連載
posted:2013.3.11 from:山形県山形市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:山口徹花
約80年間の小学校としての役目をまっとうした建物を、
「ものづくり支援」「観光交流」「学び舎」を基本コンセプトに
「山形まなび館・MONO SCHOOL」として新たに生まれ変わらせ、
仲間とともにその運営に携わった萩原尚季さん。
山崎さんと一緒に、その3年間の足跡をたどります。
山崎
先日山形にうかがったときは、次年度の運営業者選定にもエントリーする、
というタイミングだったのですが……。
萩原
その後、2月21日に市役所から、次年度委託事業者に
選定されなかった旨の通達を受けました。山形市内のみならず、
全国からたくさんの方々に継続運営の応援をしていただいていたので、
とても残念な思いでいっぱいです。
山崎
こういうことって往々にして、
調査しやすい「来場者数」が評価の基準になったりしますが、
このとき安易に「数字」だけをみるのはよくないと思っています。
ほんとうに大事なのは「何人」ではなく、「どんなひとが来たか」ということ。
トイレだけ借りにきたひとと、この場に来たことで意識が変わって
その後じぶんでイベントをおこしたひとは、
果たして同じ「ひとり」として数えられるだろうか……。
そんな評価軸の設定と手法が、本来はきちんとつくられていくべきですね。
萩原
ぼくが代表をつとめる「コロン」というデザイン事務所で
運営を請け負ったのですが、なにしろ初めての公共のしごとで、
最初の2年はほんとうにあがいてばかり。
やっとこの1年で、こんなにすばらしいチャンスをいただけたことに感謝しつつ、
じぶんたちが「なにをすべきか」が見えてきたばかりだったので。
まだ全然、こころの整理がつきません。
山崎
行政との上手なつきあい方なんてわからなくて、
でも全身全霊でここの運営を継続したいと願った若者がいる。
これからの時代、なにが大切かを見いだして動こうとしている
熱き37歳が山形にいる。
これって、このまちにとってとても大事なことだとぼくは思いますよ。
萩原
できれば、任期3年でハイ終わり! ではなく、
もう少しぼくらも周りも「育つ」時間、継続のチャンスをいただいて、
ぼくらが思い描いたもののたのしさを証明したかったなあと。
山崎
そもそも、萩原さんたちは、なぜここの運営を受託しようと思ったんですか?
萩原
ぼくは大学進学で山形に来たんですが、暮らすうちに
「なんて贅沢な土地なんだろう!」って感銘を受けたんです。
でも、東北のなかでもとくに、山形はメディアで取り上げられる機会が少なくて。
それなら、山崎さんがひととひとをつなげるように、
ぼくらが山形のモノや価値を外とつなげて伝えるということを
しごとにしたいなあと思ったんです。
山崎
なるほど。
萩原
この場所に惹かれたのには3つの理由があります。
ひとつは、たとえば山形鋳物の鉄瓶のようなすばらしい伝統産業を、
色やカタチを変えるという方法ではなく、使い方やその良さを伝えることで
流通の仕組みを支えたいという思い。
2つめは、D&DEPARTMENTのナガオカケンメイさんとの出会い。
3つめは、スウェーデンの大学に留学したときの経験です。
卒業生が無料で使えて弁護士や税理士のサポートを受けながら
起業準備ができる部屋があり、おのずとひとが育つシステムが整っているんですよ。
そうすると、10年、15年経つと彼らが先生として戻ってくるんです。
東北唯一の芸大を持つ山形で、さらにぼくらがまちとモノ、ひとをつなげることで、
この「まなび館」がそんな場所になればいいなって、そんな夢を描いたんです。
山崎
ひとが集まり、さらに若いひとのはたらきを生む場にもなるわけだ。
行政にとっても一石何鳥にもなる、いいアイデアのように思えますけどね。
(……to be continued!)
information
山形まなび館・MONO SCHOOL
県下初の鉄筋コンンクリート学校建築として、昭和2年に建てられた「山形市立第一小学校」が、約80年間の小学校としての役目をまっとうし、平成22年4月に「ものづくり支援」「観光交流」「学び舎」の拠点として生まれ変わった。
住所:山形県山形市本町1-5-19
TEL:023-623-2285(管理事務室)
開館時間:9:00〜18:00(交流ルームは〜21:30)
休館日:月曜(祝の場合は翌日)および12月31日、1月1日
profile
TAKAKI HAGIWARA
萩原尚季
アートディレクター。1976年茨城県生まれ。2000年東北芸術工科大学を卒業後、同大学の大学院に進学。スウェーデンへの交換留学経験から2001年デザイン事務所「コロン」を立ち上げ、2010年「株式会社コロン」となる。同年、山形市立第一小学校旧校舎活用の委託業者に選定。4月「山形まなび館・MONO SCHOOL」としてリニューアルオープン、その運営方法で2012年度「グッドデザイン・ベスト100」を受賞した。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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