連載
posted:2012.6.8 from:青森県十和田市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:嶋本麻利沙
今年度から青森県の十和田市現代美術館副館長に就任した
美術家の藤 浩志さんと山崎さんとの対談をお届けします(全4回)。
山崎
こんにちは。来ちゃいましたよ、藤さん!
藤
ほんとだよねえ。はるばるありがとう。関西からだとずいぶん遠かったでしょう。
山崎
開館のときにも一度来ているんですけどね。
藤
そうか、そうか。
山崎
この間、東京で会ったときに副館長就任のことをおうかがいして、
とにかく驚きました。
藤
ぼく自身もびっくりしているからね(笑)。
山崎
これまで住まれていた糸島は、ひきはらって?
藤
いや、糸島の海沿いに新築の家ができたばっかりで、
しばらくは、糸島と十和田を行ったり来たりの生活になるのかな。
山崎
福岡から青森……大移動ですね。
藤
ところがね、青森の地域性って、ぼくが生まれ育った
鹿児島に近いんじゃないかなって感じてるんです。
山崎
あ、端っこと端っこ同士で?
藤
そう! 日本地図をふたつに折り畳むとぴったり合いそうでしょう、
位置も県のカタチも(笑)。
日本の文化って同心円状に広がっているともいわれているから、
言葉のイントネーションや人柄も含め
「端っこ感」みたいなところに妙に親近感があるんですよ。
山崎
それは興味深いですね。
藤
それに、なにより今は被災地が沈み込んでいるから、
周辺ががんばって東北全体が盛り上がっていかなきゃという気持ちがあります。
そういう意味でも、今は九州より東北を拠点にしていたいって思ったのが
大きなきっかけです。
山崎
具体的にこのまちで、あるいは十和田市現代美術館で
「こんなことやってみよう」という案はすでにおありなんですか?
藤
まだないよ!(笑)
山崎
今日はそこのところを聞きに来たんですけど……
来るのがちょっと早すぎましたか(笑)。
藤
いや、なんとなくならあります。(笑)。
山崎
ぜひ、そこのところをお願いします。
藤
最大の興味はやはり、この美術館がアートセンター、
つまり「拠点」として作られていること。
そして、観光、集客というレイヤーでみると、
今のところすでに成功している事例であるということ。
ただ、地域の活動を作っていくという点では多分まだうまくいっていない。
ここですね。これが、ぼくがこのまちに呼ばれた理由だと思っている。
山崎
なるほど。
藤
そこで考えないといけないのは、どうやって興味や関心を集めて、
別の仕組みをつくるかということ。
山崎
そうですね。
藤
鹿児島同様、この辺りはとにかく自然が深い。
そのなかに潜在する「種」のような価値を見い出して集まっているひとに
興味があるんです。
山崎
つまり、消費や流通といった視点の価値観ではないもの?
藤
ええ。たとえば、自然、昆虫、苔、水、環境……
こういったことに興味をもって価値を見いだし、
実践的にここで生活を作ろうとしているひとがいる。
そんなひとたちのことばを聞き、対話を重ね、
彼らのやっていることが「大事だよね」ということをちゃんと確認したい。
山崎
十和田市現代美術館が、地域にひらかれた「アートセンター」として
どう機能できるか、というところですね。
藤
美術館には、保存と普及という役割がありますからね。
日本全体も、これまでの右肩上がりじゃないこの時代、
これからどうやって地域を守りながら次の世代に繋いでのこすか、
ということについて対話したい。
山崎
なるほど。
藤
むかしから個人的に活性化ということばが苦手なので、
「豊穣化」とか「なにかを醸し出す」と表現できる状況を作り出していければ、と。
そのために、まずは対話を重ね、いまの状況に「手を当てる」。
そんなことやってみたいと、いまは考えています。
(……to be continued!)
information
十和田市現代美術館
青森県十和田市が推進するアートによるまちづくりプロジェクト、Arts Towada(アーツ・トワダ)の拠点施設として、2008年4月に開館した現代美術館。アート作品が街に対して展示されているかのような開放的な空間構成を持ち、まちづくりプロジェクトの拠点施設としてつくられた特徴ある美術館となっている。
住所:青森県十和田市西二番町10-9
TEL:0176-20-1127
profile
HIROSHI FUJI
藤 浩志
1960年鹿児島生まれの美術家。京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了し、翌年よりパプアニューギニア国立芸術学校講師、建築企画・都市計画コンサルタント勤務を経て、藤浩志企画制作室を設立。対話と地域実験の場を作る美術類のデモンストレーションを実践。2012年4月より十和田市現代美術館副館長に就任。
Web:http://geco.jp/
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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