連載
posted:2017.1.26 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
北海道・岩見沢の中山間地である美流渡(みると)に、
いよいよ春に移住しようと思っているわが家。
住まいとなる古家は改装が必要なのだが、連載で何度も書いているように、
大工である夫の作業は遅々として進んでいない(う〜ん)。
夫の重い腰がいつ上がるのか、いい加減ハラハラしてきたなかで、
ひとつうれしい知らせがあった。
連載第16回で紹介した地域おこし推進員(協力隊)の吉崎祐季さんが、
わが家よりさらに山あいの上美流渡で、この冬に古家を取得し、
なんと改装に乗り出したのだった。
ご近所に改装仲間がいれば、夫のやる気にも弾みがつくかも!! と期待が……。
築年数は不明。炭鉱街としてにぎわっていた時代は遊郭として使われていたそう。右の丸窓がその名残り。
家には増築の跡があり奥がかなり広い。1階は5部屋、2階は2部屋。
吉崎さんから最初に古家取得の話を聞いたときには、
思い切った決断をしたものだと驚いたが、同時にこれまで自分が考えてきたことを、
いよいよ実行に移すときが来たのだと納得もした。
彼女は地域おこし推進員であり、インテリアデザイナーという顔も持っている。
ただし、一般的なデザイナーのようにデザインだけをするのではなく、
DIY精神を生かし、模索しながら自分の力で改装を行っているのだ。
札幌の実家が経営していたアパートの一室を自ら改装したのを手始めに、
美流渡の花屋さんや自宅の内装も行い、
そのプロセスを『earth garden』というウェブで発信もしてきた。
自宅を少しずつ改装中。奥にあるドアには板を細かく貼って模様を描いた。手前のスタンディングデスクもお手製。
こうした経験を持つ彼女にとって、美流渡の空き家は
宝の山のように感じられるのだという。
以前は炭鉱街として栄え、閉山後に急激に人口が減少したこの地域には、
築年数もわからないような古家がいたるところにある。
それらは所有者がわからないものも多いが、吉崎さんは2年前に
地域おこし推進員になってから、NPOと連携しながら古家の調査を実施。
昨夏には活用方法をみんなで考える取り組みとして、
〈美流渡ビンテージ古家巡り〉というイベントも開催した。
「空き家はあるけれど、いまは活用する人がいない状態です。
移住希望者に空き家を見せる機会もありますが、ほぼ“廃屋”みたいな家がほとんど。
『直せば住めますよ』なんて言っても、なかなかイメージしにくいもの。
わたし自身も内装はやっていますが、廃屋を直すなんて
やったことがないので全然説得力がない。だからまず自分が実践して
“After”の状態をみんなに見てもらおうと思いました」
吉崎さんはさっそく改装を始め、1月には内壁をはがす作業を実施。
多くの仲間が集まった。ワークショップのように人を集めて改装をしていくことで、
地域の人たちのリノベーションスキルがアップすれば、空き家活用の機会が
さらに増えていくんじゃないか、そんな想いも持っているのだそう。
壁や天井をはがすと50年以上たまったホコリが! 前が見えなくなるほどの煙が舞い上がることもあったとか。
キッチンスペースの内壁もすべてはがすことに。
はがし終わったところ。仲間が手伝ってくれたので1日でここまで完了。
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吉崎さんの話を聞いて、わたしが一番興味を持った点は、古家活用の考え方だ。
自分の居住スペースにするのではなく、古家をみんなで改修しながら、
その活用方法を考えていきたいのだという。
上美流渡は山あいの地域で住宅はまばらにしか建っていないが、
午前中には売り切れてしまうこともある〈ミルトコッペ〉というパン屋さんがあり、
また昨年には〈Kangaroo Factory〉という花屋さんがオープンした場所。
こうした立地を考えて、ここをカフェ、あるいはゲストハウスとして
利用できる方法はないかと探っているという。
「この古家が実験の場になったらと思っています。
飲食店や旅館業を行うためには、どんな手続きを取ったらいいのかを、
改修しながら勉強してみたいんです」
古家があるからこそ具体的に考えられることは確かに多い。
まずは飲食店の営業許可に挑戦しようと考えているそうで、
すでにいろいろな問題点も浮上している。
例えばそのひとつがトイレの問題。飲食店の営業許可を取るためには
トイレに手洗い場もつくらなければならいというが、トイレがあるのは長い廊下の先で
現在水道の配管は通っていない(くみ取り式のため、水道を使っていなかった)。
「水道の配管は自分でできない作業なので、
どこまでお金をかけるかは悩みどころなんですよね」
長い廊下の奥にあるのがトイレ。水回りのある台所から、確かにかなりの距離がある!
今後の改装予定は、まずはみんなが休める場をつくるために
2階のフローリングから着手するそう。
次に1階の玄関から入った2室を改装予定とのこと。
住むということを考えなければ、吉崎さんのように一度に全部を直す必要はない。
手をつけられそうな部分から始め、使いながら
さらなる展開を考えるというのは賢い方法だなと思った。
床材には味わいのある板が使われていた。磨いて生かすことを考えている。
「ユッキー(吉崎さんの愛称)の家もかなりひどい状態だゾ〜」
1月に吉崎さんの家の改修を手伝った夫は、わたしにそう語った。
わたしたちが移住しようとしている家も、傾きがあったり、
梁の構造がおかしな状態になっていたりと悩みがつきないが、
吉崎さんの古家も床下の木がもろく崩れそうになっている部分があるなど、
一筋縄ではいかない部分があるようだ。
床板を外すと、板が朽ちている部分が見つかった。「とりあえずいまは見なかったことにします(笑)」と吉崎さん。
こうした問題点を、どうやって乗り越えていったらいいか、
まだまだわからないことも多いという吉崎さんは、
困っている点を書き出した独自の施工図をつくっていた。
例えば1階の窓部分には、「開きません! 助けてーーー!!」と書いてあり、
それを見た大工の夫が、さっそくアドバイスをしていた。
改装は、大工経験のない女子ひとりでは、さすがに限界もある。
そんなときこの独自の施工図があれば、手伝いに来た人が、
何をするのかひと目でわかるし、教えてくれる人も現れるというもの。
こうした工夫をすることで、一歩一歩問題を解決していく吉崎さんの姿は
とても頼もしく見えた。
1階のリビングのオリジナルの施工図。立てつけが悪く窓が開かない。
こちらは1階のキッチン。
こちらは2階。
1階の2室と2階の改装終了の目標は4月!(うちより早い!?)
頼もしいご近所さんが現れたいま、わが家もがんばらねばと
身が引き締まるとともに(わたしが引き締まっても、効果はないけど)、
美流渡がますますおもしろい地域になっていくんじゃないかとワクワクする想いがした。
以前に開催した〈美流渡ビンテージ古家巡り〉で、参加者のひとりから、
「美流渡に空き家が多いなら、DIYのまちとしてPRしていったらいいんじゃないか」
という意見があがったことを思い出した。
みんなが、お互いに助け合いながら自分の手で自分の家をリノベしていく。
DIY、つまり「Do It Yourself!(自分でやる)」の精神を持つ人たちが
集まる場所になったら確かにおもしろそう。
もし、この記事を読んで改装の仲間入りをしたいという方がいたら、
ぜひ美流渡に遊びに来てくださいね(アクセスは、みる・とーぶのFacebookから)。
1階のリビングとキッチンのデザイン画を見せてくれた吉崎さん。棚やキッチンカウンターなど、すでに具体的なイメージができあがっている! 日々の改装の様子は、ブログ「美流渡ビンテージ古家リノベ」で公開中。
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