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連載

〈自然エネルギーを考える会〉で山の達人に出会う

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.007

posted:2015.11.12   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

山ライフを楽しむ日端さんとの出会い

エコビレッジをつくるために、山の土地を買ってはどうだろうか?
そんなアイデアをくれたのは、岩見沢で農家を営む友人、
林宏さんだ(詳しくは連載第1回に)。
秋のはじめに、その林さんに誘われて、岩見沢市内を中心に活動を行う
〈自然エネルギーを考える会〉の会合に参加をさせてもらった。
この会のメンバーは十数名ほど。
市内で自営業を行う人や元教員、農家など、立場はさまざまだが、
自然の恵みを利用しながら、暮らしを豊かなものにしていこうと、
山をフィールドにした活動を行っている。
今日は月に一度の定例会の日で、午前中は運営についての話し合い、
午後はメンバーのひとりである日端義美さんが所有する山で、
ちょうど食べごろになっているアロニアの収穫が行われた。

アロニアは北米原産のベリー系の小果樹。その実は果実酒やジャムなどに使われる。自然エネルギーを考える会の皆さんで手分けして収穫を行った。

ブルーベリーよりもポリフェノールが豊富ということで、アロニアは健康食材として注目されている。ひとつ口に入れたら……。フルーティーな味わいの後にパンチの利いた渋さが! アクをいかに抜くのかが、おいしく食べるコツのようだ。

この会に参加し、日端さんに出会えたことは、本当にありがたいことだった。
山を買ってそこで暮らす! なんて言っても、
実のところアウトドアなんて、これまでほとんど興味はなかったし、
山に水や電気などのインフラを整備するとかなりのお金がかかるようだしで、
「ちょっと難しいかな〜」と腰が引けていたところだったからだ。
日端さんは、岩見沢の上幌地区と宮村地区に、ふたつの山を所有し、
そこで木の実や山菜を採るなど、山ライフを本当にエンジョイしているのだった。

アロニアの収穫のために、この日訪ねたのは、上幌のほうの山だ。
日端さんがこの土地を買ったのは15年前。
当時は、ヨモギなどがおい茂っていたが、草をかきわけ、かきわけ進んでいくと、
見晴らしのよい風景がパッと目に飛び込み、その美しさにほれ込んだという。
そして、その日のうちに購入を決心。
地主さんに、自分がそのとき出せる最大限の金額を提示して、売ってもらった。
その後も、周辺の土地を4回にわけて買い足していって、
現在、その広さは8ヘクタールになる。

自然エネルギーを考える会は、日端さんの所有する山を中心に活動を続けている。

日端さんに、わたしがエコビレッジをつくりたいと思っていること、
山を買いたいと思っていることを話してみると、
すぐに「いい場所があるよ!」と教えてくれた。
日端さんが所有する宮村の山のほど近くに、
約1.5ヘクタールの土地があり、そこには空家もあるという。
なんと、家つきの山!? 
それなら、水も電気もあってインフラ問題は解決か!!
山の日差しのなかで笑顔を浮かべる日端さんは、まるでわたしにとっての“山の神”(!?)。
善は急げ! ということで、さっそく翌朝、
日端さんに山の土地を案内してもらうことにした。

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山の土地探しのキーワードは“ブル道”

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山購入に向けて、再チャレンジ

この日は、日端さんと市街地の公園で待ち合わせをし、
そこから目的の山へと向かうことになった。
岩見沢は石狩平野の東部に位置し、その東側には夕張山地が含まれており、
市街地から車を20分ほど走らせると山間部へたどりつく。
宮村地区に入り、民家がだんだん少なくなり、林を抜けてかなり奥までいくと、
あっ、たしかに空家が1軒ポツンと建っている。

空家の前で車を止めると、日端さんはさっそく地図を出してくれた。
「いや〜、ごめんね。実は、もう一度、地図を確認したらさ、土地が狭かったんだよね」
と日端さん。
日端さんは、山の地主さんたちとのさまざまなパイプがあるようで、
昨日帰ってからこの土地について調べてくれたらしい。
日端さんによると、空家のある敷地は1200坪ほどで、
その半分くらいは農業用のため池が占めているのだという。
この敷地に隣接して1.5ヘクタールの土地があり、
空家と土地とすべてが同じ所有者だと、思い違いをしていたのだそうだ。

地図を見ながら説明してくれた日端さん。山を一緒に購入したいと考えている農家の林宏さんの奥さんも、土地を見に来た。

空家のある土地も1200坪というから、それでも相当広いけど、
たしかにため池の面積が広くて、ちょっと使いにくそうな気も……。
そのとき日端さんは
「所有者は別にはなるけれど、近くに5ヘクタールほどの土地があって、
おもしろい使い方ができそうなところがある」とさらなる情報を教えてくれた。
ちょうど木が伐採されたあとということで、
“ブル道(ブルドーザーが通るために整地した道)”があり、
その間を沢が3本流れていて、景観も変化に富んでいるという。
「エコビレッジをやるんだったら、ブル道沿いに
家をぽんぽんと建てていくといいかもしれないよ」

ブル道……。
日端さんは、会話の中で、何度もこの言葉を繰り返した。
たしかに、この道はとっても重要だ。
連載第3回で紹介したように、山の土地の中に入ってみたいと思っても、
まずは草を刈らないことには、一歩も前に進めない。
だから、ブル道があって、そこを通れるだけでも、
ものすごく便利! なのだ(土地の全貌もつかみやすいしね)。
しかも、土地の一部が道路に面している(ここも大切)。
そして、一番重要なことは、日端さんの山から近いということだ。
仮に山に住むことになったとしても、その前に山の管理の仕方や植物に関する知識を
学んでおくことは、ぜったい必要だ(おしかけ弟子になりたいくらい!)。
しかし、日端さんによると、この土地は所有者が売りたいと思っても、
行政との絡みがあるらしく、売買が成立するのか、具体的なことはわからないという。
「この土地がどうなっているか、調べてみたらどうかな? 
買えるかどうかは別にしても、そういう経験は勉強になるんじゃない?」
まったくそのとおりです! どこまでも親切な日端さん!!
ということで、地主さんに話をうかがったり、役所に行ってみたりして、
売買の際の条件について、日端さんの協力のもと調べてみることになった。

日端さんの説明を聞く。山に詳しい人がいると、本当に心強い!

「これ、トリカブトだよ」と紫の花を差して日端さん。根に猛毒があり、山菜と間違って葉などを食べて中毒症状を起こすこともある。やっぱり、植物に関する知識は重要だと、あらためて実感。

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山ライフをエンジョイする日端さん

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山とともに生きる姿に触れて

ところで、日端さんは、山をどのように活用しているのだろうか。
もともと会社勤めをしていたが、現在は退職して、
市街地にある住まいから、毎日のように上幌か、宮村の山に出かけている。
なぜ山を買うことになったのかを聞くと、「体が弱かったから」という日端さん。
山があればその手入れをして、否が応でも動かざるをえなくなるからと、
土地を購入したそうだ。

眺めのいい場所に小屋も立っている。山に住んでいるわけではないが、ときどきここでひと休みをするために使っている。

山のなかの道も、キレイに草が刈られている。山での草刈りは「すぐに成果がわかって」楽しいのだそう。

日端さんの山は、ハーブ畑があったり、苔庭があったりと、
超巨大な敷地でガーデニングを楽しんでいるようにも思える。
また、いま、クサギという木をたくさん植えて、
それを岩見沢の特産にしてはどうかと、自然エネルギーを考える会のメンバーと計画中だ。
クサギの果実は、媒染剤なしで布を鮮やかな空色に染めることができ、
また、その花には、山地や渓谷などに分布する青緑色の模様が美しい
ミヤマカラスアゲハが集まってくるという。
クサギが咲く丘に、ミヤマカラスアゲハが舞う、
そんな景観にしていきたいと、日端さんの夢はふくらむ。
こうした草原のような開けた場所とともに、手つかずの自然林も残されている。
ここには、北海道の各地で見られる
〈落葉きのこ〉が生えるという(なめこのような食感で、道民の好物!)。
そのほか、歩く先々で、クルミや栗、山ぶどうなどがあり、
山とはなんと豊かなのだろうと、感動の連続……。

手つかずの自然林。ここに隣接した唐松林には落葉きのこがよく生えるとそうだ。

種をまき、一面のハーブ畑もつくっている。

石を持ってきて、苔庭づくりも。

ああーー、やっぱり山っていいなぁ!
日端さんの山を歩きながら、後ろを歩く夫に、そう語りかけると……、
「お前は、本当に山に住む気なのか!」と、やや厳しい視線。
エコビレッジづくりにようやく賛成し始めた夫であったが、
いざ山を買おうと踏み込むと、反対されることもしばしばだ。
いま、ここで「うん」と言ったら、考えが甘いと、
また説教されそうな空気が漂っているので、
「週末だけとか、夏休みだけとか、小屋を立てて住んだら楽しそう。
子どもの教育にもいいしね」と言ってみた。

その言葉に安堵したのか、とくに返事もなかった夫だが、家に帰ると、
じーっと地図を眺め続けて、ヒゲを触りながら、意外なひとり言をポツリ……。
「あの山からだと、子どもはこの小学校に通わせることになるなぁ」
えっ、山に住む気あるの???
思わず食器を洗う手を止めたが、そう聞きたい気持ちをグッとこらえた。

フフ、あえて何も言うまい……。
夫も乗り気? かもしれないということもあり、
さらに山探しを続けようと決意も新たに!

次回は、日端さんに教わった山の恵みの活用術について紹介します。

日端さんの山でつくったリース。コクワのツルをくるくる巻いて。

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