連載
posted:2019.6.26 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
岩見沢の山あいに住むみなさんの顔が見える地図
〈みる・とーぶマップ〉の制作も今年で3年目を迎えた。
この地図は、万字(まんじ)、毛陽(もうよう)、美流渡(みると)、
朝日、上志文など、東部丘陵地域と呼ばれる地域を取り上げたもので
(東部を見るで、名前は〈みる・とーぶ〉)、わたしがイラストとデザインを担当。
年1回、地域住民や新しいスポットを加え、
その年の版としてさまざまな場所で配布を行っている。
制作のきっかけは、3年前に開催された札幌でのイベント。
この地域で活動する工芸家やアーティスト、
手づくりの好きな人たちの作品を集めた『みる・とーぶ展』を行うことになり、
地域のことがわかる何かがつくれないかと思ったことだ。
しかし、北海道の名だたる観光地とは違い、岩見沢の山あいは名所に乏しいエリア。
普通の観光マップのような体裁では、この地の魅力を伝えることは難しい。
そんな状況のなかで、あらためて地域のよさを考えてみたときに、
まずおもしろいのは個性あふれる人たちが
住んでいるところなんじゃないかと思いついたのだった。
そこで、札幌のイベントを一緒に計画していた地域の仲間と、
地元の人たちひとりひとりに取材をして、顔写真を撮り、
ひと言コメントを寄せてもらい、それをわたしがイラストに起こして
地図を制作することにした。
何より大変だったのは住民への取材。
メールやSNSで気軽にお願いできる人だけではない。
その多くは、直接訪ねて行って趣旨を説明してというプロセスを
踏んでいかなければならかなった。
そこで、東部丘陵地域には10ほどのエリアがあるのだが、
その中でも私たちが住んでいる地域に近い、
朝日、美流渡、毛陽、万字に絞って紹介することにした。
2年目の更新時には、朝日の隣の地区、上志文も加えるなど、
自分たちのできる範囲を少しずつ広げていっているところだ。
そして今年、110名の地域の人の顔を紹介するところにまでなっている。
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こんなふうに、みる・とーぶマップは、
年々成長を続けているメディアということができる。
仮にこの制作を、どこかの編集プロダクションに委託するようなかたちをとっていたら、
毎年更新というフレキシブルな対応ができなかったのではないかと思う。
手前味噌になってしまうかもしれないけれど、このマップは
地域の仲間で「つくりたいからつくっている」というスタンスが
魅力あるものになっているのではないだろうか
(制作費は、市から助成をしてもらっています)。
そして年1回、更新することで、この地域に少しずつ
変化が起こっているのがわかるところもおもしろい点だ。
今回の更新では、地図にマッピングした箇所が増加。
人口400人ほどの美流渡地区では4か所も!!
大都市に住んでいる人にはイメージしにくいかもしれないが、
人口流出の激しい過疎地で4か所というのは、画期的な数だと思う。
あえて比較するなら400人くらいが住むマンションに、
1年でカフェや宿泊施設などがたて続けに生まれたら、
マンションの風景はガラリと変わる、
そのくらいのインパクトがある出来事ではないだろうか。
いままでとは違う人の流れが生まれたり、
新たな交流が起こるきっかけとなっているのだ。
マッピングしたのは昨年秋にオープンした、
たった7席という小さなカフェ〈コーローカフェ〉。
また、地域とともにずっと歩んできた「安国寺」では、
昨年から月1回小学生以上なら誰でも参加できる坐禅会がスタートし、
その情報も盛り込んだ。
このほか、元地域おこし推進員のふたりがずっと改修を続けていた〈マルマド舎〉と、
アフリカ太鼓の奏者で昨年、万字地区に移住した岡林利樹さん、藍さんが
始めようとしているゲストハウス〈セタミンタラ〉もオープン予定になっている。
こうした地域を訪れた人が利用できるスポットとともに、
ここ数年で増えている移住者のみなさんも、できるだけ紹介するようにしているのも、
このマップの特徴。
今回の更新で印象的だったのは、子どもたちの顔をたくさん描いたこと。
今年で地域の小中学校は生徒数減少により閉校となり、
通う学校が変わったことからこの地を離れていった人たちがいた一方で、
子育て世代が少しずつ増えていることが地図の制作からも実感できた。
また、地図の裏側には、みる・とーぶのメンバーで開催している
地域のフォトコンテストの応募作品を掲載。
ここでも自然に囲まれた風景の中ではしゃぐ子どもたちの姿を数多く見ることができた。
最近、東京などに出向いたときに、このマップを配るようにしているのだが、
開いた瞬間にみんな「ワーッ」と声を上げてくれるのがうれしい。
なかには「たくさんの人が住んでいるんですね」なんて言ってくれる人もいるし、
この地域が楽しく活気づいているように思えるのであれば、
つくった甲斐もあるというものだ。
ときには「このマップを見ながら地域をめぐってみました〜」という人もいる。
今回、また地図に新しいスポットを加えてみて、わたしはひとつ
ハッとしたことがある。コロカルの連載では、月2回できる限り
フレッシュな記事を書きたいと心がけているのだが、
毎回、自分が興味のわく“ネタ”を仕込んでいくのは、結構大変なときもある。
けれど、こうして地図を見ていると、まだまだ紹介していない人や
スポットが多いことに気がついたのだ。
例えば昨年も、今年も、この地を訪ねてから、
わずか1か月ほどの間に電撃移住をした家族がいるし、
友人たちが〈メープルアクティビティセンター〉という
旅行者向けのアクティブプログラムの提案を始めている。
地域の人たちを紹介しているこの連載と、みる・とーぶマップを一緒に見てくれたら、
限られた範囲の中に、個性的な取り組みをしている人々が
本当に多い濃厚な地域であることが伝わるのかもしれない。
制作した最新マップは、7月5日〜7日に札幌で開催する
『北にあつまる手しごと展』でお披露目予定。
ぜひ、実際に手に取って見てもらえたらうれしいと思っています。
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