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みんなで暮らすって、どういうこと?

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.005

posted:2015.10.15  from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

シュタイナー哲学の学びの場へ

この夏の目標は、エコビレッジのようなコミュニティづくりを
すでに実践している先輩たちに会って、自分がつくりたい“村”の構想を
もっとハッキリさせていくことだった。
ということで、どーんと休みをとって(といっても10日間だけれど)、
向かった先は北海道の南西部の伊達市。
前回の連載では、洞爺湖にあるカフェ〈ちゃいはな〉の
渡部大輔さんの自給自足的な暮らしを紹介したが、
今回は伊達の〈ひびきの村〉での体験を綴っていきたい。

ひびきの村とは、ルドルフ・シュタイナーの哲学をさまざまな角度から学ぶ
〈ミカエルカレッジ〉という年間コースの講座を行い、
敷地内にはシェアハウスやゲストハウスも設けられた施設だ。
昨年、一度、ここを見学させてもらったことがあったが、
そのロケーションの美しさには、心底感動するものがあった。
小高い丘の上にメインホールが建ち、そのほかの建物が広々とした草原の中に点在する。
その奥には有珠山や昭和新山がそびえ、はるか遠くには海も見える。
ああー、こんな場所に、エコビレッジを建てられたら
どんなにすばらしいだろうと、しばしうっとり。
そのときは2時間ほどしか滞在できなかったこともあり、
今回ひびきの村のゲストハウスを10日間借りて、じっくりこの村を体験することにした。

〈ひびきの村〉の敷地は本当に広い。小高い丘の中心に立つのがメインホール。そのほか、ファームやキャンプ場、林を散策できる遊歩道などもある。

メインホールに向かって左に目を向けると、幼児保育の場〈フォレストベイ・ナーサリースクール〉がある。その奥には昭和新山(写真右)と有珠山(写真左)も見える。

わたしがまず興味があったのは、ここがシュタイナーの哲学の学びの場であることだ。
その哲学とは、オーストリア出身の思想家
ルドルフ・シュタイナーが創始した人智学のこと。
この学問は、教育、芸術、医学、農業など、あらゆる分野におよんでいて、
物質的なものだけでなく“目に見えない世界”の領域にも踏み込み、
座学以外にも体験や実践を通じて学びを深めていくというものだ。
特に教育の分野で広く知られており、芸術的要素をふんだんにとり入れた
シュタイナー教育は、“自由への教育”とも呼ばれている。

こうしたシュタイナーの哲学をとり入れた場は世界各地にあり、
その中には人々が共同生活を送るキャンプヒルというコミュニティも営まれている。
エコビレッジにもさまざまなタイプがあるが、
シュタイナーのような思想的に寄り添える柱を持っていることは、
人々を結びつける重要な鍵となるのではないか?
そんな想いもあって、今回は、ひびきの村に住む皆さんに話をうかがうことにした。

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植物に手紙を書くと返事がくる…!?

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4週間じっくり植物と向き合うプログラム

現在は、施設の運営に関わるスタッフ3家族がここに住んでいる。
最初に話をうかがったのは、カレッジの講師も務める関 倫尚さん、麻依子さんご夫妻だ。
この村の中心的活動であるミカエルカレッジでは、どんな学びが行われているのだろう? 
「ひびきの村はルドルフ・シュタイナーの哲学が学べる、
日本で唯一の全日制のカレッジです。1年の通年コースがあって、
自分を知る、世界を知るというふたつをテーマにしています」
その内容は講義だけでなく、シュタイナー独特のパフォーミングアートである
“オイリュトミー”や音楽活動、農作業など多岐にわたる。

〈ひびきの村〉に住む皆さん。左から関 麻依子さん、北原薫子さん、稲尾いづみさんと娘の吹草ちゃん、関 倫尚さん。

なかでも、特に前期で力を入れたものに「ゲーテの自然観察」という
4週間のプログラムがある。
受講者それぞれが、タンポポやノコギリソウなど、ひとつ植物を選び、
その植物について徹底的に観察するという取り組みだ。
「植物を見てキレイだなで終わるのではなく、
茎の長さを測ったり、葉や花びらの枚数を数えたり。
1週目は科学者になったつもりで、客観的な事実をひたすら観察していく」
2週目になると、今度はリズムがテーマとなる。
植物がどのようなリズムで葉をつけていくのか、
またなぜ美しいと思うのかを黄金率と比べるなどして、検証をしていく。
そして、3週目には、「植物に手紙を書く」のだそうだ。
えっ、植物に手紙? 
なんだか不思議なアプローチにも思えるが、2週間ずっと観察し続けていると、
ほかの人が気づかないようなことまでわかるようになり、
「すごく深い関係になっている」のだという。
そしていよいよ最終段階。
4週目に入ると、今度は植物から「手紙が返ってくる」そうだ。
手紙を書き、返事が返る??
にわかには信じられない話ではあるが、同じ植物と、そんなに長い間、
向き合い続けたことのないわたしには、その意味を本当に理解することは難しい。
けれども、たぶんそれは芸術家が、あるときどこからともなく
インスピレーションを受ける、そんな感覚に近いのではないかなと思う。

「例えば観察がまだ足りない段階で、
自分のなかから何か出てきたものがあったとしても、
それは自分の癖のようなものでしかないと思います。
ただ、4週間、ずっと同じ植物に向き合い続けていると、
辞書などには出ていない、植物が持っている本質みたいなものが見えてくる。
それが世界を見るということ。ひとつの花の中にも、
宇宙の叡智がつまっている」と倫尚さん。

こうしたインスピレーションを、受講者はさまざまなかたちで表現する。
それは絵であったりインスタレーションアートであったり、多様なのだという。

現在、通年コースを受講しているのは7名だ。
全国からコース受講のために引っ越してきて、
ひびきの村のシェアハウスで暮らしながら学ぶ人や、
この村からそう遠くはない、シュタイナー学校のある豊浦町から通う人などがおり、
受講動機はさまざまではあるが、
「その中で多いのは、人生経験もあって仕事もしてきたけれど、
何か違う道があるんじゃないか。
そういうキャリアチェンジをしようと思っている人」と倫尚さんは語る。
そのほか、麻依子さんによると、子どもを持ったことにより、
日本の義務教育に疑問を抱き、
「もっと何かできることがあるのではないか」と、
シュタイナー教育に目を向ける人もいるそうだ。

敷地内には四季折々の果樹もある。ブルーベリーがちょうど食べ頃。

空が広く、その日、その日で違う景色を見せてくれるひびきの村。
喧噪のない世界で、じっくりと学びを深め、そして暮らしを営むなんて!
これほどすばらしい環境はほかにはないだろうなぁ。
こうした営みを十数年と続けているひびきの村は、運営もきっと盤石なのだろうと、
わたしはこれまで勝手に思い込んでいた。
だが、現実はそうではなく、なんと2年前に、
この村が閉鎖の危機に陥ったことがあったという。

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ひびきの村を存続させるために移住

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閉鎖の危機を乗り越えて

ひびきの村は、アメリカのサクラメントでシュタイナーの哲学を教えていた
大村祐子さんが1996年に立ち上げた場だ。
最初は小さな建物を借りてスタートしたが、2000年代に入って現在の場所に移転。
立ち上げからずっと大村さんが中心となって運営が続けられていたが、
2011年に母の介護もあり代表を退くこととなった。
以降、ほかのメンバーによって運営が続けられたが、受講希望者の減少などにより、
このままでは継続は難しいという現実に直面。
そのときひびきの村の運営に中心的に携わっていたのはわずかふたり。
もちろん、講師や受講生のサポートはあったものの、
この広大な敷地を管理するのは並大抵のことではなかったに違いない。

当時の運営代表は閉鎖という決断を迫られたが、この危機に際して、
2013年6月に〈ひびきの村の未来を創る会〉が開かれ、
全国から有志が集まり、新たな体制が検討されることになった。
話し合いは何度か持たれ、村の新しいコアメンバーとなることを決めたのが、
先ほどカレッジの内容を説明してくれた関さんご夫妻と、
2014年から村の代表となった北原薫子さんだった。
話し合いが持たれてから1年経たないうちに、
関さん、北原さんはひびきの村へと移住を決めたという。

関さん夫婦は、この村に移住する前に豊浦町にすでに5年住み、
シュタイナー学校やミカエルカレッジで教えたり、
シュタイナーの哲学を応用した企業研修などを行っていたが、
北原さんは横浜で勤めていたシュタイナー幼児教育施設を辞め、
ご主人も新天地で仕事を探し、その生活を大きく転換させることになった。
「わたしは10年ほど前に、ひびきの村でシュタイナーの学びを2年間体験しました。
その後は直接的な関わりはなく応援をしているような立場だったんです」
それでも、ひびきの村での日々は「自分の根っこ」となっており、
閉鎖という話が持ち上がったときに、「絶対になくしてはならい」という
強い想いがわき上がり、ここに来たのだと語ってくれた。

こうして2014年から新体制でのひびきの村がスタートした。
いま北原さんは、この村でシュタイナー教育に基づいた幼児保育の場、
フォレストベイ・ナーサリースクールを中心に担当し、現在12名の子どもを預かる。
また、倫尚さんはオイリュトミーの専門家として、麻依子さんは造形家として
シュタイナーの哲学を伝える講義や実践を村の内外で行っている。
「わたしが代表とはなっていますが、お互いが対等な関係です。
運営については、話し合いによって決めることで、
ひとりの決断以上の力が発揮できたらと。
試行錯誤しながらやっているところです」と北原さん。
これまでは代表が村の方針を決めていたが、新体制では運営に関わる人々が
全員で協議を行い、個の隔たりを超えていく試みを始めているそうだ。

フォレストベイ・ナーサリースクールの内部。シュタイナー教育に基づいてつくられた部屋は、やわらかな光に包まれ心安らぐ。

おもちゃは自然素材からつくられている。草木染の羊毛は温かさにあふれている。

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野菜づくりをするお菓子屋さん

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“温かな世界”を実現できる場所

そしてもう1家族、稲尾教彦さん家族が、はるばる長崎から、今年の5月にやってきた。
ひびきの村に欠くことのできない要素である、ファームの維持をするためだ。
シュタイナーの農法として知られ、農薬や化学肥料を使わず、
太陽や月の動きなど、宇宙のリズムが植物に与える影響も考えられた
〈バイオダイナミック農法〉を行うファームは、食糧を自給するだけでなく、
カレッジの学びの実践の場としても重要だ。
稲尾さんは、詩人であり〈菓子美呆(かしみほう)〉という
お菓子屋さんの店主でもあり、数年間、自然農を学んだ経験の持ち主でもある。
いま、ひびきの村にお菓子の工房を持ちつつ、シュタイナーの学びに参加し、
ファームで多種多様な野菜づくりを行うという多忙な生活を営んでいる。
「もともと北海道へ移住を希望していたこともあって、
関さん、北原さんに声をかけてもらい、ここに越してきました。
わたしにとってひびきの村は、小さい頃から心の奥底で思っていた“温かな世界”、
それを実現できる場所じゃないかと。だから、自分はここで全力でがんばりたい」

村では、講師や元受講生などの協力をあおぎながら、カレッジとナーサリーを運営し、
夏に行ったサマープログラムには、約1か月で延べ100名ほどが参加した。
並行して、ファームで収穫した花をコスメ会社に出荷したり、
遊歩道の整備や草刈りなども手分けをして行っている。
施設の維持管理だけでも仕事は山積みだが、受講料などの収入だけでは
3家族の暮らしを支えるのは難しいそうで、それぞれ村の外でも仕事をしているという。

ファームを案内してくれた稲尾教彦さん。この村でじゃがいもやトマトなど、さまざまな野菜を育てている。

稲尾さんはお菓子屋さんも営む。この村のメインホールでの販売のほかに全国への発送も。〈常夏ピアノ〉〈縄文クッキー〉などと名づけられたお菓子には、それぞれ詩も添えられている。

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共同生活に大切なこととは

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世界に目を向け、同じ方向に向かって進む

ひびきの村を存続させたい——。そう願う人々が集まり、
それまでまったく接点がなかった3家族が始めた、ひびきの村での共同生活。
「家族でもないし、これまで友だちだったわけでもない。
不思議な縁を感じます」という北原さん。
話を聞いていると、それぞれの役割を尊重し合いながら
運営をしていることがわかってくるが、それでもやはり毎日顔を合わせるなかで、
意見がぶつかったりすることもあるのではないだろうか。

ついつい、共同生活は大変なのでは?
意見が合わないときはどうする? そんな質問を投げかけてみた。
「知らない人が集まって暮らすという、
一見あり得ないようなシチュエーションですが、それがまたおもしろい(笑)。
柱にシュタイナーの思想があるから、ものの見方や人間観に共通するものがある。
そういう信頼関係があるし、違う意見もあることが大切だと思っています」(倫尚さん)
「運営はひとりひとりがしっかりリーダーシップを持ちつつも、
協力し合うことが大切。ひとりで無理をしすぎると倒れてしまいます。
助け合わないと続けるのは難しいと思います」(麻依子さん)
「何か問題が起きたら、解決していくしかない。
もちろん意見が合わない部分もありますが、自分のためとか相手のためではなく、
世界に向けて何ができるのかという視点に立ちたいと思っています」(北原さん)

カレッジの運営だけでなく、ファームで採れた花、カレンジュラをオーガニックコスメの会社に出荷するのも仕事のひとつ。スタッフ総出で花摘みを行い、手作業で花びらを取っていく。

自分たちや相手のためではなく、
「世界へ目を向けて」、ともに同じ方向に向かって進む。
北原さんの言葉で頭に思い浮かんできたのは、自分の家庭のことだった。
エコビレッジをつくりたいと言っておきながら、家の中は紛争が絶えない。
毎日の生活では、ついついわたしと夫、わたしと子どもという関係の中で、
「理解できない部分」を感じて、行き詰まったりすることもあるけれど、
そういうことを超えて、一緒に手をつないで“同じ方向に向かって進む”。
そうね、そんなふうに視点を変える必要が、きっとあるんだなあ。

ただし……、言うは易し、行うは難しである。
「頭ではわかっていても現実はね」と、ふだんならここであきらめてしまうのだが、
今回の旅では、自分の心に変化が起こるような、
そんな兆しを感じる体験をすることができた。

それは、旅のもうひとつの目的であった、
〈いずみの学校〉のサマースクールに参加したことだ。
いずみの学校とは、豊浦町にある幼年~高校まであるシュタイナー教育を実践する学校。
ふだんは子どもの教育を行っているが、サマースクールでは、
大人に向けた教育体験のプログラムが用意されている。
シュタイナーの哲学に触れる機会がようやくやってきたのだ!

……ということで、この講座での体験については、次回の連載で紹介していこうと思う。
この夏の“学びの旅”はまだ続く!

霧に包まれるひびきの村。わたしのエコビレッジ構想も、まだまだ霧の中だけど、がんばろう!

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ひびきの村

住所:北海道伊達市志門気町6-13

TEL:0142-25-6735

ミカエルカレッジ「自然と芸術と人智学のコース」開講中。
*部分受講、体験受講を希望する方を随時若干名受け入れ、2016年度年間受講募集は2015年12月1日(火)から
http://www.hibikinomura.org

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菓子美呆

住所:北海道伊達市志門気町6-6

TEL:0142-82-3882

毎週金曜日頃に地方発送。HPより申し込み可。
http://kashimihou.jimdo.com/

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