連載
posted:2024.6.19 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
春だというのに、今年は肌寒い日が続いている。
つい1週間ほど前も朝晩冷え込み、ストーブをつけてしまった。
けれど、良いこともある。
北海道の春は秒速で過ぎていく。
桜の花は普段なら3日ほどで散ってしまうが、
今年はほんの少し盛りが長く続いてくれた。
約半年、雪に覆われているこの地域。
黒々とした地面が少しずつ現れるのは4月に入ってから。
やがて、白鳥が北へと渡り、フキノトウやチャイブの芽がポツポツと見えてくると、
気持ちがソワソワとしてくる。
わたしの仕事場の前にある庭で、今年はどんな植物や虫が見られるだろうかと思う。
この庭はほかの人が見たら、ただの草むらと思うだろう。
春も中盤になるとフキ、ヨモギ、ドクダミ、ミツバなどが勢いよく伸びてくる。
手入れはほとんどしないが、雪が解けたら、庭につけた小道を何十回も往復する。
すると土が踏み固められて、そこには大きな植物が生えてこなくなる。
また、踏みしめた土の脇だけにタンポポやアワダチソウ、稲科の植物などが生えてくる。
それぞれの植物がきちんと棲み分けをしながら生きている。
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わたしはときどき、この庭にタネを落としたり苗を植えたりしている。
農家の人が見たらあきれられそうだが、草を少しだけ抜いてそこに大豆のタネをまく。
両脇の草で日差しもあまり届かず、土も耕さないので、整備された畑のものより
背はずっと小さいが、それでもおいしい枝豆が食べられる。
畑で栽培するときは、エゾシカから守るために周りにネットを張らなければならないが、
わたしの庭は草で隠れているからか、目立った被害はない。
このほか赤シソやホーリーバジルなどを苗から育てて庭に植えることも。
シソ科の植物はたくましく、ほかの植物と一緒にぐんぐん伸びてくれる。
大豆やシソは上手く育つが、肥料も入れず草も取らないので、
跡形もなくなる植物も多い。
とにかくバッタが多いので小松菜やレタスは芽が出た途端に食べられてしまって、
毎年チャレンジするが大きく育ったことはない。
困ったことではあるが、バッタにもきっと役割があるのだろうと思うようにしている。
例えば、バッタが好んで食べるフキ。
フキの葉っぱは大きくて日差しをさえぎってしまうが、
バッタがレースのように葉を食べるおかげで、日当たりが良くなることも。
1種類の植物だけが繁殖しないように、
いいバランスで調整してくれているのかもしれない。
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この庭で、今年やってみたいと思っていたのは、ヨモギをもっと活用すること。
実は、ヨモギの独特の匂いがちょっと苦手。
なのでこれまでは、肌につけるオイルバームなどをつくっていたが、
庭にこんなに生えているし、効能も抜群なので、もったいないと思っていた。
そこで、まずはおいしく食べてみたいと思い、草餅をつくった。
ヨモギを食べるのであれば若芽がいいと聞いていたので、
生えてきたばかりの2、3センチの芽を摘み取って
フードプロセッサーで撹拌し、白玉粉と混ぜて茹でてみた。
口に入れてみると、驚くほどおいしかった。
キリッとさわやかで、ヨモギの薬草感のあるエグ味はほとんど感じられなかった。
本当に小さな若芽の時期であればおいしく食べられるんだということがわかり、
次に天ぷらに挑戦してみた。
天ぷらといっても準備が面倒なので、洗ったヨモギを片栗粉にまぶして揚げるだけ。
葉っぱを粉砕せずに食べるので、これはさすがに薬草感があるだろうと思って、
ビクビクしながら口に入れたが……。
えっ、これは! 草餅よりもさらに香りがいい。
目がらんらんと開いた。
子どもたちが習い事でいない曜日は、ひとりで食事。
そのたびに、このヨモギの天ぷらを食べた。
いままでヨモギにエグ味があると思っていたのは、育ち過ぎたものだったからだ。
以前に若芽を摘んでお茶にしたこともあったが、
若芽といっても思えば何十センチにもなっていて育ち過ぎていたのだ。
土から出たばかりの若芽であればおいしい。
これを干してお茶にしてみたら、予想通り、さわやかな味わいだった。
今年はヨモギの味を見直すことができた。
植物の味わいは時期によって異なることを、もっと感じてみたい。
残念なことにヨモギの若芽は1週間ほどで過ぎてしまい、来年の楽しみになった。
いまヨモギは庭で1、2を争う背丈となり、
その葉をバッタがむしゃむしゃと食べている。
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