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手刷りの本をつくる
“森の出版社”を
美流渡でやってみたい!

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.051

posted:2017.9.21  from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

〈タラブックス〉が教えてくれた、これまでにない出版社の在り方

「北海道にエコビレッジをつくろう」と始めた連載も50回を過ぎた。
土地を探すべく、岩見沢にある山を買い、
古家を取得しと、いろいろやってきたわけだが、
なかなか「これ!」というビジョンが定まっていたわけではなかった。

エコビレッジとは、簡単に言えば環境に負荷をかけず自給自足的な暮らしを営む共同体。
世界各国でさまざまな事例があり、規模も運営方法も多彩だ。
つまり、どんなエコビレッジにするかというところが大事なのだが、
そこをこれまでずっと模索していた。

そんなわたしの頭がハンマーでガツンと叩かれたぐらいの衝撃的な出来事があった。
南インドの出版社〈タラブックス〉がつくった本との出会いだ。
20年ほど編集者を続けていたため、北海道に移住する以前から
タラブックスのことは知っていたが、これまでそれほど深く追求したことはなかった。

けれども、今年の11月に東京・板橋区立美術館で
タラブックスの大規模な展覧会が開催されることを知り、
しかも、この展覧会を企画しているメンバーは、
わたしの古くからの友人であったことも手伝って、
あらためて本を見てみようという気持ちになった。

タラブックスのハンドメイドの絵本シリーズ。日本語版もハンドメイド。『夜の木』(タムラ堂出版)(写真提供:ブルーシープ)

タラブックスの本の存在感はすごい。

ざらっとした紙の風合いとインクの臭い。
手漉きの紙にシルクスクリーンの手刷り、そして手製本。
描かれる内容もオリジナリティにあふれ、インドの少数民族が語り継いだ物語を
丁寧に編集し、独自の絵本文化をつくろうと試行錯誤を続けている。
土着的なエネルギーとともに、すっきりとしたデザインの感性も感じさせる
見事な本づくりだ。

「ああ、わたしもこんな本がつくってみたいなぁ〜」

本を手にしながら、そう思った瞬間、いままでバラバラに考えていたものが、
一本の道としてつながっていくような想いがした。

「そうか、美流渡(みると)で、手刷り手製本の出版社をつくって、
それをエコビレッジの拠点にすればいいんじゃない?」

岩見沢の山間部に位置する美流渡なら、
空いている土地があるから、工房も見つかりそう。
しかも、シルクスクリーンなら、まずはDIYレベルで機材を揃えられるはず。
そして、わたしが常々かたちにしたいと思っている、
美流渡にある自然や四季をテーマとするような絵本をつくってみたらどうだろう……。

頭の中には、すでに美流渡で工房をつくって印刷している様子が浮かぶほど、
妄想(?)はどこまでも広がっていった。
東京にいたときには思いもよらなかったビジョンが、
北海道という地にいることで急に具体的に考えられるようになったのだった。

シルクスクリーンを何版も重ね、刷られたインクが盛り上がっている。『夜の木』(タムラ堂出版) (写真提供:ブルーシープ)

さっそくYouTubeで、タラブックスの社員たちが印刷をする様子を見て、
ますます気持ちは盛り上がる一方。

こうなると、もう、自分を止められない。
どこまでも突っ走っていきたい気持ちになったのだが、
実は出産したばかりで、赤ちゃんはまだ1か月。
さすがにひとりでは、行動範囲も広げられずウズウズしていたところに、
いつもイベントやワークショップの活動をともにしている、
地域おこし推進員(協力隊)の吉崎祐季さんからこんな相談メールが舞い込んだ。

〈みる・とーぶ〉のロゴを、Tシャツやエコバッグに
シルクスクリーンで刷ってみたいんですが、來嶋さんやったことはありますか?」

ええっ!? なんてタイムリーな相談!!
わたしひとりだと赤ちゃん抱えては難しいけど、
吉崎さんが一緒なら、シルクスクリーンを試すことができるかも!?

ということで、わたしたちの活動、岩見沢の山里をピーアールする
みる・とーぶのロゴ入りのエコバッグをつくろうということになった。
また、わたしは、本づくりを見据えて、まずはポストカードをつくってみることにした。

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シルクスクリーンに挑戦!

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とにかくやってみよう! シルクスクリーンにさっそく挑戦

やろうということになったが、シルクスクリーンの機材をどうやって揃える?
自分たちでイチから用意するのは大変なので、
知人が教えてくれたレンタル工房を借りてみることにした。
場所は〈札幌芸術の森〉。ここには陶芸や木工、版画などさまざまな工房がある。

経験者であることが条件なので、吉崎さんは事前にこの工房が開催する
シルクスクリーンのワークショップを受講(わたしは赤ちゃんが小さすぎて断念)。
また、一応わたしも美術大学出身で、
シルクスクリーンの課題をやったことがあるので、記憶をたよりにしながら、
YouTubeで技法をおさらいして、いざ版画工房へ!

札幌芸術の森は、岩見沢から車で約1時間30分とかなり遠いが、
設備の整った工房で作業できるのはとてもありがたかった。

シルクスクリーンの手順はどんなものかというと、
まず、メッシュを張ったフレームに絵柄を焼きつけ、
インクの通る部分と通らない部分のある版をつくる。
この版にインクをのせて、スキージーという平らなヘラで刷ると、
絵柄が現れるというものだ。

光が当たった部分だけ固まって、インクを通さない働きをする感光材を、枠に張ったメッシュに薄く塗る。均一に塗るのはなかなか難しい。

露光機の台に原稿を置き、その上にメッシュを張った枠をセットし、スイッチオン。光を照射!

感光した版を水で洗うと、絵柄の部分だけが透けて見えている。「ワー、ちゃんとできてる!」

版にインクをのせて、エイっ! とスキージーを動かすと……

できました! 〈みる・とーぶ〉のエコバッグ!! きれいな仕上がりに感動。

2色刷りにも挑戦。かわいい!

岩見沢の山里はリンゴの産地。さまざまな品種の名前を知るカード

エコバッグとともに刷ったのはリンゴのポストカード。

わたしが試してみたのは、リンゴの絵柄のポストカードだ。
岩見沢の山里のひとつ、毛陽地区はリンゴの産地。
数十種類の品種をつくっていて、スーパーなどでは
なかなか見かけることのないものもあるという。

こうした多彩なリンゴの名前を知ってもらいたいと思い、秋のはじめに実る早生の3種、
〈しおりの詩〉〈マオイ〉〈シナノレッド〉をモチーフにした。
実際に果樹園でリンゴを買って食べ、どんな味わいなのか解説もつけてみた。

種類によってリンゴの形はさまざま。丸かったり、肩が張っていたり。じっくり観察すると色や表面の肌合いも違うことがわかる。

葉っぱ型の紙に、味のポイントを入れたもの。早生の3種類は酸味が強くスッキリした味わい。

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さっそく秋祭りで販売!

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こうしてつくったエコバッグとポストカードを、さっそく地元のイベントで販売。
9月16日、岩見沢で最大級の秋祭り〈ふるさと百餅(ひゃっぺい)祭り〉で、
地元産の食材を使った飲食店や地域で活動する団体のブースが並ぶ中に、
〈みる・とーぶ〉も出展。4月に札幌市資料館で販売した、
地元の手づくりを愛する人々がつくった商品とともに並べたところ……。

開店から1時間もたたないうちに、
エコバッグとポストカードを買ってくれるお客さんが!

1日でポストカードは完売(といっても10枚足らずだけど)。
1枚150円という、本当にささやかな一歩だったけれど、
“森の出版社”への道が見えるような清々しい気持ちになった。

〈みる・とーぶ〉のブース。人気商品の蜜蝋キャンドルなど、さまざまなアイテムを並べた。次回は、9月24日に毛陽で行われるイベント〈メープルフェスタ〉に出展予定。

タラブックスのものづくりの精神を、エコビレッジのヒントに

今回は、シルクスクリーンの技法にチャレンジすることから始めたが、
タラブックスが世界中の人々を虜にする、すばらしい本をつくっているのは
手透き、手刷り、手製本という技法を使っているからだけではない。

タラブックスの展覧会に先立ち刊行された書籍
『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』によると、
こうしたハンドメイドの本は、出版される本のうちの約2割(それ以外はオフセット印刷)。
どのような印刷工程を経たのかよりも、重要なのは本の内容だ。

インドでは、これまで西洋の絵本が大量に入ってきており、
独自の絵本はほとんどつくられていなかったという。
そんななかでタラブックスは、少数民族が語り継いできた物語を絵本にして、
自分たちの文化をつくろうという使命感を持って出版を続けてきた。
構想から出版には何年もかけることが多く、少数民族の画家のもとに何度も足を運び、
信頼関係を培うなかで本づくりを行っているのだという。

『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』(玄光社)

また、世界中からハンドメイド絵本の注文があり、
品薄になっているものもあるそうだが、あえて会社の規模を拡大せず50人弱にし、
ゆとりをもって仕事をし、誰もが互いに意見を言い合える環境をつくっているそうだ。

長年、出版社に務め、大量生産大量消費の本づくりに埋もれ、
毎月本を刊行しなければならないノルマに忙殺されてきたわたしにとっては、
こんな会社が実現可能なのかと驚くことばかりだった。

帯に詩人の谷川俊太郎さんが、こんな言葉を寄せている。

「書く人、描く人、作る人、本作りで家族になった人たちの豊かな暮らしっぷり。」

まさに本づくりを通じたエコビレッジのような場所。
それがタラブックスなんじゃないかと、谷川さんの言葉を読んであらためて思った。
自分たちの仕事に誇りを持ち、家族のような関係を築くタラブックスを見習って、
わたしも北海道の森の中に出版社をつくってみたい。

タラブックスのことを知れば知るほど、そこには田舎だからこそできる
すてきな本づくりのヒントがいっぱいつまっていて、
つい美流渡でもできるんじゃないかという気になってくる(またもや、妄想!)。

自分たちがいかに暮らすかだけでなく、本の制作という“仕事”を通して、
新しい価値観を創出するような、そんなエコビレッジができたらと……
いま期待に胸がふくらんでいる。

information

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世界を変える美しい本 
インド・タラブックスの挑戦

会期:2017年11月25日〜2018年1月8日

会場:板橋区立美術館(東京都板橋区赤塚5-34-27)

http://bluesheep.jp/11

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