連載
posted:2015.9.10 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
北海道にエコビレッジをつくりたいと、始めた土地探し。
ビレッジというからには、何家族か住める家がほしいし、
野菜を育てて自給したいから畑もつくりたい。
そうすると、それなりの広さが必要だ。
不動産物件をチェックしていても、当然ながら
「ここだ!」と思えるような場所は見つかるはずもないし、
あっても何千万円もかかってしまう。
ということで、浮上したのが山を買うというアイデアだった。
そこで、土地購入の足がかりとして、今回訪ねたのは、
地元・岩見沢の市役所の中にある、そらち森林組合だ。
この組合では、森林の保全や活用のほか、土地のあっせんもしているという。
森林組合とのアポイントは午前10時。
少し時間があったので、ロビーで待機しているあいだに久々に緊張が走る。
森林組合では、森林の有効活用を考えている人に対して土地を紹介してくれるようだが、
知識はゼロだし、1歳の娘も一緒だし、「夢を語られても困ります」なんて
門前払いされたらどうしよう……と不安がよぎる。
時間になり担当者を探すと、やってきたのは玉川則子さんという女性だった。
にこやかに席をすすめてくれたうえに、
一緒に連れていった娘の頭をなでてくれた(娘がいてくれて場が和んでよかったー)。
少し緊張がほぐれて、話を切り出すことができた。
山を買って自給自足的な暮らしをやってみたいと思っていること、
ただし、まったく知識がないので一から教えてほしいことを話すと、
さっそくいくつか候補となりそうな土地の地図を見せてくれた。
「暮らすことを考えると、人が住んでいるところの近くがいいかもしれないですね。
お子さんの学校のことなどもありますし」
と言って見せてくれたのは、いずれもわが家から車で30分以内に行けそうな地域。
5か所の図面を見せてくれて、その中にはカラマツを植林している山や、
沢のある天然林などがあり、広さは2ヘクタールから10ヘクタールくらいだった。
玉川さんの話をうかがっていると、別の所有者の土地を通らないと辿り着けないところや、
道路は通っているものの冬に除雪が入らないところなどがあり、
なかなか難しい問題があることもわかってきた(ヒグマも出るしね……)。
そのほか、山林に家を立てたり、家庭菜園をつくったりする場合は、
申請が必要になるなど、制度についても丁寧に説明をしてくれた。
訪ねる前にはたくさん聞いてみたいことがあったが、なかなか言葉が続かない。
あまりにも初めてのことが多く、頭の中の情報整理が追いつかない感じだ。
ようやく、ひとつ質問できたのは、
「いま山を買いたいというのは、どんな人なのか」ということだった。
「昔は資産として考える人も多かったようですが、
最近は週末に山に入って自然を体験したいという人もいますね。
小さな山小屋などを建てたりする人もいますよ」という玉川さん。
そして、「ここから近くのところでしたら、一緒に土地を見に行くこともできますよ」
というやさしい言葉もかけてもらい、次回に会う約束も取りつけることができた。
帰宅すると夫が、どうだった? と興味のありそうな雰囲気!
さっそく図面を渡して場所を説明すると、
うんうんとうなずきながら道路マップと照らし合わせ始めた。
「ここは、俺が前に仕事で家を直しに行ったところに近い」とか、
「あそこは、高速道路の近くだ」と、
さすがに土地勘がある(わたしには全然わからない)。
その後、ふたりでグーグルマップの航空写真で場所をチェックしてみた。
住宅のような住所はないので、だいたいこのあたりかな?
と地図の地形をたよりに見ていくと……、あった!
いくつか候補として教えてもらった土地の中で、山のふもとのあたりであれば、
自分たちでも見に行けそうなので、さっそく翌日車で出かけることにした。
Page 2
まず、見に行ったのは、わが家から車で15分、市街地のすぐ脇に広がる山林だ。
近くまで来たが、場所がなかなか特定できない。森林組合の玉川さんも、
「ご自身で行かれても、どこからどこまでなのかわからないかもしれませんよ」
と言っていたが、そのとおりだった。山の切れ目は、素人には判断がつかない。
なんとか、おおよその見当はつけたものの、窪地になっていて、
まったく奥まで入ることができず、しかたなく道があるところから眺めて終了。
すると……、「車の音がうるさいから、ここはないな」と夫がひと言。
前回の連載で語ったように、エコビレッジづくりに
それほど気乗りのしていなかった夫ではあったが、
山を見に行くという時点で急に覚醒していることに驚かされた。
いつしか、自分のこととして、土地選びに参加してくれている(感動)!
山って男のロマンを感じられる部分があるのかも!?
そして、次に向かったのは、グーグルマップで見ていたときには、
一番有力かな? と思う土地だった。
山のふもとが平らな空き地とつながっているので、
行きやすいし、民家にも近いから便利(?)そう。
期待を膨らませつつ、岩見沢市内から車で30分ほどの山間部を目指すと、
その場所は現れた。
しかし、夫は車を降りた瞬間こう言った。
「この傾斜では無理だ……」
さすが大工なだけあって、ここに家をもし建てたら? という
シミュレーションをしたのだろう。
「ヘタをしたら、45度くらいあるぞ!」
……確かに、急斜面だよね。
ひと口に山って言ってもいろいろあるんだなあと、あらためて実感。
しかも、ちょっと訪ねて行って、その中に分け入って、全貌をつかむのは困難。
いくら地価が安いとはいえ、そうやすやすとは買えないものであることが、
少しずつわかってきた。
しかも電気やガス、水道などのインフラをどうするのかも未解決だ。
……でも、だからといってここであきらめるのも、ちょっと悔しい気持ちもする。
だって、山を見に行くのって、初めての体験で刺激的!
山を見ながら、ここで何かができるかもしれないと思うだけでワクワクする!!
ということで山の土地探しは続行しつつ、
もっと現実的な方法も考えてみることにしようと思った。
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ