「おすそ分け」や「物々交換」があるからこそ、
豊かな食生活を送れているのだと思います。
卵、ありがとう~!
庭で放し飼いにすると、ニワトリが草を食べてくれるので、
ぼうぼうだった庭の雑草もだいぶスッキリしました。
(庭で家庭菜園をしていると、その野菜も食べられちゃうので注意が必要ですが……)
さらにはニワトリたちの糞によって、土も豊かになります。
彼らを飼い始めて、小さく感動したことなのですが、
ニワトリって、その辺にいる虫、悪くなった野菜、料理で出た生ゴミ、雑草や野草など、
人間が食べられないものを「卵」というおいしい食べ物に変換してくれるのです。
おかげでちょっとした生ゴミも貴重なニワトリの餌になり、無駄になりません。
これだけでも、ニワトリってすばらしい! と思いませんか?
シンプルに、ニワトリはかわいい。
プリップリのお尻や、餌をあげるときの食いつき具合、
驚いたり怒ったり喜んだり、感情豊かな彼らに毎日癒されています。
我が家に遊びに来たゲストとも仲良くしてくれるので、
まちの人たちが生き物と触れ合う、いい機会になっているのかなとも思います。
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一方で、生き物を飼う、という面では大変なところもあります。
毎日お世話をしないといけないので、なかなか家を空けられないこと。
あちこちに糞をするので掃除が大変なこと。
それから、ニワトリをめぐる騒音トラブルも田舎暮らしではよく聞く話です。
特にニワトリのオスは夜中の3時頃に鳴いたりするため、
飼う前にご近所さんとのコミュニケーションが必須です。
我が家もお隣のお家が近いため、朝に鳴かないメスのみを飼い、
ご近所さんとも事前にやりとりをしています。
そして、最終的に卵を産まなくなったニワトリたちをどうするか、
これもニワトリを飼う前に考えなければならないことだと思います。
一般的にニワトリの平均寿命は約10年といわれていますが、
2年目からゆるやかに産卵率が下がり、そこから5〜6年後にはほぼ停止します。
(養鶏場では、産卵率が下がる1年半を目安に、食肉として出荷されることが多いです)
卵を産まなくても、ニワトリは今までと同じようにエサを食べますし、
日々のお世話も欠かせません。
こういったニワトリたちをペットとして生涯お世話できるのであればいいのですが、
手に余ったニワトリを山に放す、なんて話もたまに聞いたりします。
けれど、だいたいの家畜は野生では生きていけませんし、
周りの生態系を壊しかねません。
もし、我が家のニワトリたちが卵を産まなくなったら。
最終的にはニワトリたちを絞めて、ありがたくその命をいただくつもりです。
残酷に聞こえてしまうかもしれませんが……
これが私なりの“ニワトリの生涯に最後まで責任を持つ”向き合い方だと思っています。
ニワトリたちはかわいいですし、
彼らが健康で元気に暮らせるようにできる限りのことをしたい。
けれど、いつかの最後のときのこともきちんと意識しながら、
少しずつ気持ちを整理していこうと思っています。
食べて、糞をして、その糞で土が豊かになり、
その土で野菜が育ち、育った野菜をまたニワトリが食べる……。
私たちにとってニワトリたちは、
そういった小さな命の循環を一番近くで見せてくれる存在です。
彼らから学ぶことはまだまだたくさんあるだろうな、と思うと
ニワトリたちとの暮らしがもっと楽しみになりました。
これからも元気に、おいしい卵をたくさん産んで、
私たちの暮らしに癒しや豊かさをもたらすパートナーでいてほしいなあ。
いつもありがとう!
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海で釣ってきたイカを刺身にして、
鶏小屋から収穫したばかりの生卵と一緒にいただきます。
最高の贅沢!
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