連載
posted:2012.11.30 from:秋田県秋田市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:鈴木竜典(R-room) 大島拓也(山崎さん、藤本さん)
「Re:S(りす)」代表の編集者・藤本智士さん。
秋田から発行するフリーマガジン『のんびり』が注目を集める藤本さんと
山崎さんの対談を4回にわたりお届けします。
藤本
ぼくはいま、『のんびり』をつくることで秋田を盛り上げながら、同時に、
ここだけでなく、どのまちでも起こせるやり方をここで見つけているんだ、
と思っています。
山崎
東京ではない、どのまちでもできること。
藤本
おしゃれでかっこいいフリーペーパーは地方にあふれているんだけれど、
編集までおもしろいと思えるものがあるかというと、ないんです。
なぜなら、どうしても東京の出版物のまねごとをしてしまうから。
でもそうじゃないよね、というあたらしいカタチは、
ぼくはいま東京でやろうと思わないし、むしろ東京でやるより
秋田でやるほうが「できるし、届く」と思っています。
山崎
少しはなしが遡りますが「秋田が最前線だ」というのはどういうところですか。
藤本
生活的なランキングとか経済指標みたいな、従来の物差しで語ると、
最前線どころか、正直、全国でも秋田は
常にビリのほうを走ってきたと思うんですよね。
でも、世の中が変わってきて、みんな、逆にこういうところに
暮らしたいと思ってるんじゃないかなあって。
少なくともぼくはそう。
山崎
なるほどね……。
藤本
とにかく、のんびりがあふれている、というのが秋田の第一印象。
取り残されているもの、のんびりしすぎた部分がほんとうにたくさんある、
まだまだデザインされてないものがたくさんあるというのは、
ぼくにとっては逆に強みなんです。
少し前のぼくなら、それをデザインしたい! と思ったけれど、
いまでは「そのままで、いい」って思える。
そういうこところがしっくりくるんです。
まさに、のんびりが「ノンびり=ビリじゃない」だということ。
この「のんびりさ」を世の中に押し出したいんです。
だって、「のんびり編集長」って肩書き、
めちゃくちゃのんびりしてそうでいいでしょう?(笑)
山崎
うん、いい(笑)
藤本
ほんまはセカセカしてるんですけどね(笑)。
「のんびり」っていうだけでニコッとなれる。
そんな魅力が秋田にはあると感じているんです。
山崎
ぼくは藤本さん的な感覚は持ち合わせていないので、
データに基づくはなしになるのですが、
「このまちが、日本でいちばんだ」というプレゼンテーションは、よくやるんです。
秋田、山形、和歌山、島根、山口、長崎は、
この5年間に人口がかなり減っている都道府県なんです。
でも、2020年になると東京や神奈川も人口減少が起きると予測されている。
つまり、人口増加してきたこれまでの時代は、当然、人口が多いところ、
つまり東京でなにが起こっているかを学んできた。
でも、これからは人口が減っているとろに向っていくんです。
藤本
うん、そうですね。
山崎
海士町の離島が注目されているのも、
やっぱりみんなそこが気になっているからなんです。
単に人口が減ってショボショボしているのではダメで、
それでもイイネって思えるような暮らし方をしている人口減少先進地こそが
実は最先端だ、とぼくたちも言ってきたんです。
だから、「秋田がノンびり」だというのはまさに言い得て妙だなぁ、と。
藤本
旅をしているとそういうことを実感しますよね。
山崎
ほんとうに。
藤本
東京で生活しているひとだって、個人では
「果たしてこれまでのようにモノが売れていくのだろうか」って
ギモンに思っているんだけれど、会社としてはそれでは困るから
気持ちを押し殺してしまう。
だから、個人の思いのレベルでちゃんと変わっていく勇気みたいなものを、
どうすれば与えられるのか、ということを考えたい。
そういう思いをアウトプットすることが、
いまの編集者としての役割だと思っています。
山崎
『のんびり』は、どのくらいの間隔で作っているんですか。
藤本
1年間に4号発行の約束なので、このあと年内に3号が出て、
年明けに4号の予定です。
山崎
どこで手に入るの?
藤本
基本的には秋田県外に秋田をPRする媒体なので、
県外に1万5000部、県内に5000部くらいです。
県が発送しますが、小さな雑貨店、ギャラリーから大きな美術館まで、
送り先リストは全部ぼくが出しています。
山崎
うーん、そこまでやるんですね。すごいなあ。
藤本
ぼくがいちばんイヤなのは、行政の支援がなくなってハイお終い! になること。
ぼくとしごとすること、東京の写真家と一緒に組むことで、
秋田のクリエイターの経験値を上げてあげたいし、強さを残してあげたいんです。
そうでなければ意味がない。
山崎
「授人以魚 不如授人以漁〜魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよ」
という中国故事があるけれど、つまり、
ぼくたちコミュニティデザイナーがやっていることと同じなんですね。
藤本
そうですね。みんながこのプラットフォームでいろんなチャレンジをして、
どんどん成長していけばいいと。そう思っています。
profile
SATOSHI FUJIMOTO
藤本智士
編集者/有限会社りす代表 1974年、兵庫県西脇市生まれ。
2004年に出版した『すいとう帖』をきっかけに、「マイボトル」という言葉を生み出し、現在のマイボトルブームをつくる。2006年雑誌『Re:S(りす)』を創刊。11号で雑誌休刊するまで、編集長を務める。その後自らの会社名を「Re:S(りす)」と変更。
Re:S=Re:Standard(あたらしい、ふつう)を単なる雑誌名とせず、様々な書籍や展覧会やものづくりをとおして、Re:Sを体現していく編集活動が話題を集める。最近では、デジタル時代にアルバムの大切さを伝えるべく開催した「ALBUM EXPO」(大阪/名古屋にて開催)、3人のデザイナーとの旅の記録を展示化した「日本のデザイン2011 Re:SCOVER NIPPON DESIGN」(六本木ミッドタウン)の企画・プロデュース。国土交通省観光庁をとおして、全国の小、中、高の図書館に寄贈された、ジャニーズ事務所の人気グループ嵐による『ニッポンの嵐』の編集、原稿執筆を手がけるなどで話題に。近著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著として『Baby Book』(コクヨS&T)がある。現在、秋田県より全国へ発行されているフリーマガジン『のんびり』の編集長を務める。
Re:S(りす):http://re-s.jp/
『のんびり』:http://non-biri.net/
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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