「この人たちとなら」と思えるまちで。静岡県磐田市へのUターンで始めた、小さなネイルサロン
祖母の家を残す、その方法を探して
愛知県豊橋市で生まれ、小学6年生から磐田市で暮らした大石七奈さん。高校卒業後は東京の大学へ進学した。地元へ戻ることを考え始めたきっかけは、磐田にある祖母の家だったという。
「おばあちゃんが『この家、誰か使ってくれないかな』と言っていて、残す方法を考えるようになりました。でも当時は東京にいたので、自分が磐田に戻って暮らすイメージは湧かなくて。誰かに使ってもらったり、自分が住まなくても残していける仕組みをつくれないかなと思っていたんです」
そんな思いから、卒業後は場づくりに携わる東京の会社へ就職。レンタルスペースの運営や、地域で催しを開きたい人の支援に関わった。仕事を通して気づいたのは、場所を活用するには、建物だけでなく、そこに暮らす人たちの思いを知る必要があるということだった。祖母の家をどう残すか考えるためにも、まずは磐田での暮らしを知りたいと思うようになった。
「磐田に何が足りないのか、そこに暮らす人たちがどんなことを楽しいと感じるのか。離れて暮らす自分には、その感覚がわからなくて。いつかは地元に帰るつもりでしたが、一度戻って暮らしてみるなら、身軽に動ける今がいいかもしれないなって」
仲間の後押しで、小さなネイルサロンをスタート
地元へ戻ることを考えていたころ、磐田に住む知人から勧められ、地元でネイルサロンを開くことを決意。新しい仕事に挑戦する機会ができたことも後押しとなり、2025年4月に磐田へUターンした。開業に向け、東京にいるころから約1年間ネイルスクールに通い、サロンワークに必要な技術を集中的に身につけたという。
「ネイルはまったく未経験だったし、自分のキャリア的にもネイリストになる選択肢を考えたことがなかったので、本当に自分にできるのかな?と思い、答えを出すのに時間がかかりました。でも、『七奈なら向いていると思うんだけどな』と何度も説得してくれて。中学生の頃から私のことを知ってくれている人だったので、その感覚に賭けて『やってみます』と答えました。学び始める前からオープンする時期を決めていたから、そこへ向かって頑張れた。実際に始めてみたら、すごく楽しくて。自分に向いている仕事だと感じました」
帰郷後は、隣町にあるネイルサロンで修行しながら磐田駅前のクラフトビール酒場〈TYU GOOD BEER NICE HAIR〉でアルバイトをスタート。そこのオーナーに誘われ、商店主らによる「まちのためのあつまり ロ(ろ)」に参加することに。
「ロ」は、磐田駅前から北へ約1キロメートル続く商店街「ジュビロード」に新しい店を増やすことを目的に、新規出店や空き店舗の活用を支援する6人のコミュニティ。七奈さんを含め、メンバーの多くは一度磐田を離れて戻ってきたUターン経験者でもある。
商店街の仲間たちは、七奈さんがサロンオープン間近にして壁にぶち当たった際も、親身になって力をかしてくれた。そんな仲間たちの支えとご縁があり、2025年7月、ジュビロードで営む生花店〈nest〉の一角にネイルサロン〈on〉をオープン。ふたつの店が同じ空間にあることで、お互いのお客さんに店を知ってもらう機会も増えている。
「〈nest〉を目当てに来た方がサロンを知り、ネイルのお客さんが花屋を知ってくれる。“あのお花屋さんのネイリストさん”と覚えていただくことも多くて、お互いにいいつながりが生まれています。最初はひとりでお店を持つというのはとても怖かったけれど、この人たちと一緒なら頑張れるかもしれないと思って。みんな商店街で働く人たちなので、すごく心強かったです」
近年は、〈TYU GOOD BEER NICE HAIR〉で間借り営業をしていたカフェ〈ONE HAND STAND〉がジュビロードに実店舗を構えるなど、新たな動きも生まれている。
「一度地元の外へ出るのも、もちろんいいと思います。でも、いつか戻りたいと感じたときに、『磐田でも何かできそう』と思えて、頼れる人がいるまちにしたい。東京でなくても、自分を発揮できる可能性はここにあると伝えていきたいんです」
祖母の家をきっかけに戻った磐田で、仕事と居場所、そしてまちを一緒に楽しむ仲間に出会った七奈さん。誰かに背中を押してもらった経験を携え、いまは新たな一歩を踏み出す人を迎える側になろうとしている。

Information
おおいし・なな/愛知県豊橋市生まれ。小学6年生から高校卒業まで磐田市で過ごし、大学進学を機に上京。新卒で場づくりに携わる企業へ入社したのち、2025年に磐田市へUターン。同年夏、生花店〈nest〉の一角にネイルサロン〈on〉を開業。「まちのためのあつまり ロ」のメンバーとして、JR磐田駅前商店街「ジュビロード」への新規出店支援やまちづくりにも取り組む。