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自らリスクを負って、
まちに関わるということ。
WORKVISIONS vol.6

リノベのススメ
vol.084

posted:2015.8.19  from:佐賀県佐賀市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Hiroshi Nishimura
西村 浩

1967年佐賀県生まれ。建築家。東京大学工学部土木工学科卒業、同大学大学院工学系研究科修士課程修了後、設計事務所勤務を経て1999年にワークヴィジョンズ設立、代表取締役を務める。大分都心南北軸構想、佐賀市街なか再生計画、函館市中心市街地トータルデザイン、岩見沢複合駅舎、佐賀「わいわい!!コンテナ」など、常に「まち」を視野にいれ、建築・土木・まちづくりなど分野を超えたものづくりに取り組む。マチノシゴトバCOTOCO215 代表、株式会社リノベリング 取締役、東京藝術大学美術学部デザイン科非常勤講師を務める。
http://www.workvisions.co.jp/

WORKVISIONS vol.6

みなさん、こんにちは! ワークヴィジョンズの西村 浩です。
vol.1vol.2vol.3vol.4vol.5と話を進めてきましたが、
今回でいよいよ連載も最終回。
vol.1のワークヴィジョンズの東京オフィスのリノベーションの話から始まり、
vol.2では、初めて市民の方々との協働で取り組み、
ひとつの建物を越えて、
“まちのリノベーション”という考え方を意識した、
三重県の鳥羽のプロジェクトについて、
そしてvol.3以降は、
私の故郷佐賀のまちなか再生のプロセスを紹介してきました。
最終回では、これまでの経験を通じて、
ほんの少しみえてきた地方都市のにぎわい再生のコツのようなものを、
僕なりに整理をしてみたいと思います。

どうしたら、小さな小さな建物のリノベーションが、
大きなまちのリノベーションの物語につながっていい連鎖と循環をつくれるか。
そのヒントになるような話になれば、最終回らしい締めができるかな?(笑)
僕と同じように、
全国各地で故郷を元気にしようとがんばっている方々に向けて、
少しでも参考になればうれしいです。

自ら、まちのプレイヤーになる

ひとりの市民の方からの1本の電話をきっかけに、
かなり疎遠になっていた故郷佐賀に
東京から足を運ぶようになったのが2008年。
その後、佐賀市からの依頼で、
佐賀市のまちなか再生に取り組むようになって数年が経ち、
ありがたいことに佐賀でも民間の建築や
リノベーションの仕事もいただけるようになっていきました。
そうなると、僕やスタッフが東京から佐賀にうかがう頻度もかなり多くなるわけで、
当然のことながら、飛行機代や宿泊費なんかの経費が
びっくりするほどかかるようになりました(汗)。
これでも僕は一応経営者なので(笑)、
佐賀の仕事の経費削減に頭を悩ませることに……。
それを解決するための答えは、
東京とは別に佐賀にも仕事の拠点を持つことでした。
ここから、僕の2拠点での働き方が始まりました。
そこで、さっそくオフィスの場所探しから始めました。
まちなか再生に取り組むわけですから、希望はまちのど真ん中。

ところが、ネットで検索していてわかったことは、
佐賀でも意外に家賃が高いことと、
僕らのような小規模起業のスタイルに合う適当な広さの物件が
とても少ないということでした。
また、佐賀市のまちを歩くとシャッターだらけの状態にもかかわらず、
賃貸物件自体もとても少ない。
これにはいくつかの理由があって、
シャッターが閉まっていても不動産オーナーの方が奥に住んでいるとか、
知らない人に貸すのはめんどくさいと感じているとか、
相続関係の手続きが進んでいない……、
単純に貸し手と借り手のミスマッチだけではなさそうだということもわかりました。

そこで、最終的には空き地を借地して、〈わいわい!!コンテナ〉と同じように、
コンテナを使って、自分たちの場所をつくっちゃおう!
ということになりました。

それが佐賀市呉服元町に誕生した、
http://co-cotoco.jp/〉というスペースです。
ガラスの多い建物ですから、内部の様子が外からよく見え、
まちのにぎわいにもつながるしかけになっています。
僕も佐賀に行くと、気持ちのよい窓際で仕事をすることが多いのですが、
外からよく見えるので、知り合いが僕を見つけてよく立ち寄ってくれます。
ただ、おかげで、なかなか仕事がはかどらなくて
困ることもあるんですけど(笑)、とてもうれしいことです。

商店街の空き地を借地してつくったまちのタマリバ。

そして、これで僕も不動産オーナーになってしまったわけで、
当然、借金をして投資をして、この場所を得たわけですから、
お金を稼ぐことを考えなければなりません。
そこで、ここには、ワークヴィジョンズの佐賀オフィスのほか、
マチノシゴトバとしてのコワーキングスペースと、カフェを併設しました。

カフェとコワーキングスペースの様子。

また、さまざまなイベントや市民活動の場としても活用してもらっています。
COTOCO SAGA 215というスペースがまちに生まれて、
ようやく1年が過ぎたところですが、
人と人のつながりをつくり、
さまざまな市民活動やまちの情報が集まる場として、
少しずつ認知されてきたように思います。

さまざまな市民活動やイベントの様子。

子どもたちも遊びにくるようになってきた。

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空き店舗が足りない?

Page 2

敷地に価値なし、エリアに価値あり −まちのリノベーションのすすめ−

わいわい!!コンテナをきっかけに、
ようやく少しまちににぎわいが戻ってきた佐賀のまちなかですが、
とはいえ、まだまだたくさんのシャッターが閉まったままです。

そこで、今年、2015年2月、ひなまつり期間中の1か月間限定で、
物件オーナーと借り手のマッチングイベントをやってみることにしました。
不動産オーナーに協力いただき、
できるだけ多くの閉まりっぱなしのシャッターを開け、
そこに、「将来的にまちなかでお店を開きたい、活動の場がほしい」
と思っている“まちのプレイヤー予備軍”を募集して、
マッチングさせようという実験です。

オープンシャッタープロジェクト〈ひなのみせ〉という名のこの社会実験は、
僕が子どもの頃体験したような商店街のにぎわいを、実験的に再現し、
その雰囲気を地域のみなさんが体感することで、
これから目指すべきまちの姿を共有しようという試みです。
そして、あわよくば、この期間限定の実験に参加したプレイヤーが、
そのままその場に固着して、
引き続きお店の営業や活動を継続してくれはしないかという、
期待も込めたチャレンジでした。

正直に言うと、
「まぁ、なかなかお店をやりたいという人は出てこないだろうなぁ」
と心配をしていました。
そして、出店者の公募を始めてしばらくたった頃に、
佐賀のスタッフから1本の電話が入りました。

「ボス、空き店舗が足りません……」

なんと、出店者説明会に42件も応募が来てしまったのです。
実は、不動産オーナーに
シャッターを開けさせてくれるように交渉をしたところ、
最初はたった5軒しか応じてくれなかったのです。

予想をはるかに超え、あまりにも多くの応募が来てしまったので、
再度不動産オーナーに交渉をしてもらいました。
そこで、開いたシャッターが、ようやく11軒。
1物件あたり2〜3件の出店者をシェアしてもらったりして、
まちなかの商店街に21軒のお店が一気にオープンしました。
1か月間という期間限定とはいえ、
まちの商店街の雰囲気が劇的に変わったのです。
ここに訪れた市民の方は
「この辺り、最近、雰囲気よくなってきたねぇ」と言い、
地元商店街のご年配の方は、
「昔は、こんなにぎわいだったんだよ」と昔を思い出して懐かしい様子。
まちのにぎわい再生に取り組んできた僕らも、とてもうれしい気持ちと、
ちょっと肩の荷が下りたような気がしました。

たった4〜5年でここまで佐賀のまちなかは変わった。

これまで、ちっともシャッターが開かなかった商店街に、
なぜ一気に人が集まるようになったのか?

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まちのプレイヤーになる覚悟

Page 3

それは、「敷地に価値なし、エリアに価値あり」という
都市プロデューサー・清水義次さんの言葉が的確に教えてくれます。
全国各地に広がる、いわゆるシャッター商店街。
そういうまちに足を運ぶたびに
「テナント募集中」の貼り紙がたくさん目につきますが、
暗くて人通りもなく、いかにも“儲からなさそうな”商店街の空き店舗に、
一体誰がお店を出したいと思うのでしょうか?
「テナント募集中」の貼り紙が目立てば目立つほど、
人は寄りつかなくなるものなのです。
つまり、そんな魅力のないまちの中では、
それぞれの敷地の価値は上がらないのです。

佐賀のまちなか再生の取り組みでわかったことは、
まずはエリア(=まち)の価値を上げることが、
個々の不動産の価値が上がる結果につながるということです。

佐賀ではこれまでの取り組みで、少しずつまちの雰囲気が向上し、
それを敏感に感じた市民が足を運ぶようになり、
そこに「人が集まれば市が立つ」の原則に従って、
次第にお店を出す人が出てくるようになりました。
大切なことは、まちに暮らし働く人々が、
まちのために何かをやろうという、
“パブリックマインド”を持つことだと思います。
地域のみなさんが協力して、
まちというパブリックの雰囲気をよくしていくことが、
実は、個々の不動産の活用や
お店の繁盛につながる早道ではないかと感じています。

みなさん、ぜひ、まちのためにできることを探してみませんか?

わいわい!!コンテナから始まった佐賀のまちの変化。

リスクを負うという覚悟の大切さ

6回のこの連載もいよいよ大詰め。
僕の記事は、コロカルの「リノベのすすめ」というコーナーとしては、
“まちのリノベーション”というまったく異色の物語だったと思います。
「まぁ、ひとりぐらいは、こんな変わり者がいてもいいかな」
と気にせず書き綴ってきましたが、みなさん、いかがでしたでしょうか?

人口減少、縮退する日本。
時代の価値観が大きく変わるなかで、
余剰の既存ストックを使いこなす、
リノベーションの考え方はとても大切なことだと思います。
いろんな地域で、小さな小さな古い建物を、
新しいコンテンツと発想でまちの“宝”にしていこうという、
たくさんの若者たちに出会います。
僕は、そういう新しい時代を生きる若者たちが、
もっともっと活躍できるまちの状況をつくりたいと考えて活動しています。
その手法のひとつが「まちのリノベーション」という考え方です。
小さな小さなリノベーションが、
大きなまちのリノベーションにつながることが、
いま、社会が求めている新しい都市計画の手法だと思っています。

僕自身も、そういうまちの状況をつくりつつ、
その中で、ひとりのプレイヤーとして活動する覚悟を決めたのが、
COTOCO SAGA 215という場所です。
投資を伴っていますから、リスクもある。
でも、リスクを負ったことで、
佐賀のまちなか再生=まちのリノベーションにも必死になれると感じています。
なにより、自分自身がまちのプレイヤーとしてリスクを負うことで、
地域の商店街で活動する方々と同じ気持ちになれたことが、
僕にとってはとても大きな変化でした。
リスクを負うという覚悟を示すことで、
まちの方々も少しは、仲間として信用してくれたんじゃないかなぁ……。

そして、僕らの拠点COTOCO SAGA215をここまで育ててくれたのは、
なんといっても佐賀常駐のスタッフたち。
人が人を呼び、その場所の雰囲気が少しずつ熟成されていくわけで、
いい場所になるかどうかは、結局は、人次第だと思います。
スタッフの帆足達矢君と田中貴子さん、
そして、ここに集まってくれるすべての方々には、とても感謝しています。

佐賀にお立ち寄りの際は、ぜひ、足を運んでみてください。
明るい笑顔で、ふたりが迎えてくれると思います。
                                 連載おわり。

佐賀スタッフの田中貴子さん(左)と帆足達矢君(右)。

information

マチノシゴトバ cotoco 215  

住所:佐賀市呉服元町2-15 COTOCO215

TEL:0952-37-5883(COTOCO215担当:田中貴子)

http://co-cotoco.jp/

information


map

佐賀「わいわい!!コンテナ2」プロジェクト

住所:佐賀市呉服元町2番地内(旧佐賀銀行呉服元町支店前)

TEL:0952-22-7340(NPO法人まちづくり機構 ユマニテさが)

営業時間:11:00~19:00 

定休日:年中無休※年末年始を除く

http://www.waiwai-saga.jp/

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