連載
posted:2016.12.20 from:岐阜県下呂市 genre:暮らしと移住 / 旅行
sponsored by 飛騨地域創生連携協議会
〈 この連載・企画は… 〉
最近、飛騨がちょっとおもしろいという話をよく聞く。
株式会社〈飛騨の森でクマは踊る〉(ヒダクマ)が〈FabCafe Hida〉をオープンし、
〈SATOYAMA EXPERIENCE〉を目指し、外国人旅行者が高山本線に乗る。
森と古いまち並みと自然と豊かな食文化が残るまちに、
暮らしや仕事のクリエイティビティが生まれ、旅する人、暮らし始める人を惹きつける。
「あなたはなぜ飛騨を好きになったのですか?」
writer profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Daisuke Ishizaka
石阪大輔(HATOS)
飛騨エリアとは、高山市、飛騨市、下呂市、白川村の4市村のこと。
しかしそれらは広く、全体としての特徴がありながらも、
それぞれには深い文化が醸成され、おもしろいスポットも誕生している。
日本三名泉のひとつに数えられる下呂温泉を有する下呂市。
飛騨のなかでも南に位置し、また異なる文化圏も見られる。
少し車を郊外に走らせれば、伝統の食と現代の食の両方を楽しむことができる。
下呂温泉と合わせて、魅力あるスポットが満載だ。
オープンの10時に合わせて、人が集まってくる。
下呂のまち中からは少し離れていて車がないと不便な場所だが、
それでも地元の人からも観光客からも人気がある〈ジークフリーダ〉。
2002年、北條達也さんが本格洋菓子のショップ兼カフェをオープンした。
北條さんは下呂市小坂町出身。名古屋のホテルに勤めた後、
ドイツとオーストリアでパティシエの修業をした。
「ドイツにいたときに、友だちにハイキングに連れていかれたんです。
山を登っていくと、ポツンとレストランがありました。
それほど人もいないような山の上なんですが、ドアを開けると人がたくさんいて、
すごく活気があって盛り上がっていたんです。
そのお店のイメージで、ちょっと離れた場所にお店をつくりました」
ジークフリーダという名前は、オーストリアでお世話になった
おばあちゃんの名前だという。ドイツ語のネーミングではあるが、
お菓子は地域に馴染むようにアレンジしている。
「この地域で食べてもらうのに、そのままドイツ菓子を出しても
受け入れてもらえないかなと。むしろオリジナルのお菓子のほうが多いです。
結局、おいしいと思ってもらえればいいわけで、
実は“ドコドコのお菓子”ということにはこだわっていません」
窓側の席からは、木々の隙間から飛騨川を見下ろすことができる。
秋冬になると木々の葉が落ちて、景色もひらける。
アンティークの木のイスや什器に囲まれた空間は、
ホッと息をつけるようなゆるやかな空気が流れている。
information
ジークフリーダ
住所:岐阜県下呂市萩原町跡津1421-5
TEL:0576-53-3020
営業時間:10:00~18:30(日曜日は18:00まで)
定休日:月曜・第4火曜日
下呂には、1975年にオープンした〈緑の館〉という有名な喫茶店がある。
コーヒーを中心としながら、たくさんのアンティークの掛け時計やカメラ、
ライトなどに囲まれ、ジャズに包まれる。
マスター野村辰己さんのこだわりを感じられるお店だ。
その息子さんである2代目の野村祐貴さんは、
一度、一般のコーヒー会社に勤務し、緑の館に戻ってきた。
喫茶店の営業を手伝いながら、同時にコーヒー豆の自家焙煎を始めた。
当初は店で使用する分だけを焙煎していたが、次第に焙煎を突き詰めてみたくなった。
「もっとコーヒー豆を発売するということに特化してみたくなったんです」と祐貴さん。
2013年、緑の館の隣に新たに焙煎所を立ち上げた。
「基本的には物販ですが、コーヒー教室もできるし、コーヒー豆について
詳しくないお客様とコミュニケーションできるスペースにもなりました」
ところでコーヒーは全世界的に流行している。日本も例外ではない。
サードウェーブという言葉が用いられ、華やかでフルーティな味わいが
人気となっている。だが、そのような流行を追いかけるわけではない。
「基本的には、自分が好きで気に入ったものを販売しています。
こだわった豆を置いてはいますが、
それを一方的に押しつけるようなことはしたくありません。
たとえば浅煎りに特化したような売り方もできると思いますが、
この下呂では昔ながらのコーヒーの味が好きな人もたくさんいます。
そのような地元のニーズにはきちんと応えながら、
同時にサードウェーブのような新たなコーヒーの世界も提案していきたい」
コーヒーは多様化しているという。しかしゆるがない共通点もある。
「いいものを新しいうちに。
コーヒーはフルーツなので、生鮮食品だと思ってもらいたい。
新鮮なコーヒーのおいしさを知ってもらいたいです。
ひと昔前は、誰がつくっているかわからない豆がたくさんありましたが、
いまは、誰がつくっているのか、トレーサビリティも可能です。
農薬を使っているかどうかもすぐわかります」
常時、20種類程度のコーヒー豆を販売しているという緑の館。
瓶詰めのコーヒーやドリップ用パックも発売し、下呂でコーヒーの普及に努めている。
いつもよりちょっとこだわりたい、そんなときは緑の館に足を運んで相談してみよう。
information
緑の館
馬瀬川上流鮎は、2007年に開催された「利き鮎会スペシャル in TOKYO」で、
日本一に輝いたことがある。姿、味、香りを総合的に審査された鮎は、
水がきれいな川でないとおいしくないと言われている魚の最たるもの。
馬瀬川はほとんど生活用水が流れておらず、
健全な森が育んだ良質な水が川をつくっている。
鮎は、その美しい水に生えている苔を食べる。
山から管理して、森林保全にも取り組んでいる結果が、鮎に表れているのだ。
そんな良質な鮎だから、塩焼きでシンプルに食べるのが一番。
美食家として知られる北大路魯山人も著書『魯山人の食卓』(昭和7年)のなかで、
「やはり、鮎は、ふつうの塩焼きにして、うっかり食うと火傷するような熱い奴を、
ガブッとやるのが香ばしくて最上である」と記している。
〈さとやまレストラン みず辺〉で提供される鮎の塩焼きは、
店の目の前の簗(やな)でとれた天然鮎。
塩のみの味つけだが、まずサイズが大きい。
魯山人にならって串に刺さったままかぶりつくのがいい。
30分かけてじっくりと焼かれた鮎は、肉厚でありながら
身がふんわりとして、口の中ですぐにほどけていく。
ハラワタもほんのりとした苦味にうまさが凝縮している。
串のままいただいたのに、あとにはきれいに骨しか残らない。
おいしい鮎を育んだ馬瀬川を目前で眺めながら、
馬瀬の美しい自然とそこから生まれた食を感じる贅沢な時間だ。
information
さとやまレストラン みず辺
「巌立(がんだて)」という荒々しいネーミングを持つ岩壁は
高さ約72メートル、幅約120メートル。
なんと5万4000年前の噴火による溶岩が冷え固まったものである。
無数の柱が集まっているように見える柱状節理という現象が起こり、幾何学的で美しい。
この周辺は「巌立渓」と呼ばれ、自然豊かな景勝地。
小坂町は日本一滝が多い町で、5メートルを超える滝が216もある。
巌立からも、散策路を歩いて三ツ滝まで15分程度。
季節によって移りゆく自然とともに楽しみたい。
小坂の滝を巡りたい場合は、NPO法人〈飛騨小坂200滝〉が
さまざまなコースをガイドしてくれる。
「里山ふれあいゾーン」「奥山挑戦ゾーン」「秘境探検ゾーン」と
ランク分けもされているので、自分と相談して決められる。
日本一の滝のまちだけに、夏の沢登りから冬の氷瀑まで、
滝のすべてを知ることができる。
information
NPO法人 飛騨小坂200滝
飛騨の南エリアでは、至るところで目にする「鶏(けい)ちゃん」。
鶏肉とキャベツを炒めて食べるシンプルなもの。
お店によって味つけなど多少アレンジが異なるが、
元祖ともいえるのが〈まるはち食堂〉だ。
現店主の伊藤みどりさんは3代目。鶏ちゃんを始めたのは、みどりさんの祖母である。
「豚ちゃんという豚肉を炒める料理がありましたが、
近くに養鶏場が多かったこともあり、それを鶏肉に変えて
鶏ちゃんを始めたんです。おばあちゃんの名前ではありません(笑)」
注文してみると、ジンギスカン鍋のようなドーム型の鉄板に、
クッキングシートが敷かれ、その上に鶏肉とキャベツがたっぷり。
火をつけたら、焦げないように混ぜ続けなければならない。
クッキングシートを破かないように注意が必要。
慣れていない人は、肉かキャベツを掴んで混ぜればいい。
火が通ったら下部の受け部分に落としていく。
追加注文があれば、全部食べきる前に頂上に乗せていく。
男性なら、ご飯があれば2人前くらいはぺろり。
醤油ベースにニンニクが効いていて、箸が止まらなくなる。
「うちはシンプルに鶏肉とキャベツだけです。
味つけも特別なアレンジをしているわけでもありません。
でももう50年以上やっていますね」
シンプルだからこそ、飽きずに長く食べられる料理。
下呂市民に長く親しまれてきた味を堪能したい。
information
まるはち食堂
住所:岐阜県下呂市御厩野139-1
TEL:0576-26-2077
営業時間:11:00~17:00
定休日:火曜日
飛騨の冬の伝統料理のひとつ「ねずし」。
保存食として食べられてきたもので、本来はお正月にいただくものである。
冬場は雪も降るので野菜もとれず、漬け物が盛んな飛騨で、
保存食の文化は多様に広まっている。
つくり方を馬瀬にある〈さんまぜ工房〉の山本さとみさんに教わった。
「ご飯の中に、大根とにんじん、そしてマスを入れます。
麹を入れて2週間ほど寝かせます。そうして発酵したものがねずしです」
各地に発酵系の寿司はある。独特の酸味やにおいが苦手な人も多いかもしれないが、
ねずしはそれらに比べて甘酸っぱくマイルドで食べやすい。
お酒のおつまみとしても最適!
さんまぜ工房では、〈冬やわい〉という商品名で12月1日から発売を始めた。
ほかにも朴葉すしや五平餅など、馬瀬の食材ばかりを使った
手づくり商品を開発して販売。地元密着型の道の駅といえる。
馬瀬のお母さんたちの味を探しているならぜひこちらへ。
information
さんまぜ工房
住所:岐阜県下呂市馬瀬西村1461
TEL:0576-47-2133
営業時間:9:00~16:00(1月、2月は15:00まで)
■日本三名泉と美しい川や滝のある「下呂市」をもっと知るには↓
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