連載
posted:2012.10.4 from:大阪府大阪市北区中崎町 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:内藤貞保
公共的な役割を果たすカフェのための流儀を模索する「common cafe」プロデューサーの
山納洋さんと山崎亮さんの対談を、4回にわたってお届けします。
山崎
こんにちは。今日は「common cafe」じゃないんですね。
山納
ええ。イベントが入っていて使えないので、こちらの店をお借りしました。
山崎
すぐ近くに勤めていた時期があって、「common cafe」ほか
界隈の店にはよく足を運びましたが、ここは知りませんでした。
山納
そうでしょう。入り口の脇にドーンと自動販売機があって、
わかりにくかったんです。
「喫茶・ラウンジ 正」という店名で、29年間営業していたようです。
山崎
(古い写真を見て)そのころと全然変わらないんですね。
山納
変わらないといえば変わらないのですが、「正」時代に2度ほど来たときには、
店内の至るところに雑誌の山やほこりといった、
29年の積層があちこちに見られました。
山崎
このお店のことは、山納さんのあたらしい本にも登場していましたね。
山納
はい。前の店主に「そろそろやめようと思ってるんやけど」
「あんた、ここでなんか(何か)する?」と相談をもちかけられた常連客が、
現店主の片牧尚之さんなんです。
山崎
それで名前も引き継いで「ニューMASA」なんですね。
写真を見ても、いまこうして店内のお客さんのようすを見渡しても、
まちの中で、コミュニティの場としての役割をしっかりと担っていますよね。
山納
向かいのスペインバルも「あじさい」という味のある喫茶店でしたし、
すぐそばにも「静」という12席で1日8回転した人気店もありました。
じつはぼくも狙っていたんですよ。
山崎
昭和喫茶を?
山納
はい。common cafeのプロジェクトとしてうまく引き継げたらいいなあと。
でも、はなしがうまくいかなくて、結局、ガールズバーになってしまいました。
すごくもったいないことをしたなって思っています。
山納
1970年代に喫茶店ブームがあったんですよね。
そのときに30代ぐらいでお店をはじめたひとが、
今、60代、70代になってそろそろやめようとしている。
つぶして若い人好みのあたらしいカフェを始めるのも悪くはないけれど、
これまでその店を愛した地域のひと(=常連さん)を含めて、
店を引き継ぐというスタイルもいいんじゃないかと。
山崎
あ、そういう事例を集めて、本を作ってもいいかもしれませんね。
写真入りのフルカラーで。すごく公共性をもっているし、
うまく語ることができるなら、高い価値のある一冊になりそうです。
そういう店を……なんて名づければいいんでしょう。
山納
わたしは著書のなかで「譲り店」と書いています。
山崎
ゆずりみせ……いいですね!
山納
譲り店の事例は、喫茶店だけでもないんですよね。
たとえば、安治川近くにある「入船食堂」は、その名の通り
そのむかし港町だったエリアに何軒もあって賑わった食堂の一軒なのですが、
80歳近くの現店主になる昭和40年より以前から、
100年以上も同じ「入船食堂」という看板で店をやっていたというんです。
全国的にそういう事例を見てみたいと思う気持ちはありますね。
山崎
ぼくもぜひ見てみたいですね。行政がサポートしてもいいくらいの
「取り戻せない公共性」をはらんでいると思います。
そこを「民」のチカラでなんとかしようというのが「譲り店」ですね。
これまでのファンの止まり木的な場でありつつ、
同時に「次の30年」をプロデュースする。
これって、難しいけれど、とても大切なことで、もう、全国の都市部で
実際に方法を模索してやり始めているひとたちがいるんじゃないかと思います。
山納
そういうふるまいができずに、レトロなまま閉店していくお店は
ほんとうに残念ですし。
山崎
まったく。
山納
そこでしっかりと考えなくてはいけないのは、
近年増えている「コミュニティカフェ」(*1)と呼ばれる、
公共性を志向するタイプのカフェですね。
個人的にものすごく違和感があるんです。
山崎
たとえば、行政からの助成金で運営しているような?
山納
そうですね。
助成金が欲しいからコミュニティといっているような気がしてならない。
すぐ近くの商店街にちゃんと愛されている喫茶店があるのに、
わざわざ別に場を作り、だけど賑わってもいない。
そして、助成金が切れたら終わってしまう。
これって、非常にだらしがないですよね。
基本的にカフェというのはビジネスですから、
行政や企業のお金で支えられてビジネスが成り立っていないところは、
どこも脇が甘いと思うんです。
山崎
脇も甘いし、空間づくりもコンセプトも甘い。
山納
それよりも、行政の支援など関係なく、何十年も商売を続けてきた古い喫茶店が、
コミュニティの場になっていることをもっと評価するべきですよね。
ただ、長く続いている店のなかには、味の落ちたコーヒーを出すとか、
掃除が行き届いていないなどの不具合もあり、こうなると若い世代は入りにくい。
「譲り店」は、その辺をクリアする機能になり得るような気がするんですよ。
(……to be continued!)
*1 コミュニティカフェ:「コミュニティカフェとは、地域住民やNPOが高齢者・障害者・子育てへの支援、世代間・国際交流、生涯学習、まちづくりといった公共的なテーマのもとに、カフェを開いたり、定期的に人々が集まれる場を作ったりという動きのことをいいます」(山納洋『カフェという場のつくり方 自分らしい企業のススメ)より)
profile
HIROSHI YAMANOU
山納 洋
1993年大阪ガス入社。神戸アートビレッッジセンター、扇町ミュージアムスクエア、メビック扇町、財団法人大阪21世紀協会での企画・プロデュース業務を歴任。2010年より大阪ガス近畿圏部において地域活性化、社会貢献事業に関わる。一方で、カフェ空間のシェア活動「common cafe」、「六甲山カフェ」、トークサロン企画「御堂筋Talkin’Aabout」などをプロデュースしている。著書に『common cafe ー人と人が出会う場のつくりかたー』『カフェという場のつくり方 自分らしい起業のススメ』がある。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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