連載
posted:2017.11.29 from:静岡県下田市 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ5年目へ。
今回から舞台をイエノミからソトノミに移し、
”酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
photographer profile
Tetsuya Ito
伊藤徹也
いとう・てつや●1968年生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業後、フォトグラファーに。雑誌媒体を中心に活動し、ポートレートから建築までジャンルを問わずに撮影している。2014年には、世界各国を旅した軌跡を集めた写真展「NORTH,SOUTH,EAST and WEST」を開催。撮影を担当した著書に『酵母パン 宗像堂』(共著、小学館)がある。
地元の人にこよなく愛される酒場はまちの宝もの。
ローカル色豊かなおいしいおつまみや、ご主人とお客さんの雰囲気、店の佇まいなど、
思い出すと心がほんのり温かくなるような店を
“酒場LOVE”な案内人の方々に教えてもらいました。
旅先のソトノミガイドとしてもご活用ください。
第1回 大阪〈天満酒蔵〉
熱海から伊東、伊豆高原を経て、伊豆大島を眺めながらさらに南へ。
美しい東伊豆の海岸線に沿っていくつものトンネルを潜り抜け、
標高約180メートルのかわいい“下田富士”が見えれば、終点・伊豆急下田駅に到着です。
きょうの案内人は、津留崎鎮生(しずお)さんと、
コロカルでも活躍するフォトグラファーの徹花(てつか)さん夫妻。
ふたりはこの4月に生まれ育った東京から下田に移住してきたばかり。
その暮らしぶりは夫妻交互に綴られる連載記事でわかってはいたものの
新しいホームタウン・下田で会うのはきょうが初めてです。
下田といえば、南伊豆を代表する観光と漁業のまちですが、
津留崎夫妻の連載ではいわゆる定番の観光名所は出てきません。
そのかわり暮らしのなかのワンシーンに映り込んだ、
海や山のなにげない風景が驚くほど美しく、
下田というまちの豊かさが自然と伝わってくるのです。
ふたりがお気に入りのローカル酒場〈まとい〉も、
伊豆急下田駅のすぐ近くとはいっても国道沿いで、
観光客がそぞろ歩くエリアとは逆方向。
こんなところに酒場が? と思う地味なロケーションや、
そっけないようで、どこか粋な店構えは、
いかにも酒好き夫婦が行きつけにしそうな気配が漂っています。
もともとリゾートホテルより、民宿に泊まって、
地元の人と交流するのが好きだという津留崎夫妻。
移住先を探す旅や移住後の生活でも頼りになったのは、
行く先々で縁あって出会った人から得た情報でした。
「この店を訪れたのも、こども園のパパ友からの情報がきっかけで、
奇をてらわない料理をおいしく食べさせる、
酒好きの人じゃないと知らない店だよと教えてくれて」(鎮生さん)
「どんな店だろうとふたりで来てみたら、
“お父さん”がいきなり、このカツオの刺身、食うかって。
それがとてつもなくおいしくて驚いたんだよね」(徹花さん)
きょうも何を頼もうかと迷ってはみたものの
やはりご主人おすすめのものがいいと、おまかせすることに。
「ウチはありきたりのものしかないけどいいの?」と言いつつも
ご主人は丸のままのカツオを鮮やかにさばき始めます。
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〈まとい〉が開店したのは42年前。
ご主人は15の頃からホテルや料理屋で修業を重ね、
独立するなら地元のお客さん相手に料理をつくりたいと、
あえて人通りの少ない静かな場所を選んだそうです。
「単に冒険をしたくなかっただけというか、
早くに結婚して子どももいたので、夫婦ふたりの小さな店で、
落ち着いて仕事をしたかった。
下田の蓮台寺が地元で実家も魚屋、職場も下田が長いから、
このあたりの魚ならよくわかっているという自負もあったんだ。
ただ下田の人は家でも新鮮な魚を食べ慣れているからね。
ヘタなものは絶対に出せないし、値づけだって気をつかうよ」
それは下田を代表する魚、金目鯛でも同じ。
いまの〈まとい〉は金目鯛をお品書きからはずしているのです。
「朝早くに近場で釣り上げて、昼前には市場に出る下田の地金目は本当においしいよ。
皮までトロリと脂がのって、全然骨っぽくないし臭みもない。
遠洋でとれる沖金目と違って小顔だから、
地元の人なら見ただけですぐわかるんじゃないかな」
でも、いくらおいしいからといっても、
漁獲量が減って約3倍も値上がりした地金目を
自分のお客さんにはすすめられないと、ご主人はきっぱり。
「地球温暖化、水温の上昇や黒潮の蛇行の影響かな。
地金目や冬らしい魚が無理なら、いま食べておいしい別の魚を探せばいい。
少々季節感が狂っても、お客さんに安心して食べてもらいたいね」
きょうも、初夏が旬のはずの小アジやイサキ、
いままで下田ではとれなかったマグロがスタンバイ。
もちろんどれも自信を持って選んだものばかりです。
「魚の種類が変わるなんて、開店した頃は考えたこともなかった。
住み慣れたまちでもこんな思わぬことが起こるんだから
知らない土地で新しい生活を始めたふたりは偉いと思うよ」
東京から下田は約200キロ。
列車でも片道3時間余りという距離を、徹花さんは撮影があるたびに通い、
空路で出張だと羽田に前泊することも多いとか。
ふたりが下田に住み始めて早9か月。
そろそろ疲れが溜まる頃ではと気になりましたが、
きょうの彼女はとてもくつろいだ様子。
ここが下田で、鎮生さんが一緒なのはもちろん、
冗談好きなご主人との掛け合いや地魚料理とおいしいお酒、
“お母さん”と呼ぶトミ子さんとのおしゃべりなど
〈まとい〉にいること自体を心から楽しんでいるようです。
「魚のおいしさにまず衝撃を受けたのだけれど
“お父さん”の料理はおそらく素材の良さだけじゃないんです。
カメラを覗くとわかるけど、刺身のツマなど本当に細かいところまで美しい。
それに胡麻和えのようなちょっとしたつまみもキチンとおいしい。
おいしすぎて弟子入りしたくなるくらい。
きっと私たちからは見えないところで職人肌の仕事をしているんですよね。
それを40年以上続けていることがすごいと思います」(徹花さん)
「ここをすすめてくれた常連さんが、
本当は人に教えたくないと言っていた意味がいまならよくわかります。
ここは地元の人がずっと大切にしてきた酒場なんですね」(鎮生さん)
そういえば、〈まとい〉歴35年という常連の方はこう言っていました。
旅先でどんなにおいしくて珍しいものを食べてきても
伊豆急下田駅に着いたらその足で〈まとい〉を覗く。
カウンターに座って、オヤジの料理を食べてそれでようやくホッとする。
下田に戻ってきた、下田の魚はやっぱりいいと思うんだそうです。
津留崎夫妻にとっても、〈まとい〉はそういう存在になるのでしょうか。
いやもうすでに、それに近い状態になっているのかもしれません。
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全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」の炭酸割りは、
下田〈まとい〉でもおすすめしている新しい飲み方。
津留崎徹花さんも、香りが華やかですいすい飲めるとお気に入り。
一般的な芋焼酎だと「米麹」を使いますが、
“全量芋焼酎”の「一刻者」は南九州産のさつまいもと良質な「芋麹」だけの芋100%。
米麹由来の雑味がなく、芋本来の甘い香りと、すっきり上品な味わいなので、
下田のおいしいカツオの刺身や小鯵の唐揚げにもよく合いますよ。
information
まとい
住所:静岡県下田市東本郷1-19-23
TEL:0558-23-3707
営業時間:17:00(夏期17:30)~22:00目安
定休日:日曜日
アクセス:伊豆急下田駅から徒歩約5分
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