関西、イタリアを経て、静岡県磐田市へUターン。ビーチサッカーから広がる、元プロフットサル選手の新たな日々

NPO法人スポーツコミュニティ磐田・ポーラスター理事でビーチサッカー指導者の髙橋亮祐さん
「移住」と聞くと、知らない土地へ踏み出すことを思い浮かべるかもしれない。けれど、一度離れた故郷へ戻ることも、新しい暮らしを始める選択のひとつ。外の世界を経験したからこそ、以前は見えなかった土地の魅力に気づくこともある。静岡県・磐田市出身の髙橋亮祐さんは、関西やイタリアで競技と教育に向き合ったのち、地元へUターン。現在はスポーツを通して、子どもたちの自由な感性を育んでいる。

サッカーを追いかけ、イタリアへ

プロサッカークラブ「ジュビロ磐田」のホームタウンとして知られ、サッカーが暮らしの身近にある静岡県・磐田市。2005年の合併以前は「豊田町」と呼ばれていた地域で生まれ育った髙橋亮祐さんは、7歳からボールを追い続けてきた。

「保育園の園庭でゴールを決めたとき、先生に褒めてもらったのがうれしくて。友達に誘われて地元の少年団に入り、それからはサッカーばかりやっていました」

高校卒業後は、サッカー推薦で滋賀県大津市のびわこ成蹊スポーツ大学へ。当時の監督は、小野伸二選手や高原直泰選手らを擁したU-17日本代表を率いた松田保さん。後任には、その教え子で、なでしこジャパンのワールドカップ優勝をコーチとして支えた望月聡さんが就いた。ふたりからサッカーだけでなく、人としての生き方も学んだ経験が、今の自分の土台になっていると髙橋さんは振り返る。

フットサルを始めたのも、大学時代のこと。監督から「フットサルをすればサッカーもうまくなる」と聞き、大学近くの社会人チームに参加したことが、新たな道を開いた。

「フットサルは5対5なので、サッカーよりもボールに触れる回数が多いんです。技術が身につくうえに、戦術的でロジカルなところも自分に合っていました。サッカーのために始めたはずが、フットサル自体が楽しくなっていきましたね」

大学卒業後は競技を続け、フットサルのプロ選手としてイタリアのレッジョ・エミリアへ。

「そこで出会ったのが、子どもの主体性や好奇心を尊重し、対話やアートを通じて学びを深める“レッジョ・エミリア・アプローチ”でした。フットサルをするために行ったのに、教育のほうにも強く惹かれて。アートにはひとつの正解がない。子どもの感性を大切にしながら、運動とアートを結びつけられたらおもしろいと思うようになりました」

NPO法人スポーツコミュニティ磐田・ポーラスター理事でビーチサッカー指導者の髙橋亮祐さん
髙橋亮祐さん。

翌朝6時、砂の上で始まった挑戦

帰国後、髙橋さんは磐田市へ戻り、小学校の学級支援員として働き始めた。その頃、パーソナルトレーナーとしてお世話になっていた髙木慎一さんを通じて、当時ビーチサッカー日本代表だった鈴木俊多選手と出会う。

「“一緒にビーチサッカーをやらない?”と誘ってもらい、会った翌日の朝6時にはボールを蹴っていました。オーバーヘッドシュートを目の前で見せてもらって、すごい、格好いい!って。裸足で砂の上を走るのも新鮮で、純粋にサッカーを楽しむ気持ちを思い出しました」

その場所が、福田漁港交流広場「ふくっぱ」にあるビーチコート。髙橋さんは20代半ばまで、地元にこの場所があることさえ知らなかったという。

「磐田を離れたから地元のよさに気づいたというより、戻ってきて、新しい人に出会ったことで初めて知った場所でした。ビーチサッカーとの出会いが、地元との新しい関係をつくってくれたんです」

静岡県磐田市「ふくっぱ」のビーチコートでビーチサッカーをプレーする髙橋亮祐さん
子どもたちへのビーチサッカー指導の場でもある、「ふくっぱ」のビーチコートにて。

砂の上ではボールが思うように転がらず、足を取られる。その難しさが、経験や年齢による差を小さくしてくれる。

「サッカーが得意な子と、そうでない子の差が出にくいんです。大人と子どもが混ざってもいい勝負になるし、転んでも痛くない。大人も童心に帰れる、サッカーの原点に近い場所だと感じています」

正解のない遊びを、磐田の子どもたちへ

現在は、NPO法人〈スポーツコミュニティ磐田・ポーラスター〉に所属。「お茶コーチ」の愛称で親しまれ、乳幼児の運動あそびを指導している。また、鈴木俊多さんと立ち上げた〈浜松ビーチサッカークラブアレイア〉で地域スポーツ・クラブダイレクターとしても活動中だ。

「子どもたちと接していると、大人には思いつかない発想に出合います。以前、体を卵に見立てて丸くなり、そこから殻を破って外に出る、という運動あそびをしたんです。みんなが体を伸ばしていくなか、ひとりだけ丸まったまま、出てこない子がいて(笑)。

でも、それも立派な表現ですよね。こちらが正解を決めず、その子らしい視点を大切にしたいと思っています」

スポーツが盛んな磐田に、アートや対話の視点も溶け込ませたい。競技の上達だけをゴールにせず、子どもが自分の好きなものを見つけるきっかけを手渡すことが、髙橋さんの目指す指導だ。

「スポーツでも、アートでも、ほかのことでもいい。子どもたちが何かに触れるなかで、自分の好きなものをつかんでくれたらうれしいです。僕自身、いろいろな場所へ行き、人と出会ったことで、磐田にこんな豊かさがあると知りました。今度は自分が、子どもたちに新しい入り口をつくっていけたら」

Information

髙橋亮祐

たかはし・りょうすけ/静岡県磐田市出身。大学進学を機に滋賀県へ、サッカーとフットサルに取り組む。卒業後はプロフットサル選手として国内外でプレー。帰国後にビーチサッカーと出会い、全日本選抜などで活躍した。現在はNPO法人〈スポーツコミュニティ磐田・ポーラスター〉理事。「お茶コーチ」の愛称で乳幼児の運動あそびを指導するほか、〈浜松ビーチサッカークラブアレイア〉の地域スポーツ・クラブダイレクターとして、ビーチサッカーの普及にも取り組む。

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