連載
posted:2017.12.28 from:山形県天童市 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ5年目へ。
今回から舞台をイエノミからソトノミに移し、
”酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
photographer profile
Isao Negishi
根岸 功
ねぎし・いさお●フォトグラファー。
長野県長野市生まれ。都内制作会社勤務後、2016年山形の土地柄に惹かれ移住し、独立。
山形を拠点に東北でコマーシャルフォトを中心に活動中。撮影の合間に登山やアウトドアを満喫しています。
https://www.isaonegishi.com/
地元の人にこよなく愛される酒場はまちの宝もの。
ローカル色豊かなおいしいおつまみや、ご主人とお客さんの雰囲気、店の佇まいなど、
思い出すと心がほんのり温かくなるような店を
“酒場LOVE”な案内人の方々に教えてもらいました。
旅先のソトノミガイドとしてもご活用ください。
山形県天童市は美しい姿の舞鶴山の麓に広がる、
織田信長の末裔が治めた天童織田藩の小さな城下町です。
将棋の駒づくりも下級武士の内職として始まったとか。
約100万セットが出荷された最盛期には及ばないものの、
いまでも国内生産の9割以上を占めており、
藤井聡太四段の活躍や、羽生善治竜王の永世七冠達成でいま再び将棋ブームの追い風が!
明治10年創業の高級駒製造元〈中島清吉商店〉でも、
一時は在庫がすべて売り切れてしまったそうです。
40枚ワンセットの駒を手彫りするには根気と集中力が必要。「木地師(きじし)」「書き師」「彫り師」「盛り上げ師」などの職人さんは70代が中心。「お客さまをお待たせするのは心苦しいのですが」と4代目店主の中島正晴さん。伝統的工芸品でもある手づくりの駒はすぐに量産できるものではないのです。
こちらは御蔵島産の柘植(つげ)を使った最高級品でお値段は60万円。木目の美しさにも注目を。安土桃山時代から時の権力者に愛されてきた書体・水無瀬(みなせ)を漆で盛り上げた“盛り上げ駒”は、まさに小さな芸術品です。
今回の案内人、イラストレーターの青山タルトさんも、
“中島さんち”のすぐ近所で漆の香りに包まれて育ちました。
「私が幼い頃は、道端のあちこちで駒を乾かす光景が見られ、
いかにも将棋の里らしい風情がありましたね。
ウチは和菓子屋だったので、アイデアマンの父が考えた
〈将棋もろこし(将棋の駒の形をした落雁のようなお菓子)〉が
評判になったのも懐かしい思い出です」
それだけに、職人の高齢化が進む「将棋の里」に、
とりあえず活気が戻ったのは素直にうれしいと、青山さん。
できればこの機会に天童をもっと知ってもらえればと思うそうです。
そこで紹介してくれたのが、きょうのローカル酒場〈宝〉。
昼間だと通り過ぎてしまうほどさりげない店構えですが、
青山さんがずっと気になっていた地元で噂の人気店です。
東京在住の青山さん(左)が〈宝〉に呼んだのは、お店の常連で弟の親友・今村勝廣さん(右)。今村さんは仲間で神輿の会を立ち上げ、3年越しの交渉で建勲神社(祭神は織田信長公)への奉納にこぎつけた「熱い男」。青山さんとは昔からの仲で、地元ネタにも詳しい頼れる助っ人ですが、ふたりで飲むのはきょうが初めて。まずは再会を祝してスパークリング清酒で乾杯。メニュー選びに迷う青山さんに「ここに来たら魚を頼まなきゃ」と今村さんがさっそくアドバイス。
小雪が舞う外の通りには人影が見当たらないのに、
〈宝〉に一歩入ると50人は入るという奥の宴会場まで満杯。
人は多くてもなごやかで、和気藹々という言葉がぴったりです。
「僕も飲み会の日程が決まると、まずは〈宝〉に電話をかける。
子どもの親同士やクラス会、神輿の会、どんな集まりでもね。
予約が取れればみんな大喜び、ラッキーという感じ。
ふらりと寄りたくても早い時間はほぼ満席。
一度座ると居心地が良いから席がなかなか空かないし。
地元の僕でも行きたいのになかなか行けない店なんです」(今村さん)
「噂には聞いていたけどこの賑わいは想像以上。
お客さんがみんな笑顔なのもいいわね。
私は地元で飲む機会がないので、わくわくします。
それにしても、こんなに人気があるのはなぜ?」(青山さん)
料理が来ればわかるからと、今村さんは余裕の表情です。
最初に登場したのは本マグロのネギトロとあん肝でどちらも650円。あん肝には山形県民偏愛の食用菊、通称“もって菊”がさりげなく添えられています。「菊は見るものではなく食べるもの」とふたりが口を揃えるように、しゃっきり繊細な食感がたまりません。
今村さんイチオシの刺身盛合せはこのボリュームで1人前650円。きょうは本マグロ、サーモン、黒ソイの昆布締め、タコ、シメサバ、ヒラメのエンガワというラインナップ。ちなみに突き出しは、村山地方(山形市、天童市など)を代表する漬物・青菜(せいさい)漬けを塩抜きして炒め煮した、くきな煮。ふたりにはおなじみの家庭料理です。
青山さんのこの表情!
喜ぶ青山さんを見て満足気な今村さん。お目当ての刺身と一緒に焼酎ロックも進みます。
「天童は内陸でも温泉街があるので
いい魚や食材が市場に集まると聞いてはいたけれど、
ここはおいしいだけじゃなくて、とても良心的なのね」(青山さん)
「まだ先代のオヤジさんが元気だった頃、
飲み放題コースなのに500円返してくれたことがあったんだよ。
もともとの値段自体が十分安いのに、そんなにもらうほど飲んでないだろうと言って。
いまの大将もオヤジさんのやり方をそばで見てきたから、
できるだけいいものを安く出したいとがんばっている。
地元の客はそれをちゃんとわかっていると思いますよ」(今村さん)
ご主人の細谷敏也さんは天童の西隣にある寒河江市出身。〈宝〉は約40年前にお父さんが始めた店で、店名は出身地区名から。約70席が予約で連日埋まると毎朝の仕入れや仕込みも大変そうですが「仕入れの前に〈ゆぴあ〉(市内の温泉施設)に寄ることもありますよ」。どうりで敏也さんの肌はツヤツヤ。天童は県内でも降雪量が少なく、人柄も“開けている”ので、住み心地も上々だそうです。
山形県民のソウルフードとも呼べる芋煮は、
里芋と天然キノコがおいしい“芋煮シーズン”の秋だけ。
その代わりに夏には隣町・河北町の名物冷たい肉そばや、
おいしいと評判の地元産枝豆を。
寒さが厳しい時期は、庄内地方のどんがら汁を熱々でいただきます。
ご主人から料理の説明を聞いていると、
お客さんがいま求めているものを提供したいという強い思いを感じます。
「それはやはりオヤジの影響でしょう。
一緒に板場に立っていたときはわからなかったけど、
厳しく仕込まれたことが、全部あとで役に立っている。
やはりオヤジはすごいなと亡くなってから気がつきました」
5年前に店の敷地を広げたときも、先代と常連さんへの感謝の意を込めて、
カウンター周りはあえて元の店の状態で残しています。
山形名物のだしは冷奴にかける、刺身に添えるなど一年中大活躍。このだしづくりが女将の細谷絵理子さんの担当で、毎日タライ1杯分のナスやキュウリを刻み続けるんだとか。大変な重労働に思えても「主人が包丁を毎晩研いでくれるので大丈夫」。フードプロセッサーは使わないというのがこだわりです。
そしてご主人の料理のいちばんのファンは、女将の絵理子さんかもしれません。
同じ高校出身の人がやっているおいしい店が天童にある。
そう聞いて〈宝〉に行ったのがご主人との出会いのきっかけ。
「まさか自分が居酒屋の女将になるとは。
いま思えば、彼の料理がおいしかったのが結婚の決め手だったのかも。
それは冗談だとしても、やはりお客さまに運ぶ料理が、
間違いなく喜ばれるとわかっているのは安心できますね。
さあ、行ってらっしゃい、という感じです」
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牛肉に替えて、味と食感のいい親鶏の皮で煮込みをつくったらいきなりの大ヒット。いまでは〈宝〉の看板メニューに。コクのある醤油味&鶏はまさに山形県民好み。絵理子さんもこの味目当てで店に通った、思い出深い味。550円。
山形県で唯一海に面した庄内地方の冬の味覚、どんがら汁。寒ダラのアラと肝、白子をダシにした味噌汁。海沿いの酒田市界隈ではよく食べられるが、天童では良いタラがなかなか手に入らないので、これは珍しいと今村さん。550円。
なぜか山形では天ぷらといえばゲソ天。そば屋でもラーメン屋でもゲソ天。「唐揚げのもっと庶民バージョンだと思ってください」(今村さん)。ゲソのイメージが変わるほどプリプリで肉厚。450円。
一方、ふたりはグラス片手に地元ネタで盛り上がり中。
ご主人心尽しの山形的おつまみに刺激されたのか、
それとも気心知れた相手と故郷で飲んでいるせいか、
青山さんの“天童愛”がヒートアップしています。
「人口が6万人余りなのに美術館が3つもある。
天童という地名は舞鶴山に天から童子が舞い降りたという伝説から。
それに、良縁成就のパワースポットとして女性に人気の若松観音も。
おもしろい要素はいろいろとあるのに、それがみんな点と点のまま。
天童のイメージにつながらないのがもどかしいのよ」(青山さん)
「リオ五輪の卓球台で話題になった〈天童木工〉や、
サッカーチーム・モンテディオ山形の本拠地であることもお忘れなく。
昔から天童は宣伝が下手だと言われているからね。
でも最近はがんばっている人も多いからきっと変わると思うよ。
今年の桜まつりは、映画『3月のライオン』とのコラボで、
舞鶴山が観光客でつぶれそうなほど大盛況だったしね」(今村さん)
「大きなイベントがあっても、天童温泉に泊まっても、
ほとんどの人がまちなかは素通りというのが寂しい。
こんなに天童に来て良かったと思える酒場だってあるのに。
もっと山形の食文化の奥深さも知ってもらいたいよね。
夜は〈宝〉に来てもらえばいいとして、あとはどこを回るといいかな」(青山さん)
「ますます予約が取りにくくなるのでその案は保留ということで(笑)」(今村さん)
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「極上〈宝焼酎〉」は時間をかけて熟成させた樽貯蔵熟成酒を、
3%ブレンドしたちょっと贅沢な宝焼酎です。
芳醇でまろやかな味わいをじっくり楽しむなら今村さんのようにロックで。
ほのかな甘みで軽快に飲むなら青山さんのようにソーダ割りで。
天童の〈宝〉でも愛されている極上の宝焼酎は、
どんがら汁や芋煮のような郷土料理とも相性抜群です。
information
宝
住所:山形県天童市東本町2-5-24
TEL:023-654-1002
営業時間:17:00~23:00
定休日:日曜日
アクセス:JR天童駅から徒歩約10分
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