連載
posted:2025.3.31 from:新潟県 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
山や海、自然が身近にある暮らし、古い建物を改修しながら住まう人、
都市と地域での多拠点生活など、コロナ禍を経て、住まいを選ぶ自由度は高まっている。
「非日常的な旅」と「日常の暮らし」の境目はなくなりつつあり、
たくさんの選択肢があるからこそ考える、これからの暮らしと、住まい。
writer profile
Rihei Hiraki
平木理平
ひらき・りへい●静岡県出身。カルチャー誌の編集部で編集・広告営業として働いた後、2023年よりフリーランスの編集・ライターとして独立。1994年度生まれの同い年にインタビューするプロジェクト「1994-1995」を個人で行っている。@rihei_hiraki
credit
撮影:今井達也(ナナイログラフ)
こどもが生まれると、住まいに求める条件は大きく変わる。
小さな命を守り、健やかに育てるためには、快適で安心できる住空間が不可欠だ。
そんな理想の子育てを実現するうえで、
マイホームの購入を希望する若者夫婦は多いと思うが、
住宅価格の高騰やそもそも子育てや教育にお金がかかることもあり、
購入を躊躇してしまう子育て世帯は多いのではないだろうか。
住宅購入に悩む若者夫婦を支援しようと、
新潟県が取り組んでいるのが『にいがた安心こむすび住宅推進事業』という制度。
県内にある築10年以上の空き家を子育て世帯向けにリノベーションし、
販売する事業者に対して最大350万円の補助金を支給するこの制度は、
安心安全に子育てに取り組める住宅が
相場よりも求めやすい価格帯で売り出されることにつながるため、
間接的に子育て・若者夫婦世帯への間接的な経済支援につながっている。
家族みんなが安心して快適に過ごせる住まいとはどのようなものなのか。
新潟県が子育て世帯に向けて運営している
ウェブマガジン『にいがたのつかいかた for Family』で
取り上げてきた取材事例のなかから、子育てしやすい住まいづくりのヒントを探る。
まずは長岡駅から徒歩15分の立地にあるこちらの住宅。
保育園や小学校が徒歩10分圏内にあるほか、
長岡市の子育て支援施設〈子育ての駅ぐんぐん〉や
ショッピングセンター〈原信〉も生活圏内にあり、
立地だけでも子育て世帯にとって大きな需要があるだろう。
リノベーションを手がけたのは
〈セキスイハイム〉のアフターサービスやリフォームを担当する
〈セキスイファミエス信越株式会社〉。
同社は2021年から中古住宅をリノベーション・再販する
「Beハイム」事業を展開しており、
その独自基準が今回の県の事業の認定基準と合致していたことから、
積極的に参加を決めたという。
リノベーションを担当した〈セキスイファミエス信越株式会社〉の(左から)黒河内伸治さん、大島浩史さん、中沢美代子さん。
この住宅のリノベーションでは、
「家族同士のふれあいをいかに自然に実現させるか」に重点を置いたと担当者は語る。
玄関を上がるとすぐにウォークインクローゼット、
そしてLDKの扉を開けてすぐ横には脱衣所と浴室がある。
こうした細かい間取りの配慮が家事負担を軽くしてくれると同時に、
こどもの存在をちゃんと把握できることにもつながる。
玄関を上がってすぐ左手にあるウォークインクローゼット。アクセスしやすい。
「ウォークインクローゼットで上着を脱いでリビングの扉を開ければ、
すぐ横に浴室があります。
そこで手洗い・うがいを済ませてから、リビングやダイニングへと入っていけるので、
お子さんもストレスなく家の中に入っていけますし、
親御さんもお子さんの動きをちゃんと把握することができます。
生活空間のなかでどれだけ家族が顔を合わせられるかは気をつけて設計した部分です」
特に大きなリノベーションポイントだというのはLDK部分。
もともとリビングとダイニングキッチンが壁で分断されていたが、
壁を取り払い、両者の間に「フリースペース」を設置した。
この空間は、こどもの遊び場や勉強スペースとして機能し、
料理をしながらこどもの様子を見守れる設計となっている。
ダイニングからフリースペース、リビング、奥の和室まで一直線に望める。
リノベーション前のリビングスペース。ダイニングキッチンは左の扉の向こう側にあり、それぞれどんな様子か確認することはできなかった。(写真提供:セキスイファミエス信越株式会社)
こうした大幅な間取り変更を可能にしたのは、
セキスイハイムの「ボックスラーメン構造」によるものだ。
この構造は耐震性にもすぐれており、
さらに定期的に住宅健診が受けられる長期サポートシステムもあるとのことで、
子育て期だけに最適な家というわけではなく、
こどもが巣立ったあとも長く家族が暮らし続けられる家でもある。
ボックスラーメン構造の特徴がよくわかる高床部分は車庫として使えるほか、趣味を楽しむ場所としても使えそう。
そのほかにも、玄関には録画機能付きインターホンとスマートキーを設置し、
こどもだけの在宅時も安心。
また、住宅全体にシックハウス症候群対策を考慮し、
低ホルムアルデヒドの建材(F☆☆☆☆)を使用。
さらに引き戸にはドアクローザーを導入するなど、
こどもの安全を守る細やかな配慮が施された家だ。
気になる価格だが、同エリアのセキスイハイムの新築住宅と比較すると、
なんと1000万円ほど安価になっているという。
しっかりとリノベーションすると、なんだかんだ予算が嵩張ってしまうものだが、
県の施策として信頼がおけるリノベーションが施されたこの家が
これだけお得な価格で買えるのは、子育て世帯にとって大きな魅力となるだろう。
機能と価格のすぐれたバランスが、
今の子育て世帯にとって最も重要な要素かもしれない。
◎にいがたのつかいかたfot familyの記事はこちらから
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亀田駅から徒歩ですぐ近くのこちらの住宅も、
周辺に幼稚園や公園、買い物施設が揃っており、全方位に便利な立地が魅力だ。
このリノベーションを手がけたのは〈株式会社風間建築事務所〉。
これまで新築を中心に手がけてきた建築事務所だが、
「社会課題となっている空き家を有効活用し、暮らしやすい住まいを提供したい」
という思いから、この事業に参画したという。
リノベーション後の家は、一見すると中古住宅とは思えないほどスタイリッシュ。
外壁や室内には木材がふんだんに使われ、温かみのある空間が広がっている。
特に無垢材の床は、足元からやさしいぬくもりを感じられ、
空間から受ける雰囲気と実際に感じる温かみがマッチして、
この家の居心地をさらに良いものにしてくれる。
以前は壁で囲まれていて独立していたというキッチンスペースを、壁を取り払い、対面式に。
風間建築事務所の代表・風間広大さんは、
自身の建築における木材の重要性をこのように語る。
「我々の物件では、
手が触れられる部分は可能な限り外壁を木で覆うようにしているんです。
木は使い込んでいくことによってその家族にしか出せない“味”が生まれます。
傷やへこみがあっても、その分だけ愛着も出てきますよね。
樹脂やアルミのシートはお手軽ですが、
そうした工業製品は何十年後かになったら
同じ規格のものが手に入るとは決して限らない。
木は持続可能な家づくりを考える上でも最適な材料です」
風間建築事務所の代表・風間広大さん。
実際にこの家に暮らすSさん夫妻も、
この家の木の温もりに惹かれたのが購入の大きな決め手になったという。
「夫婦ふたりとも木が多く使われている落ち着いた家を希望していたので、
この家の雰囲気がとても好きです。
特に床が無垢なのは、家を選ぶ際のとても大きなポイントでした。
日々暮らしていくなかでこういう家が一番落ち着けると思っています」
さらに、間取りにも大きなリノベーションを加えたことで、
生活動線も育児や家事の負担が少ないように配慮されている。
玄関にはシュークロークとファミリークロークを設け、
家族みんなが玄関の近くで身支度が完了できるように。
洗濯スペースも工夫され、洗面所のすぐ隣に物干し場を配置。
洗濯から干す、収納するまでの動線がスムーズになっている。
こうした洗濯関連の動線を重視する若者夫婦は多いという。
Sさん家族。手前にある円形のダイニングテーブルは、こどもが走り回ってぶつかったとして大きな怪我がないように円形になっている。
また、この家は中古物件のリノベーション住宅のなかでも数が少なく、
「にいがた安心こむすび住宅」でもまだ数軒しか申請のない
「雪国型ZEH(ゼッチ)※1」の基準をクリアした省エネ住宅でもある。
気密性と断熱性を高めることで、冷暖房費を抑え、
1年中快適に過ごせる仕様になっている。
※1 ZEH(ゼッチ)とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのこと。断熱や設備により大幅な省エネルギーを実現し、同時に再生可能エネルギーを導入してでエネルギー消費の収支をゼロとすることを目指した住宅。
現在は間仕切りを設けず1部屋になっている2階の部屋。将来的にこどもが増えた際には、真ん中で分けることで2部屋にすることができる。もともとは1部屋で、少し面積が小さかったというが、吹き抜け部分を埋めることで2部屋分の床面積を確保した。
当初は新築を検討していたSさん夫妻は、
理想の立地では予算が合わず悩んでいたという。
そんなとき、この物件を紹介され実際に家を見てみると
「新築に近いレベルまでしっかりと改修されていると知って」すぐに購入を決めたとか。
アパートからマイホームに移り、今では自分の家を持つ喜びを噛み締めている。
「ガレージができたことで趣味の車いじりがより楽しめるようになった」と
うれしそうに話していた。
Sさん夫妻の話を聞いていると、こどもだけでなく、
こどもの成長を支え、見守る両親にとっても心地よい家であることが
子育て世帯に真に配慮された家といえるのではないだろうかと思わされる。
こどもの幸せと親の幸せ、そのふたつが重なった家は幸せな笑顔で包まれていくだろう。
◎にいがたのつかいかたfot familyの記事はこちらから
家族の暮らしは、家のかたちひとつで大きく変わる。
毎日の動線がスムーズになれば、家事負担も減り、こどもとのふれあいの時間も増える。
こどもの安全と自由が確保された家ならば、家族みんなの心にゆとりが生まれる。
新潟県の「にいがた安心こむすび住宅」は、
そんな家族の幸せを支える住まいの選択肢のひとつ。
これらの事例を参考に、
自分はどんな家で子育てしてみたいのかを考えてみてはどうだろうか。
information
にいがた安心こむすび住宅
Web:にいがた安心こむすび住宅推進事業
※この事業は2025年度も継続されます。
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