連載
posted:2012.10.29 from:大阪府大阪市北区中崎町 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:内藤貞保
公共的な役割を果たすカフェのための流儀を模索する「common cafe」プロデューサーの
山納洋さんと山崎亮さんの対談を、4回にわたってお届けします。
山納
そろそろこの時間なら「common cafe」に入れそうですよ。
ちょっと覗いてもらいましょうか。
山崎
お。ぼくも久しぶりなので、ぜひ行ってみましょう。
山納
このあたりにお店ができはじめたのは、たしか1999年ぐらいです。
小さくて個性的な洋服屋やカフェが
静かな住宅街のなかに点在するようになりました。
山崎
ぼくが隣のまちで事務所勤めをはじめて2年ぐらい経ったころで、
お昼ごとに中崎のいろいろなお店に行くのが楽しみでした。
「アマント」「カヌトン」「太陽ノ塔」……どれも懐かしいなあ。
みんな「common cafe」で紹介してもらいましたね。
山納
初期のメンバーは、不動産屋でも埒があかないような長屋の空家物件を
なんとか使いたいと、地方まで直接、家主さんを訪ねてまで
借りたいと申し出たり、家賃の交渉をしていました。
自分らしさ、自分の生き方を追究するようなひとたちが、
梅田から徒歩10分のエリアにお店を持つことができた、というのは
あの時代のトピックだったと思います。
山崎
でも、長屋だと、梁を伝って音が伝わるって言いますよね。
深夜になると、キーボードを打つ音まで隣に聞こえるとか……。
ましてやお店を考えると。
山納
そうですね。早く閉めるお店が多いのは、そのせいだと思います。
どうしても週末にしか集客できない。
さらには、家主不在の貸借なので、なにもしなくても、
近隣の方々には不安を与えてしまうこともある。
山崎
うーん。いろいろ難しそうですね。
山納
いろんな意味で丁寧なケアが必要でしょうね。
でも、そんな条件の中でもお店が増えているというのは、
それだけ空家が増えているということ。
うまくいけば、まちの再活性のよいモデルにもなり得るはずです。
山崎
そういえば、「カヌトン」のメニューのイラストが気に入ったので、
イラストレーターさんを紹介してもらい、
お仕事させていただいたこともありました。
山納
いい意味でみんな、利他的なんですよね(笑)。
店の看板でよその店を宣伝してみたり、
うちは休みやから隣の店にどうぞ、というような貼り紙を出したり。
山崎
でもそれって、客としては気持ちがいいんですよね。
逆に、よその店を否定されると、地域全体を否定しているようにも聞こえますから。
フランスでは、よその店をお互いにほめることで人気になった
ワイン村の事例もあるんですよ。
山納
こういったことをいろいろ考えてみると、譲り店である「ニューMASA」は、
とてもバランスのとれた存在だといえます。
山崎
なるほど。
山納
でも、「common cafe」はそうじゃない。
店主は、相手の球を受けるのではなく、じぶんから球を打ち、
「おもしろいやん」と言わせる場所なんです。
そういう意味では、OMSと同じ、実験劇場なんですよね。
なぜなら、若いひとって「自分軸」から始まると思うんですよ。いろんなことが。
山崎
わかります。ぼくだって、若いころは自分軸のひとでしたから。
ただ、設計者はアーティストではないので、
他人軸も常に意識しながら、じぶんのやりたいことを叶えていく感じです。
だけど、いまぼくがやっていることをカフェに置き換えると、
「コミュニティを維持するためのカフェ」になるわけで、
そうなると自分のちいさな夢はとりあえず横へ置いて、
「みんなが喜んでくれることが、すなわち自己実現」というような
スタイルになります。
ということは……譲り店のオーナーと、コミュニティデザイナーは、
同じスキルが必要ということですね。
山納
もうひとつ、譲り店=喫茶店は、カフェと違って、間口が広いので、
疑似恋愛を求めてカウンターにやってくるお客さんを
うまくあしらえるというような能力も求められます。
山崎
おじさんにママって呼ばれもいちいち怒らないとか?(笑)
山納
こうして考えると、譲り店の店主になることは、
自分軸を他人軸にうまく転換させるということですね。
これって、じぶんを成長させるのに、すごく役に立つんじゃないでしょうか。
サラリーマンやOLも、ワークショップとして
カウンターの中に立つといいのかもしれません。
山崎
そうですね。うちも、コミュニティデザイナーの研修の場として、
譲り店を一軒やってみるといいんじゃないか、と思えてきました。
profile
HIROSHI YAMANOU
山納 洋
1993年大阪ガス入社。神戸アートビレッッジセンター、扇町ミュージアムスクエア、メビック扇町、財団法人大阪21世紀協会での企画・プロデュース業務を歴任。2010年より大阪ガス近畿圏部において地域活性化、社会貢献事業に関わる。一方で、カフェ空間のシェア活動「common cafe」、「六甲山カフェ」、トークサロン企画「御堂筋Talkin’Aabout」などをプロデュースしている。著書に『common cafe ー人と人が出会う場のつくりかたー』『カフェという場のつくり方 自分らしい起業のススメ』がある。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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