colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

十和田 Part2
工芸から、
ひらかれたアートの実践へ。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.019

posted:2012.6.14   from:青森県十和田市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:嶋本麻利沙

今年度から青森県の十和田市現代美術館副館長に就任した
美術家の藤 浩志さんと山崎さんとの対談をお届けします(全4回)。

そして、ぼくはバブルの時代を逆行した。

山崎

藤さん、大学は京都でしたよね。京都市立芸大。どんな大学生だったんですか?

染織科唯一の男子学生。奄美大島の特産品に大島紬ってあるでしょう?
家族の仕事の関係で幼少のころから身近に大島紬があって、
紬の織柄のように「列んでいるもの」が無性に好きだったんです。

山崎

列んでいるもの……?

柄だけでなく何でも、列んでいるだけでいい、というくらいに好きでね。
空間に興味を持ったのも、京都の大学を選んだのも、
実は三十三間堂が始まりだったんです。

山崎

列んでますね(笑)。千手観音が1001体も!

でしょう。「なんだ、この空間は!?」って(笑)。
個々のモノよりも「どうしてこの仕組みが成立しているのか」が気になる。

山崎

そこはぼくも同じですね。

鴨川に勝手に自作の全長5メートルの鯉のぼりを
13点泳がせて騒動を起こした経験から、
まちに影響を与える、まちのなかの風景に何かをしかけることによって
動き、変化が起きるということに興味をもつようになりました。

山崎

ずいぶんユニークな大学生だったんですねえ。

おかげさまで、就職も引く手あまたでした。
だけど、80年代半ばの日本の生温い感じがすごくイヤだったり、
アートの枠からも離れてみたかったり。
そんなときにふと目についたのが、青年海外協力隊募集の雑誌記事。

山崎

まさか?

国を変えることで、
80年代からタイムスリップできるんじゃないかという気がしたんです。

十和田市現代美術館のカフェスペースの床面

十和田市現代美術館のカフェスペースの床面。南部裂織から着想を得た、マイケル・リンの色鮮やかなペインティング作品。

前庭に展示されている椿昇の彫刻「アッタ」

通りに面した前庭に展示されている椿昇の彫刻「アッタ」。木の葉を切り出して菌床をつくりキノコを栽培する「ハキリアリ」を巨大化させた作品。

ロン・ミュエクの「スタンディング・ウーマン」

高さ4メートル近くもある、ロン・ミュエクの「スタンディング・ウーマン」。ディテールがリアルなのに対し、大きすぎるサイズが見るものに奇妙な感覚を与える。

覆された概念。その経験から、着想を得る。

ところが、赴任先がパプアニューギニアでね。

山崎

あ……そこまで?

そう、ちょっと遡りすぎた!(笑)

山崎

(笑)。現地ではなにをされていたんですか?

設立されたばかりの国立芸術大学で美術講師をやったんだけど、
ことごとく常識を覆された2年間でしたね。

山崎

たとえばどんなことですか?

まず、1年という概念がない。文字や記号も同じく。
儀式としてのペインティングや踊りは日常にあふれているけれど、
平面のキャンバスに絵を描くというような西洋芸術の概念はない。

山崎

なるほど!

現実の世界ではないところとつながって、
いわばコミュニティに意見する霊媒師の存在も興味深かった。

山崎

みんなが実は思っていることや言いたいことを、第3者に責任転嫁するわけですね。

そういうこと。いまで言う、山崎亮の役割。

山崎

こいつが言ってるから(しょうがないけど)やるか……といわれる役割(笑)。

たった2年のことだったけど、
ここで得た経験は、その後のぼくのプロジェクトに生きています。
たとえば2000年から続けている「かえっこ」プロジェクトは、
パプアニューギニア奥地での「1、2、3、あとはいっぱい!」という、
貨幣価値との互換性がない価値基準がアイデアのベースになっています。

山崎

「あとはいっぱい!」ですか。すごいなあ。
2年経って帰国されたら、日本は変わっていましたか?

1988年。地上げブーム真っ盛りで、まちがどんどん壊されていました。

山崎

その時代に、土地の再開発や都市計画に関わっていかれるんですよね。
そこのところ、とても興味深いのでおうかがいしたいです。

(……to be continued!)

藤浩志さん

独自の子ども通貨「カエルポイント」を使い、いらなくなったおもちゃなどを循環させるワークショップ「かえっこ」を各地で展開している藤さん。

山崎亮さん

「“どうしてこの仕組みが成立しているのか”が気になるのは、僕も同じです」(山崎)

information

map

十和田市現代美術館

青森県十和田市が推進するアートによるまちづくりプロジェクト、Arts Towada(アーツ・トワダ)の拠点施設として、2008年4月に開館した現代美術館。アート作品が街に対して展示されているかのような開放的な空間構成を持ち、まちづくりプロジェクトの拠点施設としてつくられた特徴ある美術館となっている。

住所:青森県十和田市西二番町10-9

TEL:0176-20-1127

Web:http://towadaartcenter.com/

profile

HIROSHI FUJI 
藤 浩志

1960年鹿児島生まれの美術家。京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了し、翌年よりパプアニューギニア国立芸術学校講師、建築企画・都市計画コンサルタント勤務を経て、藤浩志企画制作室を設立。対話と地域実験の場を作る美術類のデモンストレーションを実践。2012年4月より十和田市現代美術館副館長に就任。

Web:http://geco.jp/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ