連載
posted:2013.10.29 from:北海道 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
北海道旭川の木工メーカー、コサインのドレスラックは
20年売れ続けている商品だ。
シンプルで使いやすく、オイル仕上げなので木のぬくもりとやわらかさが
そのまま感じられる。
他にも、コサインの製品は、長く使って経年変化を楽しめそうなものばかり。
それらを生み出している工房を見学させてもらった。
工房で働くのは12人。120~130種類の製品をここでつくっている。
小ロット生産なので、
大規模な機械や最先端技術が導入されているわけではないが、
みんながコミュニケーションを取りやすい範囲にまとまっている。
まずは製材所から買ってきた木材から「木取り」する。
生産する製品に合わせて、できるだけ無駄が出ないように材料を選び
幅と長さを決めてカットしていく。
頭のなかで最終段階がイメージできてないといけない。
この段階で歩留まりが大きく変わってしまうからだ。
その後の加工段階では、自動制御の機械を使うこともあるが、
手作業で行うことも多い。
すべて同じスピードで送っていけばいいというものでもない。
木はそれぞれ違うので、堅さや節、木目などに合わせて調整していく。
切られていく音や手の抵抗から判断する。
ここは人間の感性だ。
最終段階の仕上げはサンダーという機械などによるサンディング。
加工までは数値の世界だが、削るのはひとの手でしかできない。
特に3Dのアールのついたものなどは難しく、スキルの差が出るところだ。
作業を見ていると、ひとの手で削り込んでいく部分が
思ったよりも残っていることがわかる。
最終的には手間をかけて、手の感覚で仕上げるのだ。
最後は塗装。オイル塗装はなんと、軍手で塗っている。
作業性も高く、塗りやすいという。
オイル塗装のものであれば、購入後でも、自分でメンテナンスができる。
年に1回程度、専用オイルで磨くことで、
木の乾燥を防ぎ、風合いやツヤが増す。
こうすることで長持ちするのが、木工製品の特長だ。
手間をかけてあげれば、その分、応えてくれる。
「そもそも学校で本棚をつくったり、日曜大工で犬小屋をつくるなど、
木工は自分でできる工作として、慣れ親しんだものでした。
ものづくりしやすい材料だし、五感的にもその魅力を感じられますよね」
コサインの星 幸一社長は、こう語る。
私たち日本人は、木によるものづくりの感覚が、手に残っているはずだ。
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製品づくりの際にでる端材からつくった商品を展開している「cosine TOY」のなかで、
「こっぱっぱ」は、なんと端材そのまま。
さまざまなかたちの端材が袋に入っており、
子どもたちのイマジネーションを広げてくれるおもちゃだ。
オリジナルの時計をつくるイベントでは、ベニヤ板を用意し、
山と積まれたこっぱっぱを自由に貼り付けてデザインしていく。
最後に真ん中にムーブメントを付ければ完成だ。
誰かの顔になったり、シュールなファインアートになったり、
子どもの感性は無限大。
このこっぱっぱを段ボールに詰めた「こっぱっぱ宅配便」として
地元の保育園にプレゼントするCSR事業も展開している。
端材というものが何なのか、
子どもたちにはまだわからないかもしれないが、
いつか、その意味を理解すれば、ものづくりへの愛情を深めてくれるかもしれない。
コサインでは山林をひとつ購入した。
「散策路や広場をつくって、子どもたちの創造の森にしたいです。
木工のメーカーとしてもっと山や木を知ろうというのはありましたが、
それよりも地元の子どもたちのためでもあります」
間伐材でコースターをつくったり、刈った笹で笹茶を淹れたり。
山で存分に遊びながら、子どもたちとともに、未来へ自然を残していく。
あわせて、旭川家具工業協同組合では1年に1回、
2000~3000本のミズナラの苗木を植える植林活動をしている。
「植林をし、木製品がつくれるまで育つのは約100年後。
だから自分たちのためではありません。
それに植林がただのパフォーマンスに終わらないように、
それ以降の草刈りや手入れも積極的にしていきたい」
木を植える、育てる、使い切る。
最初から最後まで見守ること。木材を扱うメーカーとしての責任感だろう。
未来の社会をつくっていくという意味では、
星社長が推進している
『旭川に公立「ものづくり大学」の開設を目指す市民の会』も見逃せない。
旭川にあった東海大学が、2013年度をもって閉校してしまうことになった。
大学がなくなることで、
若者がいなくなってしまうことを危惧して立ち上がった運動だ。
旭川の人口は減り続けている。
そのうえ、若者が流出してしまっては活気がなくなってしまう。
市民大学やソーシャル大学は流行っているが、
本物の公立大学をつくってしまおうという運動は面白い。
旭川が家具のまちということもあり“ものづくり”という言葉が使われているが、
そこにはさまざまな意味が含まれる。
この大学が目指すところは、20世紀の大量消費型のものづくり社会ではなく、
「いいものを長く大切に使い継ぐ文化と知性の時代」であるという。
そうした産業を支える学びの場だ。
旭川にはたくさんのものづくり企業があるので、
実践的な教育や卒業後の雇用促進も期待できるだろう。
しかも公立を目指している。市民の意思であり、市民のお金なのだ。
地域の資源を活かして、地域の人材を育成し、地域で活躍してもらう。
いまはまだ、議論のテーブルにのせる段階で、
各地で署名運動などが行われている。
市も調査費を捻出してくれた。
自分たちの手で生み出し、育てた大学が、
旭川の未来に大きく貢献してくれるのは間違いない。
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コサイン
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