連載
posted:2015.11.26 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
さて、今回は、前回紹介した日端義美さんが所有する山での体験について、
続きを書こうと思う。
このところ、日端さんもメンバーとなっている
〈自然エネルギーを考える会〉が企画するワークショップなどに参加して、
山の恵みを生かすことの楽しさにハマっているし、
こうした経験をエコビレッジの暮らしにも生かしていきたいと思っているのだ。
紅葉もそろそろ終わりを迎える頃、自然エネルギーを考える会では、
山でクサギの実を収穫し、草木染を体験する会が開かれた。
クサギとは、葉っぱに独特の臭いがある木で、ちょうどこの時期に青い実をつける。
この青い実をつぶして煮ると、媒染剤を使わなくても
空色に布を染めることができるのだ。
また、赤いガクの部分も、ピンク色の染料となる。
この日は、日端さんの山に朝集合し、大人から子どもまで20名くらいで、
クサギの実とガクをひとつひとつ枝から摘み取っていった。
この日は、クサギだけでなく、秋の味覚があちこちに見つかった。
日端さんが、「こっちに山ぶどうがあるぞー」と声をかけてくれて、
子どもたちに実を分けてくれた。
山ぶどうはジュースなどの加工用で、生では渋くて食べられないとばかり思っていたが、
ジューシーで甘酸っぱくて、おいしいのには驚いた。
酸っぱいものには手を出さない1歳半の娘も、
種を口から一生懸命出しながら、モリモリ食べている。
北海道に移住してから知ったことだが、木になったまま完熟したフルーツは格別だ。
特にブルーベリーやプルーンは、生だとちょっと青臭くて渋いものだと思っていたが、
熟れた実はまろやかで甘みが口いっぱいに広がるのだ。
この山ぶどうも、太陽の光を浴びてゆっくり甘くなった、
そんな豊かな風味を持っていた。
そして、もうひとつ、見かけは山ぶどうと同じ黒い実を、
「食べてみて」と日端さんが渡してくれた。
こちらはキハダ。キハダは、草木染の染料にしたり、
漢方薬に用いられたりしており、みかんの皮を濃縮したような
渋くてすっぱい(でも、嫌な味わいじゃないのが不思議)ものだった。
日端さんによると、アイヌ民族が酸味を生かして香辛料として使っていたという。
こうやってひとつひとつ味を確認してみるのも、山の楽しみだということが実感できた。
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午後はキッチンのある場所に会場を移し、
収穫したクサギの実とガクとを選り分ける作業に入る。
最初はおしゃべりをしながらの作業であったが、
その量の多さに、だんだん口数も少なく。
ようやく実とガクとを選別できたら、これを煮出して染料をつくっていくのだ。
そのほか、クリの渋皮やキハダなども持ち寄り、さまざまな色の染料ができあがった。
自然エネルギーを考える会では、そのほかにも、
羊の毛を洗浄して羊毛フェルトや毛糸をつくったり、
太陽光によるエコクッキングのワークショップを開催したりと、
さまざまな取り組みをしてきた。
また、日頃から、日端さんの山の手入れをサポートし、
木の実や山菜の収穫なども行っている。
前回も紹介したように、この会のみなさんと一緒に収穫したアロニアという実は、
ある人は大根の漬け物に混ぜて赤い色づけに使ったり、ある人はジャムにしたり。
日端さんは、絞って30パーセントの砂糖を加えて煮立たせジュースにしているそうだ。
教えてもらってレシピで、わたしもジュースをつくってみようと思い、
家に持ち帰って実を絞ってみたが、なんだかあまりうまく果汁がとれないし、
すごく時間がかかりそうだしということで断念。
アロニアレシピをネットで検索してみたが、
アクを抜くために解凍を2度繰り返してからジャムにするとか、
何度も煮返すとか、いずれも結構大変そう。
のんびりやっていると、「そんなことをやる前に自分の机を掃除しろ!」
という夫の無言のプレッシャーがかってきそうなので、
手早くできる方法として酵素ドリンクにすることをひらめいた。
酵素ドリンクは、果実や野菜などの材料1に対し、
1.1の白砂糖を加えて毎日まぜながら発酵させるというものだ。
寒くて発酵には時間がかかったが、2週間ほどで完成!
絞ったときはあまり果汁が出なかったが、シロップにしてみたら、
かなりたくさんエキスが出てきた。
おそるおそる飲んでみると、渋さはまったくなく、ぶどうのような甘みがし、
色もピンクで美しい!(夫は、赤いかき氷シロップの味がすると言っていた……)
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日端さんの山を訪ねたのは秋の2か月ほどだったが、
すっかりその魅力の虜になってしまった。
もともと、草木を育てるのが好きで、東京にいたときも
部屋やベランダでいろいろチャレンジしていたこともある。
ちょっと変わった植物が多くて、苔やシダ、ミズナラやモミジの木、
そして鉢を大きくしすぎて、ソテツが畳一畳ほどの場所を占めてしまったことも。
そうした植物の育っていく過程を見るのは本当に心が落ちつくときだった。
日端さんの山でも、木々の様子を眺めているだけで、心が開放されていく。
山で毎日、植物が育っていく様子を観察できたらと思うだけで、
気持ちがウキウキしてしまうのだ。
エコビレッジをつくるなら、インフラの整っている
限界集落などの空き家がいいのではないか?
と、先輩からのアドバイスもあり、そのほうがいいような気もしているが、
日端さんと出会って、山という場所に自分が大きな憧れを持っていたことに、
あらためて気づかされた(もちろん、山に近い限界集落というのもあるよね)。
いまのわたしにとって、山に家を建てて住むというのは、
かなりハードルは高いけれど、別のところに住まいがあって、
日端さんのように日参して楽しむのもありなんじゃないか?
そんなふうに柔軟に考えてみようと思った。
山に住むハードルを高くしているのは、これからやってくる雪のことが大きい。
わたしの住む岩見沢は、北海道有数の豪雪地帯で、
繁華街にわりと近いわが家でも、除雪はかなりの重労働(夫に任せっぱなしだけど)。
山に住んだとして、この大雪のなか、道路までの道を除雪し、
市街地まで車で降りてくることができるのか、そこがなんともわからない部分といえる。
市街地から離れたレストランやカフェは、冬は休業するところも多いし、
そう考えると、夏は山で暮らし、冬は里に降りるなんていう生活から始めて、
徐々に山に慣れていって、いずれ定住してもいいかもしれない。
いよいよ北海道は本格的な冬が到来する。
雪のなかでどうやったら生きていけるのか、
この冬、じっくり向き合って、山での暮らしについてあらためて考えてみよう。
そして、まだ、道路が雪で覆われていないうちに、
もう少し山の土地探しをがんばらないとね!
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