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連載

それぞれの山ライフ実現に向けて
山を共同購入へ!

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.009

posted:2015.12.10   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

心強い仲間がいるから夢がかたちになっていく

エコビレッジをつくりたいと、北海道で始めた土地探しも半年が経とうとしているが、
実は……、とてもすてきな山の土地を見つけた。
小高い丘へのぼると、田園と山々のつらなりが見渡せる。
まるで『アルプスの少女ハイジ』のあの山の風景のようなのだ!
そしていま、地主さんと土地購入に向けての交渉を始めている。
地主さんに土地のお話をうかがっていると、とても愛着があるようで、
不動産屋を通じた売買とは違う、人と人との信頼関係が何より大切だと感じている。
土地購入の交渉の話については、おいおい書きたいと思うが
(いまは大事なときなので、リポートを楽しみに待っていてください!)
今回は、いままであまり語れなかった、
ともに夢を実現しようとしている友人のことを書いてみたい。

エコビレッジがかたちになるかもしれない、そんな実感があるのは、
この連載の第1回で紹介した、農家の林 宏さんの存在がなにより大きい。
山を買いたい仲間・山トモで、ハイジの丘(仮称ですが……)も一緒に見に行き、
お互いとても気に入った。
「一緒に購入できたら、いいですねぇ」
ということで、いま地主さんとの交渉にもふたりで出かけている。
ニコニコ笑顔を浮かべつつ、聞きたいところはズバッと質問してくれるし、
地主さんとの会話の内容も、林さんがいてくれるので全貌がつかめるといった感じだ。
地主さんも農家だったこともあり、林さんと共通の知り合いがいるようだし、
そもそも土地の大きさを、反(たん)とか、町(ちょう)という単位で話す時点で
わたしにはちょっと辛い。
ちなみに、林さんは新規就農者で、以前は北海道新聞の記者だったこともあり、
コロカルの原稿が書けないと悩んでいると、一緒にネタまで探してくれるのだ。

左が林 宏さん。右が妻の睦子さんと息子さん。林さんが北海道新聞の記者を辞めて新規就農したのは2005年。自分の仕事は自分でつくりたい、仕事も自給自足したいと農家を始めた。

林さんが山を買いたい理由は、しいたけを栽培したり、
木の実や山菜を採って自給自足的な暮らしを推し進めたいと思っているからだ。
いま、岩見沢の栗沢町に農地を持っていて、小松菜やほうれん草を主に栽培しているが、
自家用の小麦をつくるなど、少しずつ食糧の自給についても進めている。
また、太陽光発電にも取り組んでいて、オフグリッドという考えに共鳴している。
オフグリッドとは、狭い意味では、電力会社の送電網を使わない
ということになるが、林さんはこれを広く捉え、
自分たちとは別の論理で動いている経済や社会のシステムとの関係を、
できるかぎりオフにしていこうという気持ちを持っている。

そして、林さんの妻・睦子さんも、山でやってみたいことがある。
それは山の自然を満喫し、そこで生きる知恵を学んでいくような“学校”、
あるいは〈森のようちえん〉のような取り組みをしたいと考えているのだ。
睦子さんは、こうした夢を実現させようと、すでに一歩を踏み出していて、
今年は岩見沢市街にある公園でプレーパークを開催してきた。
プレーパークとは、大人ができるだけ介入せずに、
子どもの自主性を尊重し、自らの責任で遊ぶ場だ。
わたしもこの活動のお手伝いをしていて、
泥んこになってはしゃぐ子どもたちの姿を見ていると、
普段の遊びとは違う可能性を感じていた。
しかし、公園での開催だけでなく、岩見沢は車を30分ほど走らせれば、
山の自然が満喫できる場所もあることから、
こうした場を生かさない手はないのではないかと睦子さんは考えるようになった。
彼女のプランは、山に自らが住み、そこに子どもたちがやって来て、
暮らしと遊びとが密接に結びつく場をつくっていきたいというものだ。

ただし、わが家と同じように夫婦の思惑は重なるようでいて違っている。
夫である林さんとしては、
「畑があるからベースを移すのは難しいなぁ、冬だけなら住めるかなぁ」と、
ソフトな感じで困っている様子だった(わが家もしかり、妻が暴走するタイプ?)。

睦子さんが行ってきた岩見沢プレーパークの様子。子どもも大人もみんなで泥んこになって遊ぶ。

「ケガとお弁当は自分持ち」というのがプレーパークの精神。遊び場には子どもたちへのメッセージも掲げておく。

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またしても強力な助っ人が…!

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家を建てるのに10年かかる??

わたしはエコビレッジをつくりたい。
林さんは山の恵みを暮らしに生かしたい。
妻の睦子さんは、森のようちえんのような場がつくりたい。
みんなそれぞれ方向は違うが、違うからこそ多様な場になっておもしろそう!
例えば、山で自給のための畑をつくるときには、
農家の林さんの知恵が生かされそうだし、
山で採れたものを販売すれば収入の足しにもなりそう。
また、睦子さんの考えている、新たな子どもたちの学びの場ができたら、
地域の役にも立てるかもしれない。
わたしの仕事の関係で、岩見沢にちょくちょく遊びに来てくれる
アーティストや映画監督、デザイナー、カメラマンなどが、
集まった子どもたちと一緒に、ワークショップをやったりしても楽しそうだ。
役者が揃っているなあと、構想を考えているだけでも楽しくなった。

しかし……、問題はまだある。
ハイジの丘にはインフラはある程度整っているが、家を建てる必要がある。
「冬場も耐えられる家を建てて、まわりを整備するには、10年はかかるぞ!」
と夫の発言。
えっ、10年って長過ぎやしない?
わたしは土地購入の話がまとまりそうだったら、
家はまず1年くらいでなんとかしたかったんだけど……と心の中で叫んだが、
夫に頼んだら本当に10年かかるかもしれない。
大工の技術はなかなかだが、手がとにかく遅いのだ。
いま住んでいる家の棚をつけるだけで1年かかった。
わたしとしては、ノリで! さっさと動いてしまいたいのだが……。

そんなとき、またしても友人からの心強い提案があった。
前回の連載で紹介した山の達人・日端義美さんが、
岩見沢市で地域活性化を目指すNPO法人〈M38〉の代表を務める
菅原新さんを紹介してくれたのだ。
「山を買うなら、準備段階から地域のNPOや行政を巻き込んでいったほうがいいよ」
とアドバイスをくれた日端さん。

ハイジの丘があるのは、岩見沢の東部丘陵地域と呼ばれる場所だ。
ここは、かつては炭鉱で栄え1万人を超す人口があったが、
閉山後にぎわいは消え、現在は1000人を割り込んでいる。
もともと菅原さんは岩見沢の市街地に住んでいたが、この地域に移住し、
いま消防団などにも参加し地元と密接に関わりながら、
この地が抱える人口減少や空き家増加などの問題に取り組んでいる。

東部丘陵地域には、美流渡(みると)、毛陽(もうよう)、万字(まんじ)といった地域がある。昔ながらの里山のような風景が広がる。11月下旬になって雪が積もり始めた。

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山に住むための家はどうする?

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ひとまず、わたしと林夫妻がやりたいことを菅原さんに伝えると、
おもしろいと意気投合!
特に睦子さんが考えている森のようちえんには、興味津々の様子だった。
というのも、子どものころ、菅原さんの従姉がこの地域に住んでいたそうで、
ときどき一緒に遊んでいたが、山の中で走ると
その早さに追いつけないこともあったという。
「体力ではかなわないし、とにかくすごい奴らだ」
その思い出はずっと心に残っていたそう。
また、特に遊具などが整備されていなくても、
子どもたちは自然の中でさまざまな発見をしながら遊ぶことができるものだ。
そうした遊びの大切さも感じ、2年前に移住を決断したのだという。

中央が菅原新さん。近隣の地図を見ながら話を進める。美流渡地域の地域おこし協力隊の吉崎祐季さんや地元の新聞『プレス空知』の記者、末永直樹さんもかけつけてくれた。

林夫妻も、菅原さんと夢を語り合いながら、さまざまな可能性を探る。

菅原さんによると、もし、エコビレッジなどをつくる計画があるなら、
地域のみなさんとの橋渡しをしてくれるという。
なんともありがたい話だ。
ただ、まだまだ乗り越えなければならない課題も多いので、
「山に住むためには、家を建てなくちゃならないし、
冬の雪をどうするかも考えなくちゃならない。
もし、山の近くに空き家があったら、まずそこに移り住んで、
徐々に整備していく方法もあるんじゃないかと思っています」
そんな話を菅原さんにしてみたところ……。
「空き家ですか? 空き家ありますよ」
えっ、あるんですか?

ああ、北海道ってすばらしい。
こんなにすぐに空き家が見つかるなんて、
東京で生まれ育ったわたしには考えられないことだ。
「あの、見に行ってもいいですか?」
「もちろん」と笑顔の菅原さん。

菅原さんのNPOでは、いまこの地域の空き家の情報を集約しようと取り組んでいる。
炭鉱街の土地というのは、誰かから誰かが借りて、
それをまた誰かが借りるということを繰り返してきたそうで、
所有者が明確でないところも多く、ほかの地域から移住を希望する人がいても、
なかなか物件を紹介することができないのだという。
菅原さんは、土地の所有者を明確にしていこうと地道な調査を続け、
所有者が見つかれば空き家の権利をNPOに移してもらい、
それらを移住希望者へと紹介していきたいと考えている。
今回紹介してくれた空き家は、その構想が初めて実現したもので、
NPOが管理する物件なのだそう。

夫よ……家を建てるのに10年かかるというなら、わたしにだって考えがある。
山の土地購入の話は進めるとして、まずはこの空き家を足がかりにして
エコビレッジ計画を始めちゃおうか?
村にはならないけれど、ゲストハウスやシェアハウスなら、すぐにもできそうな予感!
ということで、次回はこの空き家の話をお届けします。

今年は雪の訪れが遅かった岩見沢。けれど、やはり雪がどーんと降ってきた。これから5か月間、長い雪の季節が始まる。

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