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きょうのイエノミ
旅するイエノミ
「和酒」に込められた意味とは。
〜黒壁蔵編〜

宝酒造 × colocal
和酒を楽しもうプロジェクト
vol.009

posted:2014.8.27   from:宮崎県高鍋町  genre:食・グルメ / ものづくり

sponsored by 宝酒造

〈 この連載・企画は… 〉  伝統を継承するということは、昔のものをそのまま受け継ぐだけではありません。
わたしたちの生活に合うよう工夫しながら、次世代に伝えることが、伝統を守ることにつながります。
酒造りの伝統を守りつつ次世代につなげる宝酒造と、
ローカルな素材を活かしてとっておきのつまみを提案するcolocalのタッグで
「きょうのイエノミ 旅するイエノミ」はじまりはじまり。

editor’s profile

Yayoi Okazaki

岡崎弥生

おかざき・やよい ●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。

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撮影:山口徹花

「黒壁蔵」(宮崎県/高鍋町)に行ってきました。

おいしい「和酒」をつくることで日本の食文化に貢献したい。
昨年夏にお邪魔した「白壁蔵」は、そんな「思い」をかたちにした
高品質の純米酒や吟醸酒中心の「技を伝承する」清酒蔵でした。
では「和酒」のもう一方の雄である焼酎は?
「実はいい蔵があるんです」と宝酒造さん。
それが宮崎県高鍋町にある「黒壁蔵」で
甲類と乙類どちらもつくる日本でも珍しい焼酎専門蔵だとか。
それも宝酒造の焼酎つくりの技術やこだわりが
すべて集約されたような蔵だというのです。
ぜひ行ってみたいとラブコールを送り続けて約1年。
ようやく「黒壁蔵」を訪れることができました。

独自の蒸留技術がありました。

宮崎空港から日向灘沿いに車で北上して約1時間。
カーブをまがると突然現れた真っ黒な建物が「黒壁蔵」です。
「いまは静かですが、8月のお盆過ぎになると賑やかになりますよ」
と出迎えてくれたのは、工場長の大槻達也さん。
南九州産のさつまいもの収穫時期は8月下旬から12月頃まで。
1日あたり数十トンと運び込まれる採れたての生芋を
高鍋のおじちゃんおばちゃんたちが手切りしながら選別し
本格芋焼酎の仕込みで蔵が活気づくそうです。

今回タンクのなかでぶくぶくと発酵していたのは大麦のもろみ。
このもろみは大麦を磨き、水に浸して蒸したものに麹菌や酵母菌をつけたもの。
この光景は、米と麦の違いこそあるけれど
昨年お邪魔した清酒蔵「白壁蔵」とよく似ています。
「醸造酒との違いが出てくるのはこのあと。それが蒸留ですね」
そこで、大槻さんに焼酎のことを教えてもらいました。

単式蒸留機

焼酎とは、穀類を発酵させ蒸留しアルコールを抽出した蒸留酒。
その際、連続式蒸留機で蒸留し雑味を取り除いたものが甲類
単式蒸留機で蒸留し原料由来の風味も多少残したものが乙類と区分されています。
だから、甲類はピュアな味わいでカクテルベースにも最適だし
乙類、つまり本格焼酎は米・麦・芋などの個性が楽しめる。
「でも、そう単純じゃないんです」と大槻さん。
たとえば、単式蒸留も常圧か減圧か、蒸留機のかたちやカーブの違いで
雑味、つまり風味の残り方が全然違ってくる。
また連続式蒸留も、単にピュアなアルコールにするだけじゃない。
何層何本も連なる蒸留機から最適なタイミングで取り出せば
香りや味のいい成分だけが残り、味わい深い焼酎原酒となる。
特に連続式蒸留のこのテクニックは「黒壁蔵」独自のものだとか。
「ウチの甲類焼酎はぜひ味わって飲んでほしいですね」
といいつつ、とっておきの場所に案内してくれたのです。

樽と原酒を見守る人がいました。

そこは樽がずらりと並ぶ巨大な貯蔵庫。
蒸留された焼酎原酒は貯蔵・熟成され、樽の中で刻々と変化していきます。
その原酒を管理する酒類係のひとりが入社36年目という神田 誠さん。
すべてのロットを定期的に試飲して熟成加減を確認するのはもちろん
「樽そのものをちゃーんと見てやらんといい酒にはならんのです」と
膨大な数の樽の状態や環境に細心の注意を払います。

樽用のスポイトでグラスに入れた原酒は
美しい黄金色に輝き、見るからにおいしそう!
「そりゃうまいですよ。でもこれはまだちょっと硬いかな」
いまでは見ただけで原酒の状態がわかる
そんな神田さんのお気に入りは宝焼酎「レジェンド」のお湯割り。
理由は明快、我が子のように常に見守っている
「樽貯蔵熟成酒」がいちばん多くブレンドされた銘柄だから。
すっきりしていながら樽の香りも心地良く
「ああ、ほんとにいい仕事に就けたな」と思えるんだそうです。

実はこの「樽貯蔵熟成酒」の絶妙なブレンド技術こそ
「黒壁蔵」の甲類焼酎をおいしくする秘密。
そんな手間も時間もかかる技術があるとは知らずに
「甲類は没個性」だと思いこんでいた自分を反省。
しかも大槻さんにうかがってみると
これは、戦後、高度経済成長期の「焼酎不遇の時代」に
焼酎復権をめざしての試行錯誤から生まれた技術だとか。
その成果でもある宝焼酎「純」は爆発的な大ヒット商品となり
「純」の黄金比率「樽貯蔵熟成酒13%11種類」は
30年以上のロングセラーとなったいまもきっちり守られているそうです。
あとで試飲させてもらいましたが
熟成加減が異なる原酒はまさにグラデーション状態。
硬質でピュアな味わいから、まろやかで香りもふくよかな印象に
どんどん変わっていくのがわかりました。
このホワイトオークの樽に寝かされた熟成酒が
「黒壁蔵」には約2万樽、約85種類もあるのだから
さまざまなタイプの原酒を組み合わせれば
「味わいの可能性は無限に広がる」という大槻さんの言葉にも納得。
現在発売中の極上<宝焼酎>や宝焼酎「ゴールデン」も「黒壁蔵」から誕生しました。
この貯蔵庫にはまさに「お宝」が眠っているのですね。

和酒の心を受け継ぐ若手がいました。

最後に訪れたのは、大学の実験室のような生産課。
こちらは「黒壁蔵」の、いわば「味と品質の見張り番」で
生産途上の各過程で何度も成分分析と官能検査を行っています。
さまざまな部署のスタッフが次々にやってきて
真剣な表情で香りを嗅ぎ、味を確認する。
きょうは出荷前恒例の官能検査だということですが
毎回、それもみんなで品質を確認すると聞いてびっくり。
科学的に成分を分析し味わいをデータ化していても
「やはり最後に頼れるのは人、人の五感なんです」
生産課長の郷司浩平さんが説明してくれたのが印象的でした。

その官能検査に緊張しながら立ち会っていたのが森田真梨子さん。
大学で分子生物学を学び、この春京都本社から異動してきたばかり。
前の仕事が商品開発だったので「黒壁蔵」が初めての製造現場。
「ここにきてからは毎日ドキドキしています」
いろんな麹に蒸留技術、貯蔵熟成による酒質の変化。
さまざまな要素があるから焼酎つくりはおもしろい。
ただ、そのすべてが味を左右する。
「ごまかしは絶対できない怖さがありますね」
そう森田さんは率直な気持ちを教えてくれましたが
それは「樽貯蔵熟成酒」や独自の技術を受け継ぐ
「黒壁蔵」の若手共通の思いかもしれません。
「開発の視点で技術を語れる人になってくれれば」と
上司の郷司さんが期待するのも、新たな課題があるから。

いま「黒壁蔵」が取り組んでいるのは日本の食事に合う焼酎つくり。
でも海外、特に欧米では蒸留酒を食中酒として楽しむ習慣が少ないとか。
これからは海外でも和食と一緒に「和酒」焼酎を楽しんでほしい。
そのために、焼酎の持つ味わいの可能性をひろげていくのが
「黒壁蔵」ならではの「和酒」のあり方なんだと思いました。

information

黒壁蔵

日向灘を臨む雄大な大自然に恵まれた宮崎県高鍋町にある宝酒造の焼酎専門蔵。100年以上の歴史がある宝酒造の焼酎つくりの技術やこだわりを集約させた蔵だけに、味わいの決め手となる「樽貯蔵熟成酒」も約2万樽、約85種類を保有。日本の食事に合うおいしい焼酎つくりをめざしている。

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