連載
posted:2019.1.29 from:福岡県糸島市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。
writer profile
CHIHARU HATAKEYAMA
畠山千春
はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森
こんにちは。
「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる
〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。
今回のテーマは、いとしまシェアハウスの「お肉」のお話です。
(記事のなかに動物の解体などの生々しい写真が入りますので、
苦手な方はご注意くださいね)
みなさん、ここ数日でどんなお肉を食べましたか?
居酒屋で食べた鶏の唐揚げ、
ふらっと入った中華屋さんで食べた酢豚、
デートで食べたちょっと高級な牛の厚切りステーキ。
普段食べるお肉といえば、
鶏肉・豚肉・牛肉あたりが一般的ですよね。
でも、お肉の自給率100%の我が家はちょっとだけ違います。
よく食べるお肉は、イノシシやシカ、アナグマやカモなど、野生肉がメイン。
お肉を食べるためには、
山に入って罠をかけ、イノシシをとったり、
ご近所さんからいただいた野生動物をさばいたり、
飼っている鶏をさばいたり……。
我が家では、野菜や米と同じように
お肉も“自分たちで得る”ことを大切にしています。
「お肉も自給してみよう」と思ったきっかけは、東日本大震災でした。
恥ずかしながら私は、震災を経験して初めて、
自分たちが使う“電気”のことを“自分ごと”として考えられるようになりました。
それまでは、電気がどうやってつくられ、私たちの家までやってくるのか、
知識では知っていても、どこか他人ごとのように考えていたのです。
そして事故が起きてしまってから、そのプロセスにきちんと向き合えていなかった
自分の無責任さを、深く深く反省しました。
できることなら、誰かを傷つけたり、環境を壊したり、
自分で責任をとれないような仕組みのものを使いたくない。
そして、こういったシステムに依存する暮らしから一歩踏み出すためには、
今自分が手にしている「コト・モノ」が辿ってきた道筋をきちんと知り、
そのうえで、その「コト・モノ」とのつき合い方を考えることが必要だ、
と思うようになったのです。
周りを見回してみると、世の中にはプロセスが見えにくくなっているものが
たくさんあることに気がつきました。
お肉も、そのなかのひとつです。
スーパーに並ぶ切り身のお肉のその先を知るために、
動物の解体の勉強を始め、その後は鶏を飼って絞めて食べることにも挑戦しました。
さらには、飼うだけでなく、山にいる野生動物と1対1で対峙し、
自分の力でお肉を手に入れられるようになりたい、と
2013年に狩猟免許をとったのです。
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きっかけは東日本大震災でしたが、
今、私がこの糸島の小さな集落で狩猟をする理由はふたつあります。
ひとつ目は、自分たちが食べるお肉を自給するため。
猟を始めてから、我が家のお肉の自給率は100%になりました。
と言っても、7~8人分が毎日食べるお肉を手に入れられるほど
猟をするのは難しいですし、量もさばけないので、普段の食生活はゆるいベジタリアン。
食材は野菜がメインで、お魚もお味噌汁の出汁にする程度です。
お肉が食卓にのぼるのは、自分たちで獲物をとったときや、
いただいたお肉をさばいたとき、くらい。
我が家にとってのお肉は、誰かの誕生日だったり、
お客さんが来たときだったり、ハレの日にみんなで楽しむご馳走なのです。
(もちろんお土産などでいただいたときは、ありがた~くいただきます!)
「お肉を食べる」プロセスを全部実践しようとすると、とにかく大変!!
自分で罠をつくり、山にかけて、毎日見回りをし、
罠にかかっていれば獲物にとどめを刺し、担いで帰って解体して食べる……
一連の作業をこなすために、莫大な手間と時間、エネルギーが必要です。
それならば、自分がさばける分だけ、自分の身の丈に合う分だけ食べよう、と思い
この食事スタイルにたどり着きました。
私には、これくらいのバランスがちょうどいいみたいです。
そして、狩猟をするふたつ目の理由は、
集落の畑や田んぼを守るためです。
今やイノシシやシカ、サルなどによる農作物被害は非常に深刻で、
全国での被害金額は約164億円(平成29年度・農林水産省より)にも達しています。
私たちも金柵や電気柵などでイノシシ対策をしていますが、
一番被害の大きかった年は、収穫した約460キロの稲のうち、
約140キロをイノシシに倒されてしまいました。
この量は、私たちの約4か月分の食糧にあたります。
イノシシに稲を倒されるとお米に獣臭さがついてしまい、
ひどいものは食べられなくなってしまうのです。
私たちが住む里山は、動物と人間の住処が重なる、境界線のような場所です。
だからこそ、自分たちが生きる場所は自分たちで守っていかなければいけません。
野生動物たちは賢く、たくましい生き物ですから、
こちらが知恵を絞って本気でやりとりしていかないと、
畑も田んぼも、あっという間にダメになってしまいます。
これは、動物とのやりとりだけに限りません。
ぼうぼう生えてくる植物たちも、手を入れなければ
コンクリートがはがれて道がなくなり、ライフラインが断たれてしまったり、
竹が畳を突き破り、家が壊れるなどの大きな被害につながります。
人間が土地を切り開き、暮らすということは、
ほかの植物や生き物たちの住処を奪うことになるかもしれません。
私たちが住む集落も、どんな都会でも、
ずっと昔はたくさんの生き物が住んでいた場所だったのだと思います。
けれど、そうやって自分たちが生きる場所をつくりながら、
命をつないできたのだと思います。
私たちは日々、さまざまな生き物との“関わり合い”のなかで生きています。
例えば、野菜を育てるにも、大小さまざまな虫たち、
微生物、たくさんの命が関わっています。
畑を荒らす野生動物がいれば、作物を守るために駆除の対象になることだってあります。
野菜ひとつとっても、その向こう側には途方もない数の命が関わっています。
なにかの命を奪うことは、しんどいです。
けれど結局、私はほかの生き物たちの命なしに生きることはできません。
だからこそ、その事実としっかり向き合い、感謝して、身の丈にあった分をいただく。
こういう関わり合い方が、自分には合っているのだと気がつきました。
もちろん、正解はひとつではありません。
いろいろな考え方・向き合い方があっていいと思います。
この記事をきっかけに、普段食べているもののその先を
少しでも想像してもらえたらうれしいです。
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この長~~い記事を、最後まで読んでくださってありがとうございました!
まだまだ書きたいことはあるのですが、それはまた、いつかの機会に。
最初、この記事を書く際に、狩猟や動物の解体をどう表現しよう? と悩みました。
繊細なテーマであり、答えがなく、人によってさまざまな考え方があるためです。
動物の解体はタブーとされ、今までずっと隠されてきました。
また、過度に“特別なもの”と認識され、見ない・見せないようにすることで、
“食べる人”と“お肉を生み出す人”、“食べものの命”の分断が進み、
食べものの先にある命や、食べものをつくってくれる人のことを
想像できない環境が増えてきたように感じます。
お肉を食べることと、動物の解体は、ひと続き。
どちらも暮らしの一部であり、特別なことではないと私は思っています。
食べもののプロセスを知ることで、多様な意見を持つ人たちが語り合い、
自分なりの向き合い方を見つけてもらえたらうれしいです。
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夏の学生合宿ではアナグマをさばいて食べました。
(この時期アナグマはとれないので、丸ごと冷凍した個体を解体しました)
自分たちでさばいたお肉は一段とおいしい! と言ってくれました。
お疲れさま!
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