連載
posted:2022.6.29 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
大学在学中に美術系の出版社で働くようになってから約30年、編集の仕事を続けてきた。
どんな本をつくっていても何かしらの発見やワクワク感があって、
この仕事は自分に合っていると日々実感している。
けれど時々、自分の創作に突き進んでみたいという気持ちが
頭をもたげてくることがあった。
高校・大学で私は絵画制作に取り組んできたが、
表現するということがなんなのかがつかめないまま卒業してしまった。
その後、編集の仕事へとシフトしたのだが、心のどこかで、
学生時代の自分を置き去りにしたような感覚が残っていた。
今年の6月、『DOGU かたちのふしぎ』という絵本を刊行した。
この絵本をつくろうと思ったのは12年前のこと。
当時、このまま編集の仕事だけを続けていていいのだろうかという迷いと、
絵を描くことにもう一度チャレンジしてみたいという想いがあってのことだった。
日頃から本づくりをしていたこともあり、1枚の絵を描くよりも、
内容があってそれを描くほうが、手がかりがあって進めやすいと考え
絵本という形式を選んだ。
テーマは土偶。
1万年も続いた縄文時代、人々はさまざまな「ひとがた」をつくっていた。
それらは、宇宙人かと思うほどの不思議なかたちをしており、
そこに私は以前から惹かれていた。
仕事の合間をぬって半年ほどで完成させ、海外の絵本コンペに応募した。
結果は落選。そののちに出産。やがて東日本大震災が起こり、北海道へ移住。
忙しない日々のなかで、絵本は出版することなくお蔵入りになっていた。
そのまま10年以上、この絵本を開くことはなかった。
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絵本をもう一度見直してみようとするきっかけは、
昨年、自宅近くにある〈栗沢工芸館〉という陶芸体験ができる施設に、
縁あって週1回通うようになったこと。
何をつくっても自由という環境のなかで、私は土偶をつくってみたいと思った。
なぜ、こんなにも土偶に惹かれるのかは自分でもわからないのだが、何度見ても飽きないし、
何度見ても驚きがあるのが、土偶というかたちなのだ。
この土偶制作については、以前の連載でも書いた。
その後、うれしいことに、〈岩見沢市立図書館〉の企画展示で、
制作した土偶を飾ってくれることになった。
このとき、せっかく図書館で展示されるのであれば絵本のお披露目もしたいと思い、
パソコンでプリントアウトして簡易製本したものを展示した。
このとき絵本をあらためて見て思った。
土偶をつくった理由や何を表しているかについては諸説あって、
現在でも研究が進められているところだ。
この絵本をつくった当時、私は土偶のかたちが十字型であったり、
ハート型であったりという、自然が根源的に持っている「普遍のかたち」と
共鳴しているのではないかと考えていた。
けれど、それだけでは何かが言い表せていないような感覚も持っていた。
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10年以上経って、ふっと浮かんできた言葉があった。
それは「永遠のリズム」。
このとき、〈栗沢工芸館〉での制作が土偶から縄文土器へと移っていて、回転する模様が
永久に回り続けるようなリズムを持っているんじゃないかと考えるようになっていた。
かたちだけでなく、自然が成長するなかで刻むリズムを表したんじゃないか。
それが、土偶がつくられたわけを解く鍵につながるんじゃないだろうか。
そんな想いが湧いた。
この言葉を最後の見開きに置いて新しく絵もつけた。
このほか2ページ分の絵も描き直し、ついに印刷まで進めることができた。
そして、いま「永遠のリズム」というキーワードから、新たな土器づくりも始まった。
縄文人は、耳に大きなピアスをつけることがあったようで、全国で耳飾りが出土している。
そのいくつかは、同じようなかたちをしていて、わたしにはまるで海の波が渦巻くなかから、
命が生まれる瞬間を表しているように見える。
土器のなかではひときわ繊細なつくりの耳飾りは、納得する出来栄えにするのが難しく、
何個もつくり続けている。
絵本とつくった土器を、7月16日から始まる、地域のつくり手の作品を販売する
『みる・とーぶ展』で発表しようと考えている。
土偶が好きで絵本をつくり、その興味が縄文土器へと広がっている今。
これが学生時代に置き去りにした自分なりの“表現”なのかと問えば、その答えはわからない。
私は、なぜこのようなかたちが生まれたのかを実際に写しとることで、
その謎に迫りたいと思っているだけだからだ。
ただ、学生時代、もしくはもっと昔の子ども時代に、
何かをそっくりに描写できたときの喜びに、この活動は共通している。
東京から北海道へ移住しなかったら、絵を描いたりものをつくったりということに
本腰を入れて取り組むなんて、できなかったように思う。
東京の友人のほとんどは、仕事にバリバリ取り組んでいて、そうした仲間と一緒に、
猛烈に編集の仕事をしていたのではないかと思う。
こちらに移住して、いま地域の活動として、旧美流渡(みると)中学校での展覧会開催を手がけたり、
自分なりの出版活動をしたり、そして、まわりには画家のMAYA MAXXさんをはじめ、
私のものづくりを応援してくれる人がいるからこそ、
枠にとらわれずに活動ができるようになった。
そして何より、お蔵入りになっていた絵本に、10年以上経って
違う見方ができるようになったことは、私にとって発見だった。
才能がないといって制作をあきらめるのではなく、
まだ時期が早いのかもしれないと思っていったん待ってみること。
可能性の糸をずっとつないでいくことで、新たな展開があるんだと、身をもって感じた。
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