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秋田 Part1
雑誌『Re:S』を捨てて
社名を「Re:S」に。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.040

posted:2012.11.12   from:秋田県秋田市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:大島拓也

「Re:S(りす)」代表の編集者・藤本智士さん。
秋田から発行するフリーマガジン『のんびり』が注目を集める藤本さんと
山崎さんの対談を4回にわたりお届けします。

出会い方のお手本は、笑福亭鶴瓶さん。

藤本

ようこそ! お久しぶりですね。

山崎

神戸に引っ越されたばかりなんですよね。
立地もいいし、気持ちのいい事務所です。
お、落語の本がいっぱいありますね。

藤本

好きでね、最近はiPhoneをジップロックに入れて浴室に持ち込んで、
お風呂のなかでよく聞いてます。山崎さんも、お好きですか?

山崎

半年前くらいから興味があるんですよ。
最近、じぶんがいろんなところで同じ話をする立場になってみて、
落語のように「同じ話を今日のおもしろさ」で話せないものかなあと
考えるようになって。勉強したいなあと思っているところです。
お風呂、いいですね(笑)。

藤本

ぼくのお手本は笑福亭鶴瓶さんです。
落語そのものというよりも、日常のエピソードをネタにしていく
「おもろいはなし」の手法。
高校生のころからTV番組の収録に通っていたくらい好きで、
「このひとは、なぜこんな奇跡的な出会いをするんだろう」ということに
純粋に興味を抱いていました。
「出会う能力」のヒミツを知りたかったんです。

山崎

出会う能力! それはぼくも知りたい。

藤本

でしょう?(笑)これは鶴瓶さんじゃないんですけれど、
その後、ダウンタウンのブレーンのひとりで
放送作家・脚本家の倉本美津留さんという方にお会いしたときに、
お笑いの現場の偶然性のおもしろさについて尋ねてみたことがあるんです。
そうしたら、100点満点のコント台本を書いても80点にしかならない。
でも、あえて台本を70点にして、3割の遊びを残しておくと、
芸人さんのポテンシャル次第で100点どころか
2000点が取れることがあるとおっしゃるんです。

山崎

うーん、なるほどね。

藤本

このはなしを聞いて、ああ、それがプロなんだ、と思ったわけです。
それを編集というフィールドでどれだけ発揮できるかということに挑戦したのが
雑誌の『Re:S(りす)』(*1)でした。

山崎

『Re:S』はそういうチャレンジだったんですね。

藤本

はい。いちおう設計図を描いてはおくけれど、
その通りにならなくてもいいっていうスタイルを叶えたくて、
クライアント=広告のない雑誌を作ろうとかね。

*1 『Re:S(りす)』:2006年に創刊された季刊誌。「Re:Standard あたらしい“ふつう”を提案する」をコンセプトに、編集長・藤本智士と編集部自ら日本全国を巡り、偶然の出会いをとりこみながら誌面を制作するという独自の編集スタイルを構築。富士フイルムやタイガー魔法瓶といった企業とのユニークなコラボレーションの試みも。11号で一時休刊を宣言、Webへと移行した。

2004年出版の『すいとう帖』

「マイボトル」ということばを生み出したのは2004年出版の『すいとう帖』。「それを見た象印の社長さんから直接電話がかかてきて、ぼくは自転車を飛ばしてすぐに会いにいったんです」。代理店の介在を必要としない、藤本さんらしい編集方法の始まりともいえる。

これまでも、捨てることから始まっていた。

山崎

あれは何号まで続いたんでしたっけ?

藤本

11号です。3年ぐらいやったので。
脳科学者の茂木健一郎さんが「偶優性」と言ったりするけれど、
決められたページ数をおきまりの企画で埋めていくのではなく、
2〜3割のアドリブをかましながら、
自分自身がわくわくしてクリエイティビティを感じる、ということに
ハマりきっていたんです。

山崎

本来は、それこそが編集者の腕の見せどころですよね。

藤本

ところが、そんなスタイルで始めた『Re:S』に
一定の読者がついて赤字にもならず安定したころに、次は
「でもこれって、アングラなことやってるんだよなぁ」と
矛盾を感じるようになったんです。

山崎

アングラ?

藤本

はい。ぼくがテーマにしている
「Re:Standard(あたらしい、ふつう)を提案する」は、
ベースが「ふつう」なんですよ。
なのに、極めて狭いところに『Re:S』を届けていないだろうかって。
マスに届けなければ意味がないんじゃないかと。
それで、一度『Re:S』を捨ててみようと。

山崎

そんな理由で休刊したとは知りませんでした。

藤本

ええ。『Re:S』の前には「パークエディティング」という社名で
フリーペーパーを発刊していたけれど、ブームによって、
Freeの意味が「自由」でなく「無料」になってしまって、フリーペーパーを捨てた。
その後、アートブックを作ったときは、書籍流通の壁にぶち当たって試行錯誤……。
これまでをふりかえってみても、結局、
じぶんが捨ててきたものの中にしか答えがないと気づいたんです。

山崎

なるほど……。

藤本

それで、雑誌の『Re:S』を捨てて、会社名を「Re:S(りす)」に変えたんです。

(……to be continued!)

「りす」の事務所

この秋「りす」の事務所を神戸に移転。「新卒で就職したのが大阪だったので大阪に事務所を構えていましたが、じぶんの帰る場所、帰る港ということを考えた時、それはやっぱり生まれた兵庫県だったんです」と藤本さん。

デザイン・クリエイティブセンター神戸

りすが入居する「KIITO/きいと」こと、デザイン・クリエイティブセンター神戸。神戸生糸検査所を改修した新館、旧館の2棟からなる地上4階建てのスペース。神戸市中央区小野浜町1-4 http://kiito.jp/

profile

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SATOSHI FUJIMOTO 
藤本智士

編集者/有限会社りす代表 1974年、兵庫県西脇市生まれ。

2004年に出版した『すいとう帖』をきっかけに、「マイボトル」という言葉を生み出し、現在のマイボトルブームをつくる。2006年雑誌『Re:S(りす)』を創刊。11号で雑誌休刊するまで、編集長を務める。その後自らの会社名を「Re:S(りす)」と変更。

Re:S=Re:Standard(あたらしい、ふつう)を単なる雑誌名とせず、様々な書籍や展覧会やものづくりをとおして、Re:Sを体現していく編集活動が話題を集める。最近では、デジタル時代にアルバムの大切さを伝えるべく開催した「ALBUM EXPO」(大阪/名古屋にて開催)、3人のデザイナーとの旅の記録を展示化した「日本のデザイン2011 Re:SCOVER NIPPON DESIGN」(六本木ミッドタウン)の企画・プロデュース。国土交通省観光庁をとおして、全国の小、中、高の図書館に寄贈された、ジャニーズ事務所の人気グループ嵐による『ニッポンの嵐』の編集、原稿執筆を手がけるなどで話題に。近著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著として『Baby Book』(コクヨS&T)がある。現在、秋田県より全国へ発行されているフリーマガジン『のんびり』の編集長を務める。

Re:S(りす):http://re-s.jp/

『のんびり』:http://non-biri.net/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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