連載
posted:2013.4.3 from:山形県山形市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:山口徹花
約80年間の小学校としての役目をまっとうした建物を、
「ものづくり支援」「観光交流」「学び舎」を基本コンセプトに
「山形まなび館・MONO SCHOOL」として新たに生まれ変わらせ、
仲間とともにその運営に携わった萩原尚季さん。
山崎さんと一緒に、その3年間の足跡をたどります。
萩原
昭和初期につくられたこの校舎は、木造校舎のような郷愁はないけれど、
それでもぼくらが大切にして、後世にのこしていくべき価値があると思うんです。
山崎
「エディプスコンプレックス」なんていうと大げさかもしれませんが、
ひとつ上の世代への反抗心というか。これはどの世代も持っている。
たとえば、平成に生きているぼくらは、昭和後期の、
たとえばバブル時代に流行ったもの、つくられたものは恥ずかしくて仕方がない。
建築もプロダクツも、いまあんまり見たくないですよね。
萩原
そうですね。ぼくは山崎さんより3つ下ですけど、
同世代としてその感覚、わかります。
山崎
でも、次の世代のひとたちはきっと、
おそらくバブル時代のなかにあたらしいものを見いだす。
お父さん世代をつねに否定しながらも、おじいちゃんの代はいいと思える、と。
現代だけでなく、ひとは、ずっとそうやって生きてきたんだと思います。
では、ぼくらが次の世代を思って、のこしておくべきものは何なのか。
いま全国でどんどん廃棄されつつある昭和的なものに対して
それを本質的に見極め、「ちょっと待った!」と言えるのが、
ほんとうの目利きなのかもしれませんね。
萩原
山形でも、生活様式の変化や現代化によって、伝統産業、その他の産業で
各世代の職人さんたちが受け継いできた技や価値が、
どんどん衰退しているのが現状です。
かたや、東北芸術工科大学があり、そこではあたらしい人材が育っているのに、
卒業生が山形に根づいていかない。そういったちいさなズレを、
なんとか繋ぎあわせることができないかなって思うんです。
山崎
伝統産業、伝統工芸はとくにそうですよね。封建的な制度が崩壊して、
お父さん世代は安定した稼ぎの得られるサラリーマンになっている。
でも、孫世代には輝きを見いだすことができるんです。
奇しくも、山形発の映画『よみがえりのレシピ』のなかでも、
農や伝統を受け継ごうとする「孫」の存在が描かれています。
そのまちが古くから受け継いだ大切なものが記憶喪失になってしまわないように、
萩原さんのようなひとたちが、ヒントや手法を見つけて
地域の共感を得ていくというのは、いまとても重要なことだと思いますよ。
山崎
萩原さんが代表をつとめるデザイン事務所「コロン」が、
そういった思いを胸に、3年間この「山形まなび館」の
事業委託業務を行ってきたわけですが。
萩原
はい。はじめてのことばかりで、
なおかつ本業のデザイン業務も兼業してきたので、
正直、あっというまの3年でした。
2012年度の「グッドデザイン・ベスト100」を受賞し、
運営や活動の一端が少しは認めてもらえたかな、とは思いましたが、
地元の方々にはまだまだ周知できていない現実もあり、
もどかしく感じていました。
山崎
なるほど。
萩原
あたらしいモノをつくり続けなくても、
山形にはすでに魅力的なモノがたくさんあります。
それを編集しなおし、ていねいに伝えることを大切にしたい。
それも、続けていかなくては意味がない。
そう思うと、ぼくらにとって3年という期間は
あまりにも短い時間だったように感じています。
山崎
当初の行政の決まり通りにこの「山形まなび館」という場を
離れることになる萩原さんですが、
今後はどのような活動を予定されていますか?
萩原
現在進行中のAPARTMENT PROJECT
(みかんぐみの竹内昌義さんの提案しているエコハウスの機能をもったアパート)
の一室にゲストルームを設け、
宿泊ができたり、住人を中心にした小さなイベントを行える、
ちょっと変わったアパートメントを設計中で、9月には完成予定です。
山崎
それはたのしみですね。
ぼくも学科開設に向けてこれから山形に来る機会が増えるので、
ぜひ山形で一緒になにかやりましょう。
萩原
はい。そのときはまた成長したぼくらを見てもらえるようにがんばりますので、
どうぞよろしくお願いします。
information
山形まなび館・MONO SCHOOL
県下初の鉄筋コンンクリート学校建築として、昭和2年に建てられた「山形市立第一小学校」が、約80年間の小学校としての役目をまっとうし、平成22年4月に「ものづくり支援」「観光交流」「学び舎」の拠点として生まれ変わった。
住所:山形県山形市本町1-5-19
TEL:023-623-2285(管理事務室)
開館時間:9:00〜18:00(交流ルームは〜21:30)
休館日:月曜(祝の場合は翌日)および12月31日、1月1日
profile
TAKAKI HAGIWARA
萩原尚季
アートディレクター。1976年茨城県生まれ。2000年東北芸術工科大学を卒業後、同大学の大学院に進学。スウェーデンへの交換留学経験から2001年デザイン事務所「コロン」を立ち上げ、2010年「株式会社コロン」となる。同年、山形市立第一小学校旧校舎活用の委託業者に選定。4月「山形まなび館・MONO SCHOOL」としてリニューアルオープン、その運営方法で2012年度「グッドデザイン・ベスト100」を受賞した。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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