連載
posted:2015.9.24 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
エコビレッジをつくるために、この1か月ほど山の土地購入を考えていたわけだが、
調べていくにつれ、山を切り開いて暮らすのは、そう簡単ではないことがわかってきた。
山を買うという可能性は探りつつも、ほかにも土地を探す方法があるんじゃないか?
実際にエコロジカルな暮らしを実践している人たちは、
どうやって自分のやりたいことをかたちにしているのだろうか?
北海道で活動をする先輩たちに会って、土地探しのヒントと暮らしの知恵を学びたい。
そんな思いから、いままでは、仕事が忙しくてなかなか行く機会がなかった場所へ、
この夏思い切って出かけてみることにした(会社も辞めたことだし!)。
わが家から車を3時間ほど走らせ向かった先は、
北海道の南側に位置し比較的温暖な気候の洞爺湖。
海もあり湖も広がる開放感あふれる土地だ。
この洞爺湖の湖畔にあるカフェ〈ちゃいはな〉は、
いつか訪ねてみたいと思っていた場所のひとつ。
ちゃいはなの敷地には、カフェ兼住居の平屋が建ち、
裏には畑、そのほか駐車場もあり、申し分ない広さといえる。
カフェを営む渡部大輔さんは、11年前にこの地にやってきて、
自給自足的な暮らしを始めたという。
今日は、渡部さんに、この土地を見つけたきっかけと、
どのように自給自足をしているのかを教えてもらいたくて訪ねることにした。
渡部さんは、若いころ旅人だった。
20代は世界各国をめぐり、タイ、アメリカ、
オーストラリアに1年以上住んだこともある。
それは「日本の社会になじめず、日本を捨てる覚悟」の旅だったという。
そんな渡部さんが、洞爺湖で暮らし始めたきっかけは、子どもができたことだった。
「自給自足的に生きていきたいと思っていたときに、ここを見つけました。
子育てもゆっくりできるし、気に入った」
渡部さんの場所探しは、ネットに頼らず現場主義。
北海道の中でも札幌より南に住んでみたいと考え、
何か月も車を走らせていったそうだ(さすが旅人!)。
そして、あるとき洞爺湖畔の道を運転していたとき
「あ、ここいいかも!」というインスピレーションがわき、
同時に「これは!」と思う空家に遭遇。
さっそく家の持ち主を近所の人に教えてもらい、ここに住みたいとかけあった。
粘り強い交渉が功を奏し、念願かなって、この地で暮らすことになったそうだ。
まさに運命の出会いだが、築80年の家は、“お化け屋敷”のような状態だったという。
「コウモリも住んでいたんですよ。裸足で歩けるような状態じゃなくて、
家の中にテントを張って暮らし、少しずつ修繕をしていきました」
家だけでなく駐車場や畑をつくる土地もたっぷりあって、
賃貸料は月2万(ただし大家さんの土地の草刈りを手伝っているので、その半額)。
自給自足を目指しつつ、収入もいくらかは必要なことから、
ここでカフェを始めることにした。
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現在、古民家は渡部さんの手で丁寧に直され、
お化け屋敷の面影はみじんも感じられない。
カフェスペースはもちろん、厨房や住居スペース、
ゲストハウスとして使っている部屋も、手入れが行き届いている。
また、もとからあった井戸は直して使えるようにし、太陽光発電のパネルも取りつけ、
冬はガスの代わりに薪ストーブを調理に役立てている。
渡部さん曰く、「災害が起きてインフラが寸断されても、
すべてがまかなえる」ようになっているそうだ。
食べ物をすべて自給するまでにはいたっていないそうだが、
これからは野菜の栽培面積をもっと増やしていきたいと考えている。
エコビレッジをつくるとき、自給自足は暮らしを営む重要な柱になると思う。
今回見せてもらった薪ストーブや太陽光パネル、そして井戸の活用は、
エコビレッジにぜひとり入れていきたい部分だ。
また、運営を続けていくためには現金収入も考えどころで、
渡部さんのようにカフェを開くことも、検討してみたいと思った。
こんなふうに自分で場所を開拓し、自給自足を実践している渡部さんは、
わたしにとって一歩も二歩も先を行く存在のように感じるが、
話を聞いていると実はまだまだ目指す先があるのだそうだ。
それは「貨幣を使わない」で暮らすこと。
「ずっと旅をしていて、何年も荷物はバックひとつだけだった。
それでもなんの不便もない。それならばなぜ物を買うのか。
もしほしいものがあれば自分でつくればいいんじゃないかと」
この貨幣を使わない試みとして、何年もかけてつくり続けている廃材ハウスがある。
解体業者から譲ってもらった廃材だけを使って家を建てようとしていて、
なんと釘も使い古し。
どうしてもリサイクルできないペンキだけは購入したが、
それでもこのハウスの元手は1万円以下。
貨幣を使わないという、大量消費社会への疑問符を投げかける試みは、
年に一度開催する〈自給自足フェスティバル〉にもつながっている。
自給自足に興味を持ってもらおうと始めたこのお祭りでは、
電気、音楽、商品などすべて自分たちの手でつくり上げているという。
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そんなアンチ大量消費社会を貫く渡部さんに、
わたしがエコビレッジをつくるために、山を買おうかと考えていることを話してみた。
すると、「あんまりおすすめしないなぁ~」とポツリ。
そして、水道を引くとなるとかなりお金がかかること、
木を切って根っこを取るのを業者に頼むと、
そこにもまたお金が発生することなどを教えてくれた。
「何もない場所に、すべて揃えようとすると、どうしてもお金がかかる。
それは、自給自足じゃないんじゃないか? むしろ、お金を使っている(笑)」
渡部さんの話は一理ある。
例えば退職金をエコビレッジづくりにすべてつぎ込むこともできるが、
会社を辞めて貯金を切り崩しているいま、インフラ整備にお金をかけすぎたら、
自分の生活が立ちゆかなくなってしまうかも?
先行きに不安を抱えるわたしに、渡部さんは、こんなアドバイスもしてくれた。
「山より、限界集落で空家がある場所を探したほうがいいと思いますよ。
いま友だちがそういう集落の家を直して住もうとしている。
そして、ゆくゆくは村のようなものをつくりたいと考えている」
なるほど、限界集落ですか!
確かに大都市と違って車を走らせれば、空家はいくつも見つかるし、
インフラがすでに整っている場所で、建物の修繕を大工の夫にやってもらえば、
お金を浮かすこともできそうだ。
よし、山だけじゃなくて、空家も探してみよう。
渡部さん、教えてくれてありがとうございます!!
……それにしても、限りあるお金をどうやって使うのか、
シビアな事業計画が、本当は必要(苦笑)。
それに、渡部さんのように、自給自足に対して
確固とした哲学があるわけじゃないことも反省ポイントかもしれない。
土地探しの新たな光が見えてきたと同時に、
自分のなかの曖昧な点が浮かび上がってくる気がして、
最後のほうは、お悩み相談のようになってしまった(渡部さん、スミマセン)。
そんな進むべき道が定まらないわたしに
渡部さんは大事なことを、もうひとつ教えてくれた。それは、
「なぜ、自給自足をやっているのかといえば、気持ちがいいから」という言葉。
「例えば、自分で育てたトマトをその場で食べたら、おいしいと感じますよね。
自分でつくれば、おいしいし、楽しいし、気持ちがいい」
自給自足は、人間の根幹にある喜びとつながるものだと渡部さんは考えていた。
そう、その通りだと思う。
わたしがやっている小さな畑でさえも、収穫の喜び以上に、
生きるエネルギーのようなものを、そこから受け取っている。
それに、自分でつくった梅干しや漬け物は、自慢したくなるくらい
おいしくできあがる。渡部さんの暮らしを見ていると、
自給自足はハッピーにつながる道なんだなあとしみじみ感じる。
わたしがつくるエコビレッジも、みんなと自給自足を分かち合えば、
楽しみはどんどん広がっていくように思う。
いろいろ問題点、反省点はあるけれど、未来の楽しい暮らしを想像しながら、
モチベーションを上げつつ、明日からも土地探しがんばろう!
七転び八起きでも動いていれば、きっと「ここだ!」という場所に
めぐりあえるはずだよね。
information
ちゃいはな
住所:北海道有珠郡壮瞥町字壮瞥温泉136
TEL:090-9750-6489
営業時間:11:00〜20:00(夜は予約制)
定休日:木曜、第2、第4水曜休
*冬期間はFacebookで要確認
https://www.facebook.com/toyachaihana
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