大分・農家民宿「雲中坂」前編

地元の方と一緒に食卓を囲む。

今年の1月に、コロカルの撮影で大分県竹田市を訪ねた。
以来、その魅力に強く引き込まれている。
澄み切った空気と満天の星空、雄大な九重連山、美味しい椎茸に豆腐。
それに、何と言っても地元の方々がとても温かくて心地がよい。
今回の旅だけではその魅力を味わい尽くせないと思い、3月に再び訪れることを決めた。

航空券とレンタカーを手配、さて宿泊先をどうしたものか。
せっかくならばホテルや旅館ではなく、地元の方と交流できるような民宿に泊まりたい。
以前、取材でお世話になった「まちづくりたけた」の子安史朗さんに相談をしてみた。
すると、最高のところがあります! と紹介してくださったのが「農家民宿」。
一般のご家庭で宿泊を受け入れているのだそう。
どんな出会いが待っているのか、期待に胸がふくらんできた。

3月中旬。
熊本空港から車を2時間ほど走らせると、農家民宿「雲中坂」に到着した。
「いらっしゃーい」と、張りのある声でお母さんが出迎えてくれた。
居間へおじゃますると、そわそわした様子でお父さんが待っていてくれた。

「よろしくお願いします」

照れくさそうに笑みを浮かべるお父さん、とても優しそう。
羽田野忠夫さん、あき子さんご夫婦。

ちゃぶ台のある広い居間は、どこか懐かしくてほっとする。

母「疲れたでしょ~」

東京からおよそ5時間の旅路。
たしかに疲れたけれど、ふと見るとちゃぶ台の上にはご馳走がずらり。
それを見たら、とたんに疲れが飛んでいった。

テツ「美味しそうですね~」

母「ごはんにしましょうか、ね」

はい。

農家民宿の魅力のひとつは、家主さんと一緒に食卓を囲めること。
(宿によっては、別の場合もあります)
地のものを使った美味しいごはんをいただきながら、
いろんなお話をうかがうことができる。
季節ごとに移り変わる農作物のこと、昔から地元で愛されている料理、
その土地ならではの食材や調理法。
一緒に食卓を囲むこの時間を通じて、地元の方の暮らしを垣間みることができる。
これが、旅をするなかで何よりも楽しく貴重な経験だと思う。

さて、今晩も食卓を囲んで

「いただきます!」

真っ先に目に飛び込んできたのは、つやつやとした椎茸の含め煮。
肉厚な椎茸にこってりと味がしみ込んでいて、なんとも美味しい。

母「これ、裏の山で採ってきたんよ」

ご自宅で椎茸を栽培してるなんて、さすがは椎茸の里、竹田市。
さてお次は、みずみずしい刺身蒟蒻に箸を延ばしてみる。

父「これ、わしが作ったんよ」

蒟蒻もお手製とは、すごい!
お客さんが来るときには、ゆっくりと時間をかけて作るのだそう。
柔らかくてシュワシュワとした口触りは初めての経験。
蒟蒻芋の香りが濃くて優しくて、とっても美味しい。

酢味噌をかけていただく。

母「その漬け物も、畑で採れた大根で作ったの、食べてみて」

きれいな赤い色に染まった漬け物、甘酸っぱくてやみつきになる。
その隣にある丼へと手を伸ばす。

父「そのふき味噌も、裏山で採れたふきやし」

ご飯にたっぷり乗せていただくと、口いっぱいに春の香りが広がった。

食卓に上がっている料理のほとんどが、素材からすべて手作りなのだと知った。
あの作り方もこの作り方も聞きたい、と、つい興奮してしまう。

母「たいていのもんは裏山で作っとるねぇ、お父さん」

さきほどから話に上がる裏山というのは、どんな宝の山なのか、とても気になる。

テツ「あの、その裏山には私も連れて行っていただけたりしないでしょうか」

父「うん、ええよー。明日一緒に行く?」

お父さんが嬉しそうに微笑むものだから、私もとても嬉しくなってしまった。

子安さんご夫妻もご一緒に。

食事を済ませ、早々に布団のなかへ入ったものの、なかなか目がつむれない。
遠足前の子どもの気分、明日が待ち遠しい。

いざ、食材の宝庫へ。

翌日。薄曇りの天気のなか、軽トラに乗って山を目指す。
車を少し走らせると到着した。
ここからは徒歩で登っていくのだそう。

今回は、3才になる我が子と一緒。
お母さんに甘え、おんぶで山の中へ連れて行ってもらう。

父「こっちはブルーベリー、こっちはみかん、こっちにはたらの芽ができるんよー」

山の中を案内してくれるお父さん、表情がはつらつとしている。
湿った土を踏みしめながらさらに奥まで進んで行くと、
そこには椎茸のほだ木がずらりと並んでいた。

原木からニョキッと生えている椎茸の姿は、とてつもなくかわいくて神秘的。

母「ほら、ここにも、ここにも」

慣れた手つきで、次から次へと椎茸を収穫するお母さん。
あっという間に、たくさんの椎茸がエプロンに包まれていた。

父「ほいだら、ふき採りにいく?」

足下に注意しながら、お父さんの後を追う。

父「ほらここにある、あ、ここにも」

斜面をよーく観察してみると、あちこちからふきが顔を出している。
みな、終始無言で地面とにらめっこ。

父「さ、こんだけ採れたらいいじゃろ~」

あっという間に、きれいな薄緑のふきでかごが一杯になった。

母「帰りに、畑も寄って行こか」

レタスやネギを収穫する。
水分をたっぷりと含んでいる様子が、いかにも美味しそう。

お孫さんの勘太くんも一緒に野菜を収穫。

ありとあらゆるものがこの山と畑で揃うのか。

母「買うっていったら魚くらいなもんで、あとは全部つくっとるよ。
楽しいよ~、工夫して育てて、それを料理して美味しく食べる」

農作物を育てることはまったく苦ではなく、むしろ毎日の張り合いなのだそう。

母「お父さんなんか、食べ物以外もなんでもつくるよ。
居間のちゃぶ台もそうやし、薪ストーブとか、なんでも自分でつくってしまう」

男の中の男だ、素敵すぎる。
お母さんの傍らで静かに佇むお父さん、少し誇らしげに鼻を膨らませている。
自分でつくれるものはつくる、その時間を楽しむ。
そんなシンプルな暮らし方が、とても豊かに思えた。

羽田野さんご夫婦の農家民宿「雲中坂」では、
農作業や蒟蒻作りも教えてもらうことができる。
土地の暮らしの一部を体験することで、もっと竹田市を好きになってほしい。
そういう気持ちから、この民宿を始めたのだそう。
おふくろの味、自然のなかでの体験、そして何より
地元の方の暮らしや思いやりに触れることができるのが、この農家民宿。
その暮らしに一歩入り込んでみると、旅の景色が少し違って見えた。

後編に続く。
次回、収穫した食材を使って、お母さんが料理を作ってくれます。

Information


map

雲中坂

住所:大分県竹田市大字竹田993番地

TEL:0974-62-4838

text & photograph

津留崎徹花 Tetsuka Tsurusaki
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

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