連載
posted:2022.7.13 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
「がんばるなんて、当たり前なんだよ。がんばるから、生きていて楽しいんだよ」
ゴールデンウィークに旧美流渡(みると)中学校で開催した、
地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』と、
一昨年、この地に移住した画家・MAYA MAXXさんによる『みんなとMAYA MAXX展』。
その反省会の席でMAYAさんは、みんなに語りかけた。
この日集まっていたのは、会場で木工や陶芸、ハーブティーブレンド、
キッチン雑貨などを販売したり、飲食ブースを出したり、
イベントを行ったりしたメンバーたち。
今年は、7月と9月にも同様の展覧会を計画中のため、反省会の場でも、
今後どうするのかについて熱のこもった話し合いが行われた。
年3回の展覧会となると、作品をどんどんつくり出さなければ間に合わない。
しかも、来場者を飽きさせないように、つねに何かしら
新しい視点を盛り込んでいかなければならない。
「来場者数とか全体の売り上げとか、そんな数字は一切関係なくて、
大切なのは自分が成長をすることだよ」
MAYAさんは、そう続けた。
年3回にしようと発案したのはMAYAさん。
ハードな状況をあえてつくり出すことによって、ここに関わるメンバーが、
いつも以上の力を発揮できたらと考えての決断だった。
5月の展覧会では2週間でおよそ2000人が訪れた。
みんなゆったりと会場を楽しんでくれたようで、
「山あいの地域で、自分なりのものづくりをやっている人たちが
いることを知って元気が出た」や
「この学校の卒業生です。校舎をこうして利用してくれていることがうれしい」
という温かなメッセージが寄せられた。
連日、飲食ブースもにぎわって、毎日ほぼ完売状態。
出店メンバーは大きな手応えを感じていたようだ。
そして期間中、「次の開催まで、あと65日!」と私たちは心のなかで唱え、
7月の展覧会に思いを馳せていた。
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この原稿を書いている時点で、7月の開催まであと2週間と迫り、
メンバーがどんなものを出すのかがだんだんと明らかになってきている。
例えば、お店を持たずイベントを中心に出店している〈Calm pizza(カームピザ)〉。
前回の出店では注文が立て込むと45分待ちになることも。
そこで、新たなピザ窯を仕入れてスケールアップを考えている。
また、〈アトリエ遊木童〉と〈木工房ピヨモコ〉は、
前回と同じ音楽室で家具の展示を計画中だ。
今回新しく取り組むのはフレーム。
木の肌合いを生かしたシンプルなもので、MAYAさんの絵を飾るためにつくられた。
ほかにも万字地区にごはん屋さんをつくろうと準備中の〈Peoples(ピーポーズ)〉は、
前回はパスタを提供したが、今回はかき氷。
素材にこだわる〈Peoples〉は、純水の氷を使い、定番シロップのほかに、
同じ万字地区でハーブティーブレンドを行っている〈麻の実堂〉とのコラボで
ハーブシロップも出す予定。
こんなふうに、それぞれが新しい展開を模索しているところだ。
さらに不思議な巡り合わせを感じることもあった。
会期中のイベントは、参加メンバーがこんなことをやってみたいという企画を集めて
つくっているのだが、今回は海外出身のミュージシャンのライブがふたつ決まった。
アンデス民族音楽のバンド〈ワイラ ジャパン〉と
ギニア出身のアフリカ太鼓の奏者、ソロケイタさんのライブだ。
どちらもちょうど北海道ツアー中で、間をつないでくれている人たちが、
旧美流渡中学校での活動に興味を持ってくれたことがきっかけで実現することとなった(!)。
資金が潤沢にあるわけでもなく、ほとんど手弁当でやっている活動なのだが、
回を重ねるごとに内容が充実していくのは、主催をしている私たちにとっても
思いがけないサプライズだった。
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「がんばるなんて、当たり前」と言い切った(!)MAYAさんも日々制作を行っている。
MAYAさんは、2室ある教室に新作を飾る『みんなとMAYA MAXX展』に加え、
『みる・とーぶ展』にも参加してグッズや絵本の販売を行う。
新作絵画のテーマはリス。
前回のシカに続き、北海道ではよく目にする動物だ。
毛の1本1本を筆で描くのが楽しいと、さまざまな大きさの画面で描いている。
実は先月までは描く方向性が定まらず、
「年3回すべて新作っていうのは、よほどのことがないと難しい」と
少し弱気になるときもあった。
しかし、何かを吹っ切ったかのように、
ある時期から猛烈に制作を始めたのだった。
私も含め『みる・とーぶ展』のメンバーは、机の上に作品や商品を並べて販売する。
その机ひとつを埋めるのに四苦八苦している身にとって、
MAYAさんの規格外のスケールには本当に驚かされる。
展覧会の準備のほかにも、週末にはワークショップやイベントをたびたび開催していて、
旧校舎にみんなで集まって活動する時間が多くなった。
7月のイベントでクラシックのコンサートを行う市民グループが音楽室で練習したり、
MAYAさんたちが大きなクマの顔の立体を制作していたり、
校舎のガーデンで〈麻の実堂〉の笠原麻実さんがハーブのお世話をしていたり。
そして、メンバーの子どもたちがグラウンドを駆け回り、
ときどきみんなでごはんを食べることも。
さらに、これはいずれじっくり連載で書きたいと思っているのだが、
この地域で活動を続けるアフリカ太鼓の奏者・岡林利樹さんを中心にした
〈みるとばぶ〉というバンドがあって、そこに今春から
みる・とーぶのメンバーも加わって、新生〈みるとばぶ〉が誕生している。
前回の展覧会のフィナーレにライブを行ったのを皮切りに、
バンド活動を継続中だ(本気で週1、練習している!)。
「毎日が文化祭のようだね」
メンバーとそう語りつつ、それそれの仕事に追われながら
1日があっという間に過ぎていく。
MAYAさんに叱咤激励されながら、私たちは年3回の展覧会を経て、
自分の予想を超える地点まで進むことができるのかもしれない(なんとか走り切りたい!!)。
7月16日からの展覧会に、ぜひみなさん足を運んでくださったらうれしいです!!
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みんなとMAYA MAXX展
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