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番外編 公開講座
「コミュニティデザイナーという仕事」レポート

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.039

posted:2012.11.2   from:北海道札幌市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:山口徹花

コミュニティデザイナーというしごとに実際に触れながら、
ひとのつながりが基盤となる新しい社会のあり方について考えたい。
札幌の北海道大学の大学院が主催し、札幌オオドオリ大学の協力で
山崎さんを招いた講座は、「いま、最も受けたい授業」でした。

コミュニティデザイナーって、どんなしごと?

夏のある日の北海道大学大学院環境科学院D201講義室。
階段式の大教室が、みるみる間に満席になります。
2010年度からすでに14組もの講師を迎えて、環境科学と異分野の連携を考えてきた
北海道大学環境科学院GCOEプログラム主催の公開セミナー「環境と、なにか」。

地域でのあたらしい学びの場づくりを目指すNPO「札幌オオドオリ大学」の協力もあり、
学生だけでなく多くの社会人も参加、参加者を巻き込む対話型の講座に、
コミュニティデザイナーの山崎亮さんが登場です。

コーディネーターは、フリーランスのメディア・ジャーナリストで
東海大学国際文化学部デザイン文化学科客員教授でもある渡辺保史さん。
まずは、文字通り「コミュニティデザイナーって、どんなおしごとなんですか?」
というおはなしから。

山崎さん、あるいは彼が代表をつとめる「studio-L」が、現在、実践として行っている
「コミュニティデザイン」のしごとは、おおまかにこの4つに分けられます。

4つに分類される「コミュニティデザイン」の仕事の図

左の項目ほどデザイン力、右の項目ほどマネジメント力が重視される、
もしくは必要とされる分野ですが、その両方の実力を兼ね備えているのが
山崎さんの強みであり、コミュニティデザイナーという肩書きのもつ意味でもあります。

本に書いた後の海士町のはなしをしよう。

島根県の離島、海士町は、人口およそ2300人。
そのなかに、地元継続居住者(ずっと住んでいる人)、
Uターン者(外から戻ってきたひと)、
Iターン者(約250人の移住者)が混在して暮らしている……。
このまちの総合計画を住民参加型で作っていくプロジェクトは、
山崎さんの代表著書『コミュニティデザイン』(学芸出版社刊)にも、
20ページを割いて紹介されています。

「そもそもまちづくりとは、なんて言いたいわけじゃない」と、山崎さんは言います。
Uターン者、Iターン者のみならず、元ヤンキーも、ブランド好きの主婦も、
一緒にやるから楽しいことがおこるんだ、と。
「現在、町民2300人中、約300人がまちづくりに関わっています。
これってたしかにすごいことかもしれないけれど、逆に、残りの2000人は、
なぜ関われないんだろうということを考える必要があります」

それから、海士町に限らず、限界集落のすべてを「活性化」することはむずかしい、
というリアルなはなし。
つまり、活性化一辺倒ではなく、現状を「維持」することや
「美しく」集落を「閉じる」ことも考えていかなくてはならない場合がある。
誰も苦しい思いをしないで済む方法はあるだろうか。

それはたとえば、集落支援員を育てる、派遣すること? 
たとえば、祭りの記録など、そこに集落があったことの記憶を記録すること……?
そういった方法を美しくデザインしながら考えていくなかで、
今や婚活や恋札の制作まで行うようになった山崎さんたちが、
次第にやってみたくなったこと。

それは「これを読めば、きっとそのひとに会いに行きたくなるガイドブック」。
店や観光地でなく、125名のひと(住民)を通してまちを紹介する、
その名も「コミュニティトラベルガイド」。この思いはカタチになり、
『海士人(あまじん)』というタイトルで今年の5月に出版され、書店に並んでいます。

海士町の住民参加型プロジェクトについて話す山崎さん

海士町の住民参加型プロジェクトについて話す山崎さん。「Uターン者、Iターン者、地元継続居住者も、一緒にやるから楽しいことがおこる」

コーディネイター・渡辺保史さんとの対話

渡辺

山崎さんのように「ひととひとを繋ぐこと」を仕事にするひとは、
今後増えるだろうか。
必要とされるなら、どういう力を養っていけばいいのでしょう。

山崎

ぼくたちはこれまで「デザインはひとの生活を豊かにする」と教えられてきました。
でも世の中はここ30年、「豊かさ」=モノではないと気づいてしまっている。
では、いまぼくたちは、なにをデザインすればいいんだろう、というところから、
ファシリテーションを学んだり、まちづくりのひとたちに学んだりして、
いまのしごとのカタチになってきたように思います。

また、専門家の知恵や技術を橋渡しできるスキルをもつひとというのも
必要とされるようになってきているように感じます。
ただ、つなぐだけのひとでは、なにをやってるのかわからない。
横につなげてさらに深さをもたらすことが求められます。

つまり、「T」の字のイメージ。でも、欲をいえば実は「T」でも足りなくて、
専門知を複数もつ「π」の字型を目指すべきではないだろうか、
それがぼくらに必要なスキルだといまは思っています。

渡辺

北海道についてどう思っていますか?

山崎

人口減少先進地の最先端になれそうですね。
大都市圏を持っているのに自然に人口が減るという
すごいことが起ころうとしているのですが、実はこれは世界にも例がありません。
たとえば北海道、大阪、和歌山と、群を抜いて人口が減りつつあるまちから
何が学べるでしょう。「では、何が起こるのか」を知らないひとが
あまりにも多いので不安にもなりますが、考え方を変えれば、
逆にいまのぼくたちが異常な時期に生きているのかもしれない、とも言えます。

そうであれば、幸福度と人口を過度に結びつけて
悲観することでもないのかもしれませんね。
少ない人口で幸せに生きていくことを考えればいい。
世界に向けて、北海道からその方法を発信していければいいですね。
もちろんこれには、相当高度でクリエイティブな発想が
必要とされるはずですけれど。

参加者との対話 —今日、山崎さんに聞いておきたいこと—

参加者A

過疎化が進むと、国を守れなくなるのでは?

山崎

外から攻められることより、中から崩壊していくことのほうが切実だと思いますね。
過疎というより「適疎(てきそ)」ということばで表現したい。
たとえば東京の満員電車なんて、過密すぎると思いませんか? 
適切にまばらなまち=適疎。
たとえば、ひとり1ヘクタールの家にゆったりと住む暮らし、
悪くないと思いませんか。

参加者B

ひとを巻き込むポイントは何ですか?

山崎

ぼくももともとコミュニケーションが得意ではないほうなので、
気をつけていることがあるとすれば、「YES、and」で
相手がほんとうに思っていることをうまくひき出し、つなげていくこと。
これ、否定形で考えるよりもむずかしいんです。
「YES、and」でつなぐ文脈を、あたまのなかで相当考えているんだな、
とじぶんでも最近気づきました。
ポイントは、相手の本質のことば、大事なことばが出てくるまで
粘り強く、粘り強く、よく聞くことですね。

参加者C

コミュニティデザイナーという人材を増やすために、
なにかやっていることはありますか?

山崎

教科書を作ってほしいという要望はとても多いのですが、
ぼくがやっていることって、マニュアル化できる類いのものではないんですよね。
そのひとの風貌、キャラクター、聞いてくれる相手の層によるので、
実地訓練がいちばん大事。
そこで、かつて流行ったゲームブック形式で現場を疑似体験できる
『コミュニティデザインの仕事』というアドベンチャーブックを作りました。
ファシリテーションや対象法を学ぶツールとして手に取ってみてくださいね。

* * *

途中、「どんなに大変な現場でも、十分な睡眠を取るというのが、
もしかするとコミュニティデザイナーという仕事なのかもしれませんね」
と冗談めかして語った山崎さん。早口で次々と展開していく話題、
聞く者を竜巻のように巻き込むスピード感のなかに、
時折笑いを交えることを忘れず、でもその笑いのなかに
本質が含まれているというのも、山崎さんの講演の魅力です。

公演中の山崎亮さん

相手のことばをよく聞き「YES、and」でつなげていく。参加者にとって刺激的な講義になったはず。

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