連載
posted:2017.10.5 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
北海道は実りの秋が訪れている。
リンゴが熟し、お米の収穫もまっさかり。
わたしが転居しようと計画中の岩見沢の山里は、
ちょうど木の葉が色づき始めたところだ。
長い冬に閉ざされる前の、ほんの短い間の紅葉を眺めていると、
なんだか切ないような不思議な感覚がわいてくる。
この自然に囲まれた山里を、もっと多くの人に知ってほしいと始めた
〈みる・とーぶ〉という活動。
これまでは、地元のみんなでつくった雑貨などを販売したり、
ワークショップをしたりしてきたが、この秋、新たな試みを行った。
この地域では初となる、フォトコンテストの開催だ。
岩見沢の山里は東部丘陵地域と呼ばれており、このエリアで撮影された写真であれば、
風景、人物、動物などジャンルは問わないというものだ。
コンテストのテーマとなった東部丘陵地域は、多様性にあふれた場所だ。
道道38号線沿いに広がり、20キロほどの道のりではあるが、
そのなかに、上志文、宝水、上幌、宮村、朝日、美流渡(みると)、
毛陽(もうよう)、万字(まんじ)と呼ばれる地区があり、
それぞれが違う個性を持っている。
例えば、朝日、美流渡、万字は、炭鉱街として栄えた歴史があり、
その名残りを感じさせる旧跡がいまもある。
上志文、上幌、宮村は田畑が広がる農村地帯。
また、毛陽や万字は山間の地形を生かして、
リンゴやブルーベリーなどの果樹の栽培が盛ん。
宝水は、映画のロケ地ともなったワイナリーが有名だ。
こうしたさまざまな顔を持ち、四季折々の変化も美しいこの一帯には、
どんな景色や人の営みがあるのだろう。
これまでに、みんなが撮った写真を見てみたい。
そんな想いがきっかけになり、フォトコンテストの準備が始まった。
企画の中心となったのは、みる・とーぶのメンバーのひとり、上井雄太さん。
上井さんは、東部丘陵地域で活動する地域おこし推進員(協力隊)として、
2016年、この地にやってきた。
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フォトコンテストは、上井さんがずっとやりたいと思っていた企画。
堅苦しくないコンテストにしたいと、審査員と賞品提供は、
地元で商店や食堂を営む3人に依頼した。
ひとりは朝日地区で、たった一軒ある商店〈たかはし商店〉の店長で、賞品は“しめ鯖”。
もともと魚屋だったこともあり、山間の店ながら、ここのしめ鯖は本当においしい。
もうひとりは、美流渡地区で唯一の食堂〈一番〉の女将で、賞品はラーメン無料券。
そして、写真展の会場ともなった毛陽地区にある宿泊施設
〈スパ・イン メープルロッジ〉の皆さんも審査員に加わり、
無料宿泊券が賞品となった。
読者の方には恐らくまったくピンとこないと思うが、
地元の人にとっては心躍るラインナップだ。
わたしも、最初にこの賞品を聞いたとき「ぜったい応募する!」と意気込んだ。
フォトコンテストといえば、著名な写真家や行政の代表者のような人の名前を入れて
“権威づけ”をすることも多いが、今回は、いつもおしゃべりしている人が審査員だし、
馴染みのものが賞品ということもあって、“親近感”がすごくわいたのだった。
上井さんのプランでは、当初、ウェブでの発表を検討していたようだが、
メープルロッジの秋祭り〈メープルフェスタ〉で写真が展示できることに。
こんなふうに次第に地元を巻き込むイベントへとなっていき、
トントン拍子で話が進んでいったのだったが……。
思いのほか関係各所の調整に時間を要したため、
作品募集がスタートしたのは、締め切りの20日前くらい。
そのため展示前日までメールやインスタグラムなどでの応募を可能としたが、
準備の時間がまったくとれないという事態に……。
9月24日、写真展を開く当日の朝、上井さんは、眠そうな眼で会場にやってきて、
挨拶もそこそこに慌ただしく展示準備を始めていた。
みる・とーぶのメンバーも手伝って、なんとか時間通りに展示終了(おつかれさま!)。
募集期間が短く応募がほとんど来ないんじゃないかと、
上井さんは不安に思っていたようだが、ふたを開けてみれば応募総数は138枚!
その多くはメールやインスタグラムによるものだったため、上井さんはほぼ寝ずに、
写真データをすべてプリントしたのだった(しかも、額装も!)。
会場で同時開催していたメープルフェスタは盛況で、地元はもちろん、
札幌などさまざまな地域から人が集まり、多くの人が写真を見てくれた。
審査員が各賞を選ぶとともに、当日は、来場者による投票も行われ大賞が決定。
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展示された写真を見て意外だったのは、
子どもたちの様子をとらえたものが、たくさんあったことだ。
東部丘陵地域は過疎化が進み、特に子どもたちの数は減少の一途。
行政の手が回らず、小中学校は統廃合されるなどの問題があった。
こうした問題を抱えていても、いまなお子どもたちは思い切り遊び、
その笑顔は変わることなく輝き続け、人々に活気を与えるものなんだなあと、
ヒシヒシと感じた。
また、この地域にいると、木々や草花に囲まれていることが、
あたりまえの日常となっているのだが、写真というフィルターを通すことで、
生い茂る木々の色や夕焼け、雪景色の美しさにあらためて気づかされた。
以前みる・とーぶで開催したお話会で、
この地域のピーアールをいかに進めていくのかという話題のなかで、
ある参加者が「みる・とーぶのメンバーが、まずこの地の魅力はなんなのかを、
もっと突き詰めて考え、そこから活動を深めていくのが、いいのではないか」
という提案をしてくれたことを思い出した。
そして、まさに、この写真に移っている“人”や“風景”が、
この地の魅力なんだということが実感できた。
言葉で「これが魅力だ!」と表現するのは難しいのだが、
北海道ならではの大自然というよりも、ここが親近感のわく里山であり、
そして、この土地を愛し、自分なりのこだわりを持って暮らす、
素朴な人々が集う地域なんじゃないか。
フォトコンテストの開催によって、この地の魅力を踏み込んで考える
手掛かりをもらった気がした。
フォトコンテストが終わってひと息ついた上井さんだが、
地域おこし推進員として、まだまだやりたいことはたくさんあるという。
2013年から2年間、青年海外協力隊として
フィリピンで農業支援の活動をしてきた上井さんは、
東部丘陵地域にもっと海外の人を呼びたいという夢を持っており、
この地の魅力を伝えるツアーができないかと模索中だ。
上井さんは、この地にフィリピンの友人を何度か案内したことがあり、
緑豊かな風景に、皆とても好感を持つのだという。
また、必ず人を紹介するようにしていて、
それが旅のかけがえのない思い出となるのだそうだ。
「見せたい場所は、いろいろとあります。また、果樹園で働いたり、
家を自分で改修しようとしている“おもしろい”人もたくさんいますし」
上井さんも、従来の観光名所とは違う、人がこの地で
どのような営みをしているのかを見せようとしていることがわかった。
国内だけでなく、海外の人も、この地域の“人”、そして“風景”に興味を持つのであれば、
やっぱりみる・とーぶは、この2点を突き詰めることで、
活動の輪郭がよりハッキリとしてくることを確信した。
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