連載
posted:2015.3.12 from:東京都品川区 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Hiroshi Nishimura
西村 浩
1967年佐賀県生まれ。建築家。東京大学工学部土木工学科卒業、同大学大学院工学系研究科修士課程修了後、設計事務所勤務を経て1999年にワークヴィジョンズ設立。大分都心南北軸構想、佐賀市街なか再生計画、函館市中心市街地トータルデザイン、岩見沢複合駅舎、佐賀「わいわい!!コンテナ」など、常に「まち」を視野にいれ、建築・土木・まちづくりと、分野を超えてものづくりに取り組む。日本建築学会賞、土木学会デザイン賞、グッドデザイン賞大賞、BCS賞、ブルネル賞、アルカシア建築賞、公共建築賞受賞。株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役、マチノシゴトバCOTOCO215代表、株式会社リノベリング取締役を務める。
http://www.workvisions.co.jp/
みなさん、はじめまして! ワークヴィジョンズの代表、西村 浩です。
今回から、6回にわたり、僕のリノベ論と実際の活動について
お話をしたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。
まずは、自己紹介から。ワークヴィジョンズは、
東京の品川と僕の故郷佐賀市に拠点を持つアトリエ系設計事務所ですが、
少々変わったスタンスで仕事をしています。
というのも、僕自身は、建築家を名乗っていますが、実は、大学は土木の出身。
大学時代は、景観や土木構造物のデザインについて学んでいました。
そんな経歴から、ワークヴィジョンズの仕事は、建築だけでなく、
河川や道路、公園などの土木分野のデザインの仕事も多くあります。
スケールが大きいものでは、なんと巨大なダムのデザインなんかもありましたし、
近年では、さまざまな分野の総体である都市、
特に地方都市の再生に関わることも増えてきました。
土木から建築へ、そして「都市のリノベーション」へと繋がる活動の展開と
そのいきさつについては、次回以降、詳しく書きたいと思っていますが、
巨大なスケールの土木構造物を相手にしなければならなくなったことが、
僕らのアトリエのあり方を大きく変えました。
ご想像のとおり、模型が恐ろしくでかいのです(笑)。
僕は、1999年に独立し、ワークヴィジョンズを設立。
最初は間借りの小さなスペースではじめました。
その後、何度か引っ越しを経験した後、いよいよ手狭になり、
2015年に改めて引越し先を探さなければならなくなりました。
でかい模型をつくれるスペースに。
とはいえ、東京で広いオフィスなんて、駅から遠いか郊外か、
利便性の高い都心ならば家賃が高くてとても手がでません。
広くて安くて自由に使える物件はないものかと悩んでいるときに、
1冊の雑誌に出会いました。
それは、スペースデザイン1999年10月号(通称:SD 9910)、
「東京リノベーション」という特集です。
表紙は、大きな倉庫をリノベーションした、
EXIT metal work supplyの事務所+工場+ギャラリー+倉庫で、
超かっこいい!!
中をめくると、同じく倉庫のような修理工場をリノベーションした、
Klein Dytham architectureの元オフィスだったDeluxeほか、
東京の空き倉庫マップまで掲載されています。
僕にとっては、「リノベーション」という言葉にはじめて触れた瞬間でしたし、
何より、倉庫や工場がここまでかっこよく、クリエイティブな空間に変わってしまうことに、
とても感動したことを覚えています。
ですから、このSD9910は、僕の中ではとても大切な1冊で、
僕の意識を変えてくれた雑誌だと思っています。
残念ながら、このSDは廃刊になってしまいましたので、
今やなかなか手に入らない雑誌ですが、
お勧めの1冊ですから、古本屋でぜひ探してみてください!
僕にとって記念碑的な存在となったこの雑誌との出合いから、
僕の頭の中は、倉庫にアトリエを構えるイメージしかありませんでした。
というわけで、早速スタッフの車で、憧れの倉庫探しの旅へ!
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スタッフと心躍らせながら出発したものの、
実は倉庫の空き物件って、当時はなかなか見つかりませんでした。
「おしゃれランチとかできるといいよねぇ」とかいいながら、
代官山の不動産屋に聞いたところ、
「こんなゴールデンスポットにあるわけがない」と一蹴され、
仕方なく、山手通りを南下。
目黒、五反田を通過して、結局、品川・天王洲エリアへ。
ここまでくれば、その先は、もう東京湾。
天王洲には、寺田倉庫さんの倉庫群がたくさんありますが、
規模が大きすぎて、僕らでは持て余すし、金額的にもとても手がでませんでした。
そこで、天王洲からちょっと戻って、品川方面に向かったところ、
ありました!
鉄骨スレート葺き、3軒長屋の平屋の倉庫!
ちょっとおんぼろだけど、大きさも手頃で、天井も高くていい空間!
この倉庫を借りることを即決。
ここから、この倉庫との約12年間のおつきあいが始まったのです。
最寄り駅は京浜急行北品川駅で、ここには北品川商店街があります。
ここはかつて、東海道第一の宿場として栄えた品川宿だった場所です。
また、僕らのオフィスの前の通りは、通称船宿通りと呼ばれていて、
屋形船と船宿が並ぶ、下町の懐かしい趣が感じられる地域です。
品川駅周辺の巨大なビル群と下町のヒューマンなスケール感のあるまち並みの対比が、
いかにも東京らしい風景となっていて、ドラマの撮影などにもよく使われる場所なのです。
いよいよ、おんぼろ倉庫のリノベーションが始まりました。
倉庫を借りた理由のひとつに、たくさんの方々をお招きして、
パーティやらイベントができるスペースがほしいという理由もありました。
そこで、倉庫の中央に、家具的な白いフレームを置いて、
奥のスタッフルームと入口すぐのオープンスペースを緩やかに仕切る構成に。
白いフレームには、フルオープンにできる建具をつけて、
開閉によっていろんな使い方ができるようにします。
そして、内部に見える構造架構は、白いフレームや壁と対比的に、
古さそのままに露出させて、歴史を感じることができる空間をつくりました。
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倉庫のリノベ空間で過ごしてみると、
一般的なオフィス空間とは全く違う感覚を体験することができます。
まず、天井が高くてとても開放的。クリエイティブな活動には、
ぴったりの空間です。ただし、やっぱり冬は寒いです。
でっかいねずみが現れたりもするし、
屋根を歩くカラスの足音がうるさかったりもします。
屋根をたたく雨音がひびくので、強い雨のときには、
電話の声が全く聞こえなくなることもあります。
でも、しばらくすれば慣れました(笑)。
それ以上に、倉庫という空間の豊かさは、
僕らの思考や活動の幅を大きく広げてくれました。
たくさんの友人やお世話になった方々をお招きしてパーティを開催したり、
音楽やダンスの舞台になったり、
時には、建築のための原寸のモックアップをつくったり……。
この空間だったからこそチャレンジできた仕事もあり、
僕ら自身がとても成長することができたように思っています。
もし、広い場所に引っ越したいと思っている方がいらっしゃいましたら、
倉庫リノベーションをお勧めします!
実は、昨年12月頭にお隣のビルに引越しをしました。
そろそろかなぁと、薄々は感じてはいましたが、
とうとうマンションに建て替えになることが決まったのです。
約12年も暮らした空間ですから、実に寂しいことでしたが、
まぁ、前向きに次の場所でもっと楽しいことをやろう!
と気持ちを切り替えることにしました。
ここから先のさらに楽しいお話は、また今度!
次回は、ワークヴィジョンズの仕事の真骨頂「都市のリノベーション」という考え方と
僕の故郷佐賀のまちづくりに関わることになったきっかけについて、お話したいと思います。
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WORKVISIONS
株式会社ワークヴィジョンズ
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