連載
posted:2012.11.5 from:福島県会津若松市・喜多方市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
writer's profile
Michiko Hori
堀 美千子
ほり・みちこ●福島県喜多方市に生まれ、小中学校時代を会津若松市で過ごす。2008年より、再び会津若松市在住。2011年より「会津・漆の芸術祭」ボランティア、カキコ隊に参加。普段は、建築士事務所で事務をしたり、アクセサリーやiPhoneケースをつくったり、日比野克彦さんが中心となっている東日本大震災復興支援プロジェクト「HEART MARK VEIWING」をお手伝いしたり。
会津若松市と喜多方市で開催されている「会津・漆の芸術祭」。
会津に古くから伝わる素材である漆を使って、
福島県内外の作家や職人、学生たちがさまざまな作品を展示。
3回目となるこの芸術祭を、ボランティアスタッフ“カキコ隊”のひとりが、
全3回にわたりレポートします。
みなさんは、いわゆる「芸術祭のボランティアスタッフの仕事」というと、
どのようなイメージを持たれるでしょうか?
ポスター・チラシの配布、会場での来場者案内など、
開催直前あるいは会期中の活動を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。
私自身も、昨年「会津・漆の芸術祭2011」をお手伝いするまでは
そのようなイメージを持っていました。
もちろん、それらも大切な仕事ではあるのですが、
ボランティアスタッフの最も重要な仕事、それは「掃除」なのです。
そもそも芸術祭というもの自体が、みなさんに作品をご覧いただく開催期間だけで
でき上がっているわけではなく、まずは作品搬入前に掃除、
会期が終われば使用前よりもきれいな状態でお返しできるように掃除、
まさに「掃除に始まり、掃除に終わる」ものであるからなのです。
そこで、今回まずご紹介したい展示会場は、喜多方エリアの三十八間蔵。
荒物を扱う嶋新商店の、店舗蔵から敷地奥へと
その名の通り三十八間にわたって連なっている蔵のうち、
2号、3号、4号と3つの商品蔵をお借りした大きな会場です。
以前は、近隣の農家が農閑期に作った笠や籠などの
燃えやすい商品を保管する蔵だったそうなのですが、現在は使われておらず、
漆の芸術祭が蔵の内部を見学できる貴重な機会となっています。
つまりは、蔵内部の掃除ができるのも漆の芸術祭が貴重な機会。
これは、なかなかやりがいがあります。
まさに久しぶりの蔵開きとなった使用初年度の昨年は、
マスクをしていても鼻のまわりが黒くなるほどの埃の中、丸二日がかりの大掃除でした。
2年目である今年でも、再び積もった埃と格闘すること一日半。
まだ夏の暑さが残るなか真っ黒になって掃除をする作業は、
カキコ隊同士が親交を深める重要な機会でもあるとともに、
こうして汗を流して掃除をした会場には深い思い入れができ、
さらにはそこに展示されている作品にも、自然と愛着がわきます。
これぞカキコ隊として参加したからこそ味わうことのできる、
漆の芸術祭の楽しみ方ではないかと思うのです。
ここ三十八間蔵だけでも、写真で紹介した金沢美術工芸大学のチーム以外に、
秋田公立美術工芸短期大学熊谷研究室作品が展示されているなど、
喜多方市内の会場には全国の大学からの研究室単位での参加作品が多く展示されていて、
喜多方エリアのひとつの特徴となっています。
三十八間蔵からほど近い大和川酒蔵北方風土館にも、3点の大学プロジェクト作品。
こちらの2作品は、同様に大学単位のプロジェクトチームによる参加でありながら、
大型の作品を中心に「命」という重厚なテーマを取り上げた金沢美術工芸大学と、
さまざまなサイズの作品を織り交ぜて、色合いもカラフルに
「うふふ」と軽やかに表現している富山大学と、
対照的な作品群となっているのが興味深く、
漆塗りの持つ重厚さと温かさという両面が表されているのではないかと思うのです。
もうひとつの参加大学チームは福島大学渡邊晃一研究室。
絵画や彫刻を表現手段とする先生と学生たちが、漆に挑戦した作品と
漆の漉し紙をつかったワークショップ作品が展示されています。
そして、前回のレポートで取り上げた会津若松エリアの中学生高校生の参加同様、
このように、全国で漆について学び、漆文化を伝えようとする若者たちがいることに
勇気づけられます。
さて、前回の会津若松エリアでは、
「触れて、体験して、身近に感じる芸術祭」をご紹介しましたが、
喜多方エリアでは「触れて、食べて、おいしい芸術祭」をご紹介。
大和川酒蔵北方風土館から歩いてすぐにある「食堂つきとおひさま」では、
協賛事業として「漆の器 おもてなしごはん」を提供中。
会津塗の器にて、無国籍料理をいただくことができます。
この企画で使われている器は、明治時代に会津でつくられ、
会津の古い商家で使われていた四つ椀(入れ子になった4客1組の椀)をモデルに、
現代の漆職人たちが制作したもので4種類あります。
4組の木地師と塗師による、それぞれの個性も楽しいところ。
漆塗りの良さは、実際に手に取り使ってみて伝わるものだと思っています。
肉、魚、野菜とバランスのとれたおいしいご飯とともに、
ぜひ漆器の手触りをお楽しみください。
もう一つご紹介する「おいしい芸術祭」は、
やはり大和川酒蔵北方風土館から歩いてすぐ「お休み処 蔵見世」にて。
昨年3月12日に長野県栄村を襲った地震によって崩れた土蔵から、
喜多方を含む会津地方で作られた漆器が見つかり、
長野県で活動する「地域資料保全有志の会」によって救出、保全されました。
それらの漆器が漆の芸術祭をきっかけに里帰りをし、
こづゆやそば、鰊の田楽といった会津の郷土料理を盛り付けた
「里帰り喜多方御前」(1000円)として、蔵見世にてお楽しみいただけます。
ただし、こちらは不定期での提供となっているため、
お休みの日に当たっちゃったらごめんなさい。
そんな「里帰り喜多方御前」がお休みの日でも、
里帰りした漆器たちはご覧いただくことができます。
蔵見世2階にて展示されていますので、食事でのご利用がない方もお気軽にぜひ。
このように、漆の芸術祭では、営業中の飲食店や漆器店なども、
数多く会場として利用させていただいています。
「食事しないし」「買い物しないし」と躊躇してしまいがちですが、
作品鑑賞のためだけの入店ももちろん歓迎。各店舗からも
「これを機会にお店のようすを知っていただき、次回のご利用につなげていただければ」
との声をいただいておりますし、来場者から
「気になっていたお店に足を運ぶ機会になって楽しい」との感想もきかれます。
冒頭の三十八間蔵のように普段は公開していない建物の内部など、
作品鑑賞だけではなく、まち並みや展示会場となっている建造物そのものを
ご覧いただくのも「会津・漆の芸術祭2012」の楽しみ方のひとつだと思いますので、
ぜひ会津をまるごと体感してください。
information
会津・漆の芸術祭2012
2012年10月6日(土)〜11月23日(金・祝)
会津若松市・喜多方市の店舗内や空き店舗、空き蔵などで展示
http://www.aizu-artfest.gr.fks.ed.jp
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