連載
posted:2012.10.12 from:大阪府大阪市北区中崎町 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:内藤貞保
公共的な役割を果たすカフェのための流儀を模索する「common cafe」プロデューサーの
山納洋さんと山崎亮さんの対談を、4回にわたってお届けします。
山崎
山納さんにお会いしたころはまだ設計事務所に勤めていて、
その後、ぼくが生活スタジオに力を注ぐようになる経緯は、
山納さんのはたらき方に少なからず影響を受けています。
山納
初対面はちょうど10年前ですね。このすぐ近くのクラブ
「Dawn(現・NOON)」で行われていたプレゼンイベントで、
山崎さんが、堺市の「環濠(かんごう)生活」(*1)のプレゼンをされたんです。
それを聞いて、クラブでまちづくりのはなしをするとは、
なんてユニークなひとなんだ!と(笑)。
山崎
2002年……懐かしいですね(笑)。
山納
ちょうど「メビック扇町」(*2)がスタートする1年前で、
あたらしく始まる場に必要なクリエイターを探していたんです。
「まちづくりの民営化」というセミナーをはじめ、
山崎さんには何度も講座やカンファレンスをお願いしました。
山崎
いま聞くと、ちょっとヤバいタイトルですね(笑)。
そのころは人前ではなす機会なんてまだ4、5回しか経験していなくて、
毎回念入りに準備をしながら、それでも
「誰も来てくれなかったらどうしよう」とめちゃくちゃ不安でした。
山納
いやぁ、全然、そんな風には見えませんでしたけど(笑)。
山崎
そういう機会を与えてもらいつつ、
会社勤めをしながらここまで自分の活動ができるんだ、ということを
山納さんに見せてもらったと思っています。
山納
ぼくとしては、大マジメにしごとをしているだけなんですけどね(笑)。
少し遡って説明すると、企業人として自ら望んだ
扇町ミュージアムスクエア(OMS)(*3)でのミッションは、
おもしろい劇団を発掘してきて売り出し、彼らの活動を応援すること。
でも、閉館することになって、急に気持ちが切り替えられない……
と思っていたところに、メビックがオープンするんです。
アーティストやクリエイターに詳しいということでそちらに移るわけですが、
こちらでのミッションは、クリエイターのインキュベーション(起業支援)。
けれど、起業したことのないぼくが果たして彼らになにを言えるというのでしょう。
だって、野球をやったことのないひとが野球を教えるなんて、
あり得ないですからね。インキュベーションのことをマジメに考えて、
会社から与えられたミッションを拡大解釈したら、
自ら起業せざるを得なかったんですよね。
これは、じぶんも飛んでみなくちゃ、わからないぞと。
*1 環濠生活:「都市のオープンスペースを提案するには、都市生活のスタイルもセットにして考えるべき」というコンセプトに基づき行われた、大阪府堺市「旧環濠地区」のフィールドワークと、オープンスペースに対する提案。
*2 メビック扇町:大阪で活動するクリエイターが互いに知り合い、顔の見える関係を築くためのあたらしいコミュニティづくり、大阪に集積するクリエイティブ関連企業の活性化に取り組む支援施設。http://www.mebic.com/
*3 扇町ミュージックスクエア(OMS):倉庫を改造した小劇場「フォーラム」を中心に、名画を上映するミニシアター、雑貨店、カフェレストラン、ギャラリーを備えた複合施設。若者文化発信基地として愛されたが、2003年3月に18年の歴史を閉じた。
山崎
起業については、会社にも事前に申請したんですか?
山納
いえ。じぶんの思いだけでやっていましたね。
最初に開業したバーは、開店前に大々的に新聞に載ってしまったんですが(笑)、
それでも会社からは「就業規則に反することはしてないよね」と
確認されただけでした。
山崎
給与のあるなしに関わらず、個人が社会貢献にたずさわったり、
NPOなどの別の法人に所属することは、いまやもう、
雇用主である企業が咎めたり制限するべきことではないのかもしれませんね。
山納
そうかもしれません。
正しく言うと、ぼくの場合は、文化支援を目的としたカフェの経営、ですが。
山崎
先ほどの「起業しなければインキュベーションできない」というはなしは、
実は非営利株式会社という形態をとっている
「studio-L」の仕組みにもつながります。代表のぼくを含め、
スタッフは全員、「studio-L」という看板をもつ個人事業主なんですよ。
山納
なるほど。
山崎
これには理由があって、たとえば、コミュニティデザイナーとして集落に入ると、
農家や漁師、商店主の方々から「給料もらってるヤツになにがわかる?」と
詰め寄られることが少なからずあります。
そのときに「いえ、わたしも個人事業主なんです」と
キッパリ言えるようでなければ、やっぱりダメ。
よく行政の方が窮するのはこういうところだったりするわけです。
不安で眠れない夜があることも、確定申告のことも税金のことも、
ぜんぶ「自分ごと」として相手とはなしができてこそ、
はじめて対等に、一緒に、まちづくりを考えていけるんです。
山納
アーティストもよく、会社勤めの人間に対して
「あっち側のひとか、こっち側のひとか」というような表現をします。
だから、起業すると「こいつ、命がけで遊んでるな」ということで、評価が変わる。
「こっち側」への仲間入りというか。
そこから先の信用度合いが、全然違いましたね。
山崎
山納さんが命がけで遊ぶ=起業に至る理由はきっといろいろあったのでしょうが、
インキュベーションのしごとをするためにじぶんも飛んだ、
というのはとてもわかりやすいですね。
山納
メビックにいるときに気づいたのは、コンサルタントという肩書きのひとは、
どうやら往々にして経営を単純な一次方程式で考え、指導するんだな、ということ。
でも、実際の現場は三次方程式、四次方程式に向き合い、
毎日傷ついたり蝕まれたりしているわけですから、悩みの次元が違う。
予算や坪単価のはなしをされても「そのアドバイス、遠いなあ」と(笑)。
「ここでつまずくから気をつけたほうがいい」というのは、
やっぱり起業したひとにしかわからない、もしくは、
起業しているひとに真摯にはなしを聞かなければわからないことなんです。
(……to be continued!)
profile
HIROSHI YAMANOU
山納 洋
1993年大阪ガス入社。神戸アートビレッッジセンター、扇町ミュージアムスクエア、メビック扇町、財団法人大阪21世紀協会での企画・プロデュース業務を歴任。2010年より大阪ガス近畿圏部において地域活性化、社会貢献事業に関わる。一方で、カフェ空間のシェア活動「common cafe」、「六甲山カフェ」、トークサロン企画「御堂筋Talkin’Aabout」などをプロデュースしている。著書に『common cafe ー人と人が出会う場のつくりかたー』『カフェという場のつくり方 自分らしい起業のススメ』がある。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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