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勝山 Part2
のれんのまちは、こうして生まれた

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.007

posted:2012.3.14   from:岡山県真庭市勝山  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:内藤貞保

旧城下町・勝山に暮らす染織作家の加納容子さん。
4回にわたり山崎さんとの対談をお届けします。

はじめは1枚、そして町内16軒にのれんがかかった。

山崎

ただブラブラと歩いてこんなに楽しく、気持ちのいいまちって、
なかなかないですよね。

加納

そうでしょう。これといった名物土産もないんですよ。
観光客向けに鎌倉の鳩サブレーみたいなのを作れば、というご提案も
時折いただくんですけど。

山崎

いや、このままがいいですよ(笑)。

加納

ね。わたしもそう思います。

山崎

たしか、のれんのまちが生まれたのも、観光のためではなかったんですよね。
以前に少し話をうかがったときに、そこがいちばん面白いなって……。

加納

ええ、そうなんです。

山崎

でも、何かしらきっかけはあったわけですよね。

加納

はい。勝山に戻ってしばらくして、こちらで染織のパートナーができ、
お酒の配達も子育てもしながら、ふたりで草木染めをするようになるんです。
そのときに、古い家だから表にのれんでもかけようかって、なんとなく気軽に。
そのときにデザインしたのが、今のうちののれんなんです。

山崎

なんと、そんなに自然に始まったんですね!

加納

そう。で、そうやって掲げられたうちののれんを見て、
同じ町内のYさんが、春夏秋冬ののれん4枚をオーダーしてくださったんですよ。

山崎

それはうれしい。

加納

うちのはデザインがひとつなんですけれど、彼のところは四季で変わるわけです。
それを見て近所のご婦人方がまた、あら、いいわね。なんて。

山崎

そりゃあ、町内で話題になりますよね。

アンティークカー柄ののれん

のれんの下のアンティークカーも看板代わり。

自転車ののれん

自転車屋さんには自転車ののれん。

お茶屋さんののれん

あれから16年。今では110枚ののれんが勝山のまちを彩る。

暮らすひとが、まちが、楽しくなるために。

山崎

けれど、のれんも決して安いものではないですよね。

加納

はい。はじめに「じゃあ、町内16軒で作ろうか」ということになったとき、
もちろんお金の話になりました。

山崎

どうやって解決していくんですか?

加納

件のYさんが、
「町並み保存地区なんだから、整備事業の助成金として申請してみよう」
と言い出したんです。外から見えるものだからって(笑)。

山崎

そうか、なるほど(笑)。
でも……ハードじゃないから、なかなかすんなりとは通らないでしょう?

加納

ところが、粘っているうちに「面白い」って言うひとが現れて、
うまくいったんです(笑)。
それで、はじめの16軒は資金の3分の1を助成してもらいました。

山崎

それはすごい。

加納

16軒にのれんがかかると、すぐにメディアが面白がって
取材してくださったんです。

山崎

ほう。それもラッキーでしたね。

加納

すると、うちも、うちもって少しずつ輪が広がって、
助成金の受け皿となるべく事業体も立ち上がって。

山崎

個人では助成金が取れないから、任意団体を作るわけですね。

加納

はい。ただ、プロジェクトといっても、
「やりたくなったらやる」というまちのみなさんの思いを尊重しようね、
というのがはじめからのコンセプトなんです。
観光のためにやるんじゃないよって。そこだけは大事にしたいって。

山崎

そこですよね。今までは、「観光まちづくりのために」とか
「一斉に」とか「みんなでルールを決めて」とか、
そういう風潮があったけれど、無理をするのはよくないんですよ。
やりたいと思い始めたひとがまず個人の意思でスタートして、
それが広がって楽しくなったね、というのがいちばんいい。

加納

つまり、このまちで暮らすわたしたち自身が、
疲れず楽しく仲良く生きていくために何をしようか、という気持ちが、
たまたまのれんに向かったということです。
だから、プロジェクト16年目にして、
ことし初めてのれんをオーダーするひともいる。それでいいんです。

山崎

いい話だなあ。
加納さんの話を聞いていると、すがすがしい気分になりますよ(笑)。

(……to be continued!)

山崎亮さん

山崎「わあ、これ好きだな。ユニークなのもあるんですね!」

加納容子さん

加納「みなさんに、うちののれんが一番!って思ってほしい」

profile

YOKO KANOU 
加納容子

1947年岡山県勝山生まれ。女子美術短期大学デザイン科、生活美術科卒業後、29歳で勝山にUターン。1996年に勝山町並み保存地区にて、のれん制作開始。翌年、生家にて「ひのき草木染織工房」を立ち上げる。染織作家/「勝山文化往来館ひしお」館長。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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