連載
posted:2015.5.13 from:佐賀県佐賀市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Hiroshi Nishimura
西村 浩
1967年佐賀県生まれ。建築家。東京大学工学部土木工学科卒業、同大学大学院工学系研究科修士課程修了後、設計事務所勤務を経て1999年にワークヴィジョンズ設立、代表取締役を務める。大分都心南北軸構想、佐賀市街なか再生計画、函館市中心市街地トータルデザイン、岩見沢複合駅舎、佐賀「わいわい!!コンテナ」など、常に「まち」を視野にいれ、建築・土木・まちづくりなど分野を超えたものづくりに取り組む。マチノシゴトバCOTOCO215 代表、株式会社リノベリング 取締役、東京藝術大学美術学部デザイン科非常勤講師を務める。
http://www.workvisions.co.jp/
みなさん、こんにちは! ワークヴィジョンズの西村浩です。
vol.1、vol.2に続けて、
今回からは、ひとりの佐賀市民の方からの一本の電話から始まった、
僕の故郷佐賀のまちづくりに話を進めていきたいと思います。
その始まりは、地方都市の行く末を大きく変える
「空き地のリノベーション」という発想でした。
ひとりの佐賀市民の方からの電話から、故郷佐賀に足を運んで、
たくさんの市民の方々にお話を聞く機会が増えました。
一般市民の方々に加えて、
佐賀県や佐賀市の行政職員の方々も加わるようになり、
佐賀のまちなかの状況について、
さまざまな視点からお話を聞く事ができました。
僕の両親は、今でも佐賀に住んでいて実家もありますが、
僕自身は、小学校卒業と同時に佐賀を離れてしまったので、
30年ぐらいの時の経過とともに
佐賀がどう変わってきたのかを知るのにとても助かりました。
実は、お電話をいただいた後に、
久しぶりに佐賀のまちなかの商店街に足を運び、その現実に驚いていました。
子どものころの記憶では、
アーケードの中にたくさんのお店がぎゅうぎゅうに軒を連ね、
人で溢れかえる、活気のある商店街です。
昔は、買物と言えば、この商店街に家族と一緒に足を運んだものでした。
ところが、久しぶりに訪れた商店街は、
僕の記憶にあるものとは全く違ったものでした。
アーケードの入口から覗いた商店街は、薄暗く、
ほとんどのお店がシャッターを閉めていて、
商店街の象徴だったアーケードそのものもぼろぼろに塗装が剝がれて、
いまにも朽ち果てそうな状態でした。
いわゆるシャッター通り化しているわけですから、
当然のことながら、人通りもまばら。
僕の記憶にある商店街そのものが消え失せたといってもいい状況で、
とても悲しい気持ちになりました。
そんな時に、佐賀市から僕のところに
「まちをなんとかしたい」との依頼をいただいたのです。
子どものころ、僕が迷子になった記憶もあるほど活気に溢れていた商店街、
自慢の商店街でしたから、僕も全くの同感。
この時、まちをなんとかしようと強く心に思いました。
この商店街の状況を見て、とても心配なことがあります。
僕自身は、子供のころ、この商店街で両親や兄弟と楽しい時間を過ごし、
たくさんの思い出があります。
ところが今、随分と寂れてしまった商店街には、人々があまり訪れていません。
大人がいないわけですから、
当然、子どもたちもこの商店街にはあまり足を運んでいないわけです。
まちづくりとは、とても時間がかかるものです。
ですから、僕たち大人だけでできることは限られていて、
子どもたちの世代にバトンを渡し続けることが、
まちづくりそのものではないかと思うのです。
ところが、今、まちなかに子どもたちの姿はほとんどありません。
まちの楽しさを経験していない子どもたちが、
将来、僕たちの世代のように「まちをなんとかしたい」と、
果たして思うでしょうか? そうなんです。
今、地方都市のまちなかは、
将来、まちの担い手がいなくなってしまう危機にあるのです。
だから、僕は今、まちなかに子どもたちが
当たり前のように遊びにくる日常を取り戻すには、
どうしたらいいんだろうと、日々考えています。
50年後、100年後も、
「まちをなんとかしたい」と思う仲間がいてくれるように……。
佐賀のまちなかを歩いていて気づいたことがありました。
ひとつは、先ほどふれたように、
子どものころは、軒を連ねていた商店が軒並みシャッターを下ろしていること。
もうひとつは、空き店舗となった建物が次々と解体され、ついには更地となり、
駐車場として使われていることです。これは、佐賀だけの話ではありません。
車社会の地方都市のほとんどが、今、駐車場だらけ、
スカスカの虫食い状態のまちになってしまっているんです。
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理由は簡単です。
不動産のオーナーは、建物をテナントに貸すことで、
収益を上げて、不動産を所有することでかかる経費をまかなっていました。
建物の維持管理費や固定資産税などです。
ところが、インターネットの普及や都市の郊外への拡大とともに
まちなかでの小売り業へのニーズが減少すると、次々とテナントが撤退。
テナント収入がなくなってしまった不動産オーナーは、
建物を維持することができなくなり、
老朽化とともに解体して更地化、いちばん手っ取り早い駐車場にして、
再び収益を得ようとするわけです。しかも、地方都市のほとんどは、
車社会ですから、駐車場の需要は言うまでもありません。
公共交通が充実していない地方都市では、車がなければ何もできないのです。
こんなメカニズムで、地方都市のまちなかは次第に駐車場だらけとなり、
ますます寂れた雰囲気が助長され、
さらに人が足を運ばなくなるという悪循環に陥っているのです。
人口動態とそれに伴う都市の変化、
インターネットの普及による社会構造の変化や経済の動向を複合的に考えれば、
地方都市のまちなかが空洞化することは当然で、
さらに不動産オーナーの心理と資本主義の原則に立ち返れば、
そこが駐車場化していくのも当たり前だと思います。
しかも、商店街が、昔の状況に戻ることもないわけですから、
僕は、もうこの“空き”を受け入れて、
空きの価値を考えるほうが得策ではないかと考えています。
20世紀の価値観は180度変わったという前提にたつことが、
これからのまちを支える新しい発想につながるんじゃないかと思っています。
建物が解体されて更地になり、それが駐車場になるから悪いわけで、
佐賀では、仮に、駐車場や遊休地を芝生の原っぱに変えてみたら、
何かまちのイメージが変わるんじゃないか、
何かいままでとは違う、
まちの価値がみえるんじゃないかという思い込み(笑)から、
まずは、佐賀のまちなかの駐車場を地図上で原っぱに変えてみました。
みなさん、いかがですか?
ぜひ、目をつぶって想像してみてください!
まちなかの一角の駐車場が原っぱに変わっただけで、
その一角のイメージが変わって見えませんか?
以下、勝手に僕が妄想してみたことです(笑)。
・・・・・
原っぱは、全面緑の芝生です。
緑が美しくて、芝生の上で、
アスファルトだらけのまちよりも夏でも少し涼しい感じがします。
車もいないので、とても安全なので、子どもたちが自由に走り回っています。
そして、小さい子どもをつれたお母さんたちも、とても安心。
そんなお母さんたちが集まって、
子育てや学校、料理の話などを楽しそうにしています。
こんなまちなかなら、住んでみたいねというお母さんもいます。
住んでみたいねという人が増えてきたので、空き店舗になっていた建物を
集合住宅やシェアハウスにコンバージョンしようかという人も出てきました。
そして、原っぱの隣のレストランは、建物をリノベーションして、
原っぱでごはんが食べられるように窓を開けてテラスをつくりました。
また、原っぱにいつも人が集まるようになったので、
空き店舗に新しい雑貨屋さんができ、駐車場だったところには、
新しくカフェやランチができる飲食店が入居する建物ができ……。
・・・・・
空き地の駐車場が、緑豊かな原っぱに変わっただけで、
車だらけだったまちなかに、とても環境がよくて安全な場所が生まれ、
そうなるといままでまちに足を運ばなかった
子どもたちやお母さんたちが来てくれるようになるかもしれない。
そうなるとそれに合わせてまちに対するニーズが広がり、
建物や空き地といったハードの利活用が必要となり、
結果、リノベーションやコンバージョンという、
ストックの活用につながっていくんじゃないか?
そんな妄想からはじまった佐賀のまちづくりですが、
僕らが関わり始めて約5年が経過して、
実は、この妄想が少しずつ現実になりはじめています。
この物語は、みんなで空き地に芝生を張ることから始まりました。
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とにかく、みんなで芝生を張ってみよう!
いいイメージといい妄想ができれば、後は、実際にやってみるだけ。
佐賀のまちなかでは、空き地のオーナーさんにお願いをして、
ひたすら芝生を張らせていただいています。
空き地のリノベーションで、まちがどうかわるのかという実験です。
芝生を張るのは、地元の市民の方々です。
子どもから大人まで、自分たちが自分のために自由に使える場所にするために、
自分たちでつくるのです。やり方は簡単、芝生をホームセンターで買ってきて、
山砂で土地をならして、最後に芝生を置くだけ。
芝生を張った後は、たっぷりと水をまいて根付くまでしばらく養生します。
芝張りの後は、みんなでつくった原っぱでご飯を食べて記念撮影をして、
これからみんなが自分の大切な場所として、
大切に使っていこうという機運を高めていきます。
ちょっと話は変わりますが、佐賀でみんなで芝張りをするということが、
いままであまり関心が無かったまちなかに、
自分の思い出をつくるきっかけになるということがよくわかりました。
また、これからまちの担い手になる子どもたちに対しては、
ずっと記憶に残る思い出になると同時に、
まちに対する愛着を育むんだなぁという実感を持つことができて、
これは、佐賀以外の場所でもやってみたいと思いました。
そこで、僕がかかわっている、
「大分都心南北軸整備プロジェクト」というのがあって、
そのうち、大分駅南側にある100m幅の道路空間の中に
公園のような広大な芝生の空間を整備しました。
芝生自体は、大分市民の手で張ろうと大分市が主体となって実施しました。
その時、集まった市民の数、な、なんと2600人。
市内の小学校のクラスまるごと来てくれたり、
観光バスをチャーターして参加してくれた市民の方々もいました。
そして、広大な芝生の広場は、あっという間の30分で張り終わり、
みんな記念写真をとって、
まちなかの大切な思い出と愛着を育む、大切な機会となりました。
まちなかの空き地を原っぱに変えるという空き地のリノベーションは、
元気のない地方都市の新陳代謝を活発化して、
人の活動を呼び起こすいい循環につながりました。
ハードは結果。
建物のリノベーションから始まるのではなく、
まちの利活用の動機づくりからやっていくことが、
結果的にハード整備や既存ストックのリノベーションに
つながっていくんだと思っています。
小さな小さな建物のリノベーションを、
大きなまちづくりにつなげるためには、
「まちに行きたい」「まちに住みたい」
という動機を広げていくための仕掛けが大切で、
空き地を原っぱに変えるという佐賀の試みは、実は、これまでにない、
21世紀型の新しい都市計画手法を探すための実験だと僕は思っています。
次回は、原っぱづくりと一緒に実践してきた
「わいわい!!コンテナプロジェクト」についてお話したいと思います。
海上コンテナのリノベーションで移動可能な”動産“としての建築をつくり、
まちの賑わいづくりへの効果を検証する社会実験です。
原っぱとコンテナをつかった実験で、まちに何が起こったのか?!
お楽しみに!
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