連載
posted:2022.10.27 from:北海道函館市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
profile
Masayuki Togashi
富樫雅行
とがし・まさゆき●1980年愛媛県新居浜市生まれ。2011年古民家リノベを記録したブログ『拝啓 常盤坂の家を買いました。』を開設。〈港の庵〉〈日和坂の家〉〈大三坂ビルヂング〉で函館市都市景観賞。仲間と〈箱バル不動産〉を立ち上げ「函館移住計画」を開催し、まちやど〈SMALL TOWN HOSTEL HAKODATE〉を開業。〈カルチャーセンター臥牛館〉を引き継ぎ、文化複合施設として再生。まちの古民家を再生する町工場〈RE:MACHI&CO〉を開設。さらに向かいの古建築も引き継ぎ、複合施設〈街角NEWCULTURE〉として再生中。地域のリノベを請け負う建築家。http://togashimasayuki.info
credit
編集:中島彩
函館市で設計事務所を営みながら、建築施工や不動産賃貸、
ポップアップスペースやシェアキッチンの運営など、幅広い手法で地域に関わる
〈富樫雅行建築設計事務所〉の富樫雅行さんによる連載です。
今回お届けするのは、築54年の平屋を仲間たちとともに
ハーフセルフリノベーションするお話。
この平屋を〈ケントハウス〉と名づけ、
コンテナの仕事部屋とフォトスタジオを併設させながら、
半2世帯住宅をつくるプロジェクトをご紹介します。
ケントハウスとは、今回の主人公である水本健人(みずもと けんと)くんが
生まれ育ったご実家です。健人くんとは、vol.4で紹介した〈箱バル不動産〉での
ワークショップをきっかけに出会い、その後、古くなった実家について、
建て替えかリノベーションのどちらがいいかと相談を受けて
プロジェクトが始まっていきました。
実際に訪れてみると、屋根も外壁も真っ白に塗られ、玄関の庇(ひさし)の上には
シーサーが出迎え、なんだか沖縄の米軍ハウスに来たかのような印象。
「このままでカッコいいじゃん!」という家でした。
この家では、健人くん夫妻と健人くんのお母さん、犬、猫2匹の3人+3匹暮らし。
当時、健人くんと奥さんの久美子さんはともに看護師として働いており、
夫婦それぞれに夜勤があるため生活がすれ違い、
生活音の問題もあって苦労していると聞きました。
家のなかの暮らしを見てみると、健人くんのモノクロームな写真がド迫力で飾られ、
お母さんの趣味のドライフラワーがセンスよく吊るされ、棚や机もDIYでつくられていました。
なんと外壁も屋根も自分たちで塗り、色分けが面倒だから全部真っ白に塗ったとのこと。
この家はもともと健人くんのお祖父さんが建てたもので、
できることは自分たちの手を動かす丁寧な暮らしぶりから、
お祖父さんが建てた家を大事にしているんだなと感じました。
建て替えるのは簡単ですが、お祖父さんからお母さんへ、
そして健人くんへと引き継いできたこの家を
この先も大事に住み継いでいくほうがいいはずだと、
しっかりリノベーションしていこうと決意しました。
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小さな平屋のなかで、夫婦とお母さんの生活空間をどう快適にまとめるかが難題となりました。
断熱や耐震の補強のほか、以下の目標をあげて、間取りを考えていきます。
・玄関とお風呂と脱衣場だけを共有する半2世帯の形態をとる
・犬や猫との共同生活のため、夫婦側は床暖房を入れた土間にする
・ロフトにたくさんの収納スペースを設ける
・お母さんの趣味のドライフラワーがたくさん飾れるスペースを設ける
・健人くんの作業部屋として、写真の現像などができるコンテナを設ける
ご夫婦ともに職業訓練校で少しだけ大工の勉強をしており、
今回のDIYではそれを生かしていきたいとのこと。
できない部分はプロに頼みながら、ハーフセルフビルドで進めていくことになりました。
お祖父さんから引き継いだ家を自らの手でリノベする挑戦。
その生きざまを「ケントハウス・リノベーション」とプロジェクト名に刻みました。
2018年2月下旬、ついに工事が始まりました。
電気やガス、水道を撤去したあと、夫婦ふたりの仕事の合間を縫ってセルフで解体していきます。
大三坂ビルヂングの工事に参加していた仲間たち、通称「DIYフレンズ」も
お手伝いに加わり、ブナの木のフローリングを丁寧に剥がし、
レトロなガラスの建具も保管しながら、壁や天井の内装を撤去していきました。
ここまでは静かなスタートでしたが、双子で大工の工藤厚樹さんと勇樹さんが来てからは
一気にスピードアップ。外壁のモルタルまで解体すると、下から出てきた板がいい感じで、
これも再利用しようと丁寧に剥がしてもらいます。
続いて、家の骨格となる部分を整えていきます。
無理に増築された押し入れ部分などを減築して引っ込めたり、
土台や梁(はり)を入れ替えたり、老朽化したブロック煙突を解体したり、
腐った屋根の軒先を切り詰めたり。
それと同時に平屋で三角屋根という構成や、出窓の空間など、
この家の個性を伸ばしていく作業が最初の大事な仕事になっていきました。
土間の工事にも多くのDIYフレンズが手伝いに来てくれました。
基礎の内側を掘って断熱材を入れるところから鉄筋を組むところまで、
部分的に大工さんのレクチャーを受けながら進めていきます。
DIYフレンズの今さんは土間コンクリートの打設のお手伝いまでしてくれました。
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土間が固まると今度は内装を進めます。特にこだわったのは建具たち。
居間の大きな窓には、この家から出てきた敷居や鴨居などの廃材を使い、
大工さんに古木製サッシをつくってもらいました。
玄関ドアもリメイクです。
市内の骨董屋さんで健人くんが買ってきた
アンティークなドアのガラスを断熱ガラスに入れ替え、断熱材も入れました。
元の玄関に使っていた引戸は、お母さんの部屋と脱衣場の間に再利用。
市内の解体現場でもらったアンティークなドアも、
ドアに合わせた枠をつくって再利用しています。
大工さんが壁と天井の下地を組んで断熱材がパンパンに入ったら、
自分たちで防湿フィルムを張り、石膏ボードや合板を切って張っていきます。
天井には、外壁のモルタルの下地に使われていた荒板を再利用。
板を洗って乾燥させたら大工さんに張ってもらい、
あとを追いかけるようにみんなで釘打ちします。
お母さんの部屋と脱衣場には、土間の上に木で床を組んでもらい、
足触りのいい道南杉を張っていきました。
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もともと居間の床板に使っていたブナのフローリングは、
健人くん夫婦の居間の壁に再利用しました。
また、夫婦側の居間、寝室、トイレにかけて、
部屋の上部にはキャットウォークを巡らせています。
壁にキャットステップをつけ、ドアには犬用の窓をつけて、
上は猫、下は犬とそれぞれの動線を分けました。
健人くんの遊び心で、キャットステップには水道管などに使う銅管や
昔の琺瑯(ほうろう)のボウルなどを組み合わせています。
工事の最後にはコンテナを搬入しました。
ここは健人くんの趣味である写真の現像部屋として使われます。
こうして約8か月かけた工事は、無事に終わりを迎えました。
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引っ越しも終わった翌年すぐのことです。
健人くんはフォトグラファーとして独立し〈FOLPHOTO〉を立ち上げました。
16歳と若くして白血病を患い骨髄移植をした自身の経験によって芽生えた
「いろんな人の人生の足跡を撮っていきたい」という思いからの独立でした。
自宅の居間部分を簡易スタジオへと変身させ、
多くの人の足跡をみんなの記憶に残る写真や映像として撮り続けています。
そんな健人くんがその後の自身の暮らしを撮影してくれました。
その写真の数々を最後にどうぞ。
DIYフレンズと家族総出でつくり上げた健人くん一家の素敵な暮らしが、
1枚1枚の写真から伝わってきますね。
次回にお届けするのは、古ビルを引き継いで、
函館のまちのためにできることを模索する、僕自身のお話です。
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