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人が集まるところに市が立つ。
状況が一気に好転するリアリティ。
WORKVISIONS vol.5

リノベのススメ
vol.080

posted:2015.7.15  from:佐賀県佐賀市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Hiroshi Nishimura
西村 浩

1967年佐賀県生まれ。建築家。東京大学工学部土木工学科卒業、同大学大学院工学系研究科修士課程修了後、設計事務所勤務を経て1999年にワークヴィジョンズ設立、代表取締役を務める。大分都心南北軸構想、佐賀市街なか再生計画、函館市中心市街地トータルデザイン、岩見沢複合駅舎、佐賀「わいわい!!コンテナ」など、常に「まち」を視野にいれ、建築・土木・まちづくりなど分野を超えたものづくりに取り組む。マチノシゴトバCOTOCO215 代表、株式会社リノベリング 取締役、東京藝術大学美術学部デザイン科非常勤講師を務める。
http://www.workvisions.co.jp/

WORKVISIONS vol.5

みなさん、こんにちは! ワークヴィジョンズの西村 浩です。
vol.1vol.2vol.3vol.4に引き続き、佐賀のまちなか再生のお話です。

全6回なので、残すところ、あと2回。
vol.3vol.4では、まちなかの遊休地を地域の方々の手で
芝生の「原っぱ」に変えていくお話や、
中古の海上輸送用コンテナのリノベーションで、
まちなかに市民の活動の場をつくる、
「わいわい!!コンテナプロジェクト」について紹介をしてきましたが、
今回は、そういった「点」のしかけから、
佐賀のまちなか商店街が
少しずつ変わっていった様子を紹介したいと思います!

子どもたちの声がまちなかの雰囲気をがらっと変えた

前回紹介しましたが、わいわい!!コンテナプロジェクトも、
今年で5年目に入り、ようやく認知度も高まって、
子どもたちからお年寄りまで多様な世代の人々が
日常的に集まり、憩い、活動する場所になってきました。
特に、子どもたちが集まる場所になったことは、
なかなか元気のない商店街の雰囲気を大きく変えました。
地元新聞記事に掲載された小学生たちのコメントには、
「いままでは、学校が終わったら、
ゆめタウン(近くの大型ショッピングモール)に行っていたけど、
いまは、いつも友だちがいるここ(わいわい!!コンテナ)に来るようになった」
というような言葉がありました。

そうなんですよね。
いままで、まちなかに子どもたちが来なかったのは、
まちなかに居場所がなかっただけなんですよね。
安全で楽しい場所さえあれば、子どもたちも集まってくる。
子どもたちは、自分たちだけの楽しい場所を見つけるのが
とても上手なように思います。

そしてなにより、商店街が明るくなった!
車だらけの夜の飲み屋街になりつつあったまちなかの商店街が、
夕方学校が終わるころになると子どもたちの声がするようになったのです。
わいわい!!コンテナの中で、本を読んだり勉強をしたり、
外では芝生を走り回り、虫取り網でとんぼを追いかける子もいました。

子どもたちで賑わうわいわい!!コンテナ2。

ある日、みんなで芝生を張った原っぱで、
サッカーをやる子どもたちを偶然見かけたことがあります。
ここは、商店街のど真ん中です(笑)。
なんとも不思議な気持ちになりました。
そして、この話には続きがあります。
とてもいい風景だったので、僕も写真を撮ろうとした瞬間、
子どもたちが勢いよく蹴ったサッカーボールが、
柵を越えて隣の駐車場に飛び、運悪く車に“ボッコン”と……(汗)。
まちなかの空き地、そんなに広くはないから、仕方ないですよね。
そして、残念ながら僕のカメラのシャッターが捉えたのは、
サッカーの様子ではなく、ばつの悪そうな子どもたち(笑)。

まちのど真ん中の商店街でサッカーを楽しんでいる(はずの)子どもたち。

そんな子どもたちのサッカー顛末を見ていて、
実は少し懐かしい気持ちになりました。
僕らも子どもの頃、家の近くの空き地で野球をやっていて、
お隣さんの庭にボールが入ってしまったり、
時にはガラスを割ってしまって、
思いっきり怒られたりしたことがありました。
おそらく、僕と同じ世代の方々は、
「そうそう!」と頷かれているんじゃないかと思います。
今や、住んでいる人が少なくなってしまった中心市街地ですが、
昔は、みんなまちなかに住み、
そして空き地は子どもたちの大切な遊び場だったんですよね。
子どもたちの周りには必ず大人が見守っていて、
そこに自然に地域の濃厚なコミュニティが存在していたわけです。

佐賀市のまちなかに生まれた、わいわい!!コンテナと原っぱは、
まちの中に昔ながらの人々の活動とコミュニティを
取り戻すきっかけになっているように思います。

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まちなか再生のカギとは?

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滞在時間の長さがまちなか再生のカギ

子どもたちが集まる場所には、当然大人も集まります。
わいわい!!コンテナは、買物をする場所ではなく、
読書やサークル活動など、
自分の関心のあるコミュニティ活動に参加する場所なので、
多くの人が結果的にある程度長い時間をここで過ごすことになります。
アンケートによると、来館者の滞在時間は、平均で約3.2時間程度。
そのなかでも、毎日利用する人に限っては、
なんと約4.5時間もこのわいわい!!コンテナで時間を過ごしているのです。
実は、これからの中心市街地のにぎわいや商業の再生のポイントは、
この滞在時間をいかにのばせるかにあります。
その究極は、まちなかに住んでもらうこと、いわゆる“まちなか居住”です。
どこの都市でもそうですが、まちなか居住は、
今後の中心市街地の再生を目指すうえで、最も重要な方向性のひとつなのです。

例えば、午前中にわいわい!!コンテナに来た人が、
3時間も時間を過ごせば、もうお昼。
そうなれば、ランチは当然、まちなかのおいしいお店で! となるわけです。
お昼からやってきて、楽しくサークル活動をすれば、
喉が渇いて「近くのカフェでお茶でもしようよ!」となり、
夕方になれば、「近くのスーパーで買物して帰るか!」となるのです。
そういう流れが生まれれば、
少しずつまちなかの商業再生の糸口が見えてきます。

また、わいわい!!コンテナは、どちらかというと公共的な空間で、
その存在のおかげで人が集まるようになり、
その結果、民間事業である商業の再生につながっていくことになります。
これが、まちなか再生における
公民連携のひとつの姿だといえるのではないかと思っています。

まちの再生に向かうよい循環。

人が集まるところに市が立つ

では、実際佐賀のまちなかでもどのような連鎖が起こったのかというと、
わいわい!!コンテナの隣には、ラーメン屋〈一休軒〉が新築で建ち、
さらにその隣には、サッカーJ1のサガン鳥栖の
スポーツバー〈THE SAGAN(ザ・サガン)〉が、同じく新築で建ちました。

わいわい!!コンテナ2の隣にできたラーメン屋。

サッカーJリーグのパブリックビューイングも開催されるサガン鳥栖のスポーツバー。

ちなみにスポーツバーの向かいに
昔からあるまんじゅう屋〈ひぜんえびす屋〉さんは、
わいわい!!コンテナができて、
子どもたちが集まるようになり、売上が大きく伸びたとの噂が……。
あくまでも噂なんですが、そういえば、
まんじゅう屋のお父さん、最近いつも笑顔だわ!(笑)

まんじゅう屋さんのお父さん。満面の笑み(笑)。

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止まらない、開業ラッシュ!

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そして、このまんじゅう屋さんの隣が空き物件でした。
オーナーはこのまんじゅう屋さんです。
そこに、20代と30代の若者ふたりが、この空き物件を借り、
リノベーションして、Tシャツのプリントショップ〈PRESS〉を開業!
Tシャツのデザインもやり、
シルクスクリーンの印刷機械を表に出して製作風景も見せてしまう、
徹底したおしゃれぶり。
こんな若者たちがまちなかにお店を出してくれるとは、いい兆しです。

かっこいいTシャツのプリントショップ開業した若者たち。

さらに、近くの空き店舗に開業したのが〈Fablab Saga〉。
3Dプリンタなどの工作機械が常備されていて、
一般の人がそれを使って自由にものづくりが体験できます。

続いて、その近くの古い町屋の不動産オーナーは、
その物件をリノベーションして、
6人の佐賀大学の女子大生が暮らすシェアハウスをつくりました。

と、まだまだ小さい兆しですが、ようやくまちなか居住のはじまりです。

ものづくりの拠点、Fablab Saga。

町屋をリノベーションして生まれたシェアハウス。

佐賀のまちなかでいま起こっている出来事は、
「人が集まるところに市が立つ」という格言そのもの。
人が集まる状況があるからこそ、商売ができる土台が整うわけで、
実に当たり前のことに立ち戻って、まちなかの再生に取り組んでいるのです。
右肩あがりの20世紀は、人口も増え続けていて、
どこにいっても人がいっぱいでした。
だからそこでの商売も成り立ってきたわけですが、今は人口減少社会。
ですから、人が集まるという状況から始めないと
なかなか商売は成り立たないのです。

人が集まる場所を起点に、よい連鎖を次々と生む状況をつくることが、
これからのまち再生の大切なポイントだと思います。

よい連鎖を生むことができれば、
たった5年間で、これだけ変わることができるのです。これが、まさに
「21世紀の都市のリノベーション」の方法のひとつかもしれません。

わいわい!!コンテナ2ができる前の風景。上が、アーケードがあった平成20年頃の商店街の様子。下が、アーケードが撤去された平成21年頃の商店街の様子。

わいわい!!コンテナ2ができたあとの現在の商店街の様子。まちに緑が増え、雰囲気も明るくなった。

さて、今回は、わいわい!!コンテナという公共空間によって、
次々とよい連鎖が起こり、
商業の再生に少し兆しが見えてきた様子をお話してきましたが、
いよいよ今度は、僕自身がプレイヤーとして投資をし、
佐賀のまちなかに新しい拠点をつくるお話から、
さらに加速度的に空き物件と
新しいプレイヤーをマッチングさせようという試みについて、
話を進めていきます。

そして、次回は、いよいよ最終回。合計6回の連載の内容を総括して、
これからの地方都市のリノベーションに求められる考え方を、
僕なりに整理してまとめてみたいと思っています。
それでは、また次回!
ようやく最後が見えてきたな、この連載(笑)。

information


map

佐賀「わいわい!!コンテナ2」プロジェクト

住所:佐賀市呉服元町2番地内(旧佐賀銀行呉服元町支店前)

TEL:0952-22-7340(NPO法人まちづくり機構 ユマニテさが)

営業時間:11:00~19:00 

定休日:年中無休※年末年始を除く

http://www.waiwai-saga.jp/

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