連載
posted:2012.11.17 from:福島県会津若松市・喜多方市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
writer's profile
Michiko Hori
堀 美千子
ほり・みちこ●福島県喜多方市に生まれ、小中学校時代を会津若松市で過ごす。2008年より、再び会津若松市在住。2011年より「会津・漆の芸術祭」ボランティア、カキコ隊に参加。普段は、建築士事務所で事務をしたり、アクセサリーやiPhoneケースをつくったり、日比野克彦さんが中心となっている東日本大震災復興支援プロジェクト「HEART MARK VEIWING」をお手伝いしたり。
会津若松市と喜多方市で開催されている「会津・漆の芸術祭」。
会津に古くから伝わる素材である漆を使って、
福島県内外の作家や職人、学生たちがさまざまな作品を展示。
3回目となるこの芸術祭を、ボランティアスタッフ“カキコ隊”のひとりが、
全3回にわたりレポートします。
10月6日から開催されている「会津・漆の芸術祭2012」の会期も、
残すところあとわずか。
漆の芸術祭にボランティアスタッフ「カキコ隊」の一員として参加する中で
私が思ったことは、この芸術祭がみなさんにとって
漆を身近に感じる機会になったらいいなということでした。
このレポートを書くにあたっても思いは同様。
みなさんが、今までより少しでも漆に興味を持ってくださる機会となれば幸いです。
そこで、今回も「触れる・体験する漆」の話題から。
みなさんが普段接する漆というと黒や赤のイメージが強いのではないかと思いますが、
実際には漆液にプラスする顔料によってさまざまな色が表現可能です。
今回私は、そんな色彩豊かな漆を使ったワークショップ、
山中早苗さんによる漆のお手紙プロジェクトに参加してきました。
このワークショップでは、用意されているポストカードに
漆を使って絵やメッセージを描いて乾いた後に投函してもらえるため、
大切な人に送るもよし、自分宛として飾るもよし。
実際に筆をとって漆で絵を描いてみると、
例えば赤と青を混ぜて紫を作ることができたり、
イメージよりずっと漆の色彩表現が幅広いことに驚きます。
ただし、どのような色にでも漆液本来の色である茶褐色が現れてしまうため、
色を混ぜすぎるとどんどん濁った色になってしまったり、
乾いた時にぐっと暗い色になってしまったり。
裏方のような顔をしながら、意外と自己主張が強いのが漆の難しさであり、
面白さであり、私はそこに大きな魅力を感じてしまいます。
今回、私が体験で作成したポストカードも、
乾燥後のできあがりは思っていたよりもずいぶん色が沈んでしまって、
まったく漆を扱うのは一筋縄ではいきません。
そして、この漆のお手紙プロジェクトで使われているポストカードは、
山中早苗さん作成の、それ自体が和紙に漆をしみ込ませて作られたもの。
薄く柔らかな和紙を固くしっかりとしたポストカードに変えるという、
古来より接着や補強の役割も担ってきた、単なる塗料ではない
漆の一面を知ることのできるワークショップでもありました。
Part1、Part2もあわせてここまでのレポートでは、
実際に「触れる」という体験を多くご紹介してきましたが、
少し変わったかたちでの体験型展示をご紹介。
会津若松エリアのメイン会場でもある末廣酒造嘉永蔵にて展示されている
「くいぞめ椀プロジェクト」(会津塗伝統工芸士会+原忠信)。
なんと、展示されている作品を来場した7歳までの子どもに
プレゼントしてしまおうという企画(応募者多数の場合は選考)。
展示作品がお手元に届くかもしれないというかたちでの参加ができます。
一番のお気に入りを選んで応募用紙に記入いただく企画のため、
どれにしようかと選ぶお子様連れの方はもちろんのこと、
その他の来場者もひとつひとつの椀をじっくりご覧くださっているもよう。
「漆って、こんな使い方もできるんだ」
「こんなデザインもありなんだ」
という漆の芸術祭ならではの作品ももちろん素晴らしいと思うのですが、
このプロジェクトのように、実際に今作られ使われている会津塗の姿を
じっくり見ていただくというのも、漆の芸術祭だからこその機会であり、
カキコ隊が掃除をした会場であるという思い入れも含めて、おすすめの展示です。
さて、前回は喜多方エリアの大学プロジェクト作品を紹介しましたが、
会津若松エリアにも大学生たちの作品は展示されています。
それが、野口英世青春通りの「BUS CAFE/靑」に展示されている2作品。
ひとつは上越教育大学伊藤研究室の「未来へ託せ!うるしバトン」。
新潟と福島をつなぐ行為として、会津の漆の苗を手に
「新潟の海から歩いて福島の海を目指す」プロジェクトで、
その道筋の記録がカフェに展示されています。まもなくゴールをむかえるとのこと。
もうひとつが会津大学短期大学部クラフトゼミによる
会津短大プロジェクト2010「クラシックバスを漆絵で飾ろう」。
こちらはプロジェクト名の通り「会津・漆の芸術祭2010」出品作品で、
クラシックバスの側面を漆絵で飾るコンペを開催し、
優秀作品を会津工芸新生会の協力を得て制作したもの。
それ以来、昨年も今年も「会津・漆の芸術祭」の開催期間には
こうしてBUS CAFE内にあるクラシックバスを飾ってきました。
いわば、漆の芸術祭にとっておなじみの「顔」となりつつある作品です。
同様に3年連続の展示で漆の芸術祭の顔となっている作品が、会津若松駅構内にもひとつ。
井波純+吾子可苗によるSLヘッドマーク「金彩朱磨会津桐文」。
2010年10日31日に、実際にSL会津只見号のヘッドマークとして
秋の会津路を走った漆塗りのヘッドマークが、改札口を入ってすぐのケースの中で、
みなさまのお越しをお待ちしております。
そして、今回の参加作品ではないのですが、
まち角にもこの漆の芸術祭の歩みを見守ってきた作品があります。
Part1のレポートで紹介した漆のウォールアート「天空の刻」の裏側、
b Prese蔵舗駐車場を飾るウォールアート「桜」。
おととしに初めて漆の芸術祭が開催された際、今回の「天空の刻」と同様に
スタンプを使った蒔絵の来場者参加作品として展示されたもので、
それ以来ずっとこの場所で、漆の芸術祭を、
そして会津で暮らす我々の毎日を見守っています。
漆器として普段使いするには丈夫な漆でも紫外線には弱く、
また風雨により金粉も剥がれ落ちて、
当初は美しく咲いていた桜もすっかり退色してしまっています。
塗りたての「天空の刻」と比較することで、またひとつ漆の特色、
今度は弱点を知ることのできる作品でもあるのですが、
その風化に刻まれた時の流れこそが、漆の芸術祭が積み上げてきた
3年の歩みそのものであり、私にはいとおしく感じられるのです。
今年新たにみなさんの手によって輝きを加えられた天空の星たちが、
この桜とともに、末永く漆の芸術祭の月日を刻んでいくことができますよう、
これからもカキコ隊として、一市民としてお手伝いをしていきたいと思っています。
information
会津・漆の芸術祭2012
2012年10月6日(土)~11月23日(金・祝)
会津若松市・喜多方市の店舗内や空き店舗、空き蔵などで展示
http://www.aizu-artfest.gr.fks.ed.jp
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