連載
posted:2021.6.23 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
昨年から岩見沢市の美流渡(みると)地区に借りた仕事場で
日課となっているのは、庭づくり。
幅10メートル、奥行5メートルくらいの広さがあって、
雪解けから少しずつ手入れをしている。
手入れといってもすごく簡単で、イネ科の草とセイタカアワダチソウという外来種を
ときおり抜いていくだけ。少しだけ花を植えたり畑にしたりもしているが、
あとは野草が自然にまかせて育つのを見守るようにしている。
なぜ、イネ科の草とセイタカアワダチソウだけを抜こうかと思ったかというと、
以前、岩見沢の市街地で暮らしていたときに、何もしていなかった庭が、
だんだんとイネ科の草とセイタカアワダチソウに覆われて、
ほかの植物が消えていく様子を見ていたからだ。
全面を覆うカバー力のある植物の繁殖を弱めてあげると、
いろんな野草が生えるんじゃないかと考え、
借りたばかりのときは荒れ放題となっていたこの庭の手入れを始めた。
今年は雪解けとなった4月中旬頃から、この手入れを始めており、
昨年とは庭の様子が明らかに変わっていった。
以前の住人が植えたバラやボケなどの低木の勢いもよく、
その手前には、白と赤の花を咲かせるクローバーが成長していった。
ほかにも、アサツキやミツバ、ドクダミ、ヨモギ、フキなどが芽を出し、
あっという間に緑に覆われていったのだが、昨年とは違い
植物たちが上手に棲み分けしながら、調和を持って育っているように見えた。
このエリア分けを崩さないように、小さな道をつけてみると、
さらに庭らしい雰囲気となっていった。
あえてタネや苗をお店で買って植えたわけではない庭だけれど
(ほかの家と様子がかなり違う)、それでもいろいろなものが収穫でき、
毎日の楽しみになっている。
ほとんど雑草のようにあちこちに自生しているアサツキやミツバをつんで薬味にしたり。
スギナやカキドオシを干してお茶にしたり。
そして、今年どうしても挑戦したいと思っていたのがバームづくりだ。
化粧品のジャンルでいえば、クレンジングや保湿などに使われるオイルを
固形化させたものがそれにあたる。
ネットで調べてみると、自分でもつくれることがわかり興味を持った。
今回挑戦したのは、ヨモギのオイルバーム。
ヨモギは、かぶれやかゆみをやわらげる効果があるというので、
虫に刺されたときに使ってはどうかと考えた。
以前から、ドクダミの花をホワイトリカーにつけた
「ドクダミチンキ」を虫刺され対策として愛用していたのだが、
かきむしったあとにつけるとしみるので、子どもたちには案外不評。
ヨモギのオイルであれば、アルコール分がないからしみないんじゃないか。
効くか効かないかはよくわからないが、
何かつけると子どもたちはひとまず安心するので、
おまじないのような役目を果たしてくれればと思った。
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ネットで調べたところ、まず、ヨモギと圧搾抽出されたごま油を鍋に入れて、
ごく弱火で30分ほど熱し、布巾でこすとヨモギオイルになるという。
このオイルに蜜蝋を混ぜて、湯煎で溶かし、
容器に流し込んで固めれば、バームが完成する。
よーし、やってみるぞと鍋にヨモギとたっぷりの油を入れて熱してみると、
パチパチと音がして素揚げのようになってしまいそうだったので
(天ぷらみたいに揚がってしまうとまずいらしい)、
時々火を止めて温度を下げながら混ぜ続けていると、
ある段階で急にヨモギがどろっとしてきて、油が深緑色になっていった。
このオイルと蜜蝋を湯煎にかけると、蜜蝋があっという間に溶けていった。
それを容器に流し入れると30分もたたないうちに固まって、
美しい深緑色のバームができあがった。
我が家の3人の子どもたちにつくったバームを渡すと、みんな大喜び。
虫に刺された患部に塗ってみるとしみないようで、
「もう、かゆくない~」と言って跳ね回っていた(本当か!?)。
とにかく夏は、汗疹ができたり蚊に刺されたりすると、
子どもたちが大騒ぎするので、これはありがたいと思った。
バームづくりは思いのほか簡単にできたので、
タンポポをオイルに漬け込んで、これもバームにしてみた。
今度は鮮やかな黄色。目にも楽しく、ほかの植物でも挑戦してみたくなった。
部屋の窓から見える庭は、北海道の短い初夏を惜しむかのように、
どんどん花が開花していってダイナミックな変化を見せてくれる。
いま、満開なのは赤い花を咲かせるクローバー(アカツメクサ)。
あと数日もすれば、ドクダミの可憐な白い花が咲き、大きな赤いバラも開花するだろう。
私は毎朝、こっそりと裸足で庭の小道を歩く。
そうすると足の裏から元気が出てきて、
今日も仕事にしっかりと打ち込めるんじゃないかと思えてくる。
午後、パソコンをずっと見つめて肩が凝ってくると、
再び庭に出て、草を抜いたりしているうちに、またフレッシュな感性が蘇ってくる。
そしてなぜだかわからないけれど、庭の中ではあまり虫に刺されたりもしないのだ。
私は勝手にここには調和があるからだと解釈している。
裸足でいると、まるで体の一部が庭のような不思議な感覚を覚える。
バームにして塗ったり、食事にとり入れたりすると、その感覚はさらに強くなる。
そしていまや庭は、健やかに原稿を買いたり編集の仕事をしたりするために
欠かせない場所となっている。
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