ライバルは、〈さわやか〉。静岡県発のアイドル〈fishbowl〉が育む、地域との新しい関係

静岡発 ご当地アイドルfishbowl
「私たちのライバルは〈さわやか〉です」。静岡発のアイドル〈fishbowl〉が目指すのは、大きなステージに立つことと、地元で誰もが知る存在になること。その歩みを支えるのは、静岡を織り込んだ音楽と、一緒に活動する地域の人たちだ。プロデューサーのヤマモトショウさんとメンバーに、静岡で続けるからこそ広がる活動について話を聞いた。

〈fishbowl〉は、2021年に結成された静岡発のアイドルグループ。名前は英語で「金魚鉢」を意味し、金魚のような形に見える静岡県全体を包み込める存在になるようにとの思いが込められている。プロデュースを手がけるのは、静岡市出身の音楽家・ヤマモトショウさん。グループを立ち上げた理由を尋ねると、少し意外な答えが返ってきた。

ヤマモトショウ
静岡市出身の音楽家・ヤマモトショウさん。ストリーミング累計1億回再生を突破したFRUITS ZIPPERのヒット曲「わたしの一番かわいいところ」をはじめ、多くのアイドルやアーティストの楽曲を手がける。

「静岡出身ですが、実は昔から地元愛みたいなものは特別ありませんでした。別に悪いところではないけどつまんないな、みたいな。好きなアーティストのツアーでも神奈川と愛知には来るのに、静岡は飛ばされたりするし(笑)。今は仕事をしていく中で静岡のいいところを知れて、好きなところも増えましたけど、はじめは地元が好きだから何かしよう、という感じでは正直なかったです」

当時、東京で音楽の仕事をしていたヤマモトさんは、アイドルの立ち上げを相談されることも多かった。ただ、数多くのグループが活動する東京のアイドルシーンは、いわばレッドオーシャン。そのなかで新たに何ができるだろうと考えていた。

そんなとき、地元のテレビ局で働く友人から、静岡でなにか一緒にできることはないかという話を持ちかけられる。東京とは違う場所でアイドルを立ち上げれば、新しいことができるかもしれない。そうして、テレビ静岡とともにオーディション「SHiZUOKA iDOL PROJECT」を開催、2021年に〈fishbowl〉が始動した。

静岡発 ご当地アイドルfishbowl
メンバーは全員、静岡県出身。ライブや写真撮影では、出身市の位置に合わせて西から東の順に並ぶ。左から、大白桃子さん・吉田柚佳さん(ともに浜松市)、野田萌花さん・佐佐木一心さん(ともに静岡市)、齋藤ザーラチャヒヨニさん(沼津市)、木村日音さん(御殿場市)。

聴き込むほどに、静岡が見える

グループの楽曲を手がけるのは、もちろんヤマモトさん。どの曲にも静岡にまつわる要素が歌詞にさりげなく織り込まれているが、タイトルを見ただけでは、そのつながりに気づかないものも多い。

例えば、デビュー曲「深海」のモチーフは、日本で最も深い駿河湾。芸能経験のなかったメンバーが、アイドルの世界の一番深いところから活動を始める姿を重ねている。人気曲「熱波」は、サウナを題材にしたキラーチューン。MVは、“サウナの聖地”と呼ばれる静岡市の〈サウナしきじ〉で撮影されている。曲をつくるときにヤマモトさんが大切にしているのは、まず音楽として好きになってもらうことだと言う。

「地方であることを言い訳にしたくない。静岡のアイドルだからという前に、音楽としていいものをつくりたいんです。お茶や富士山を前面に出せば、静岡のグループだとは伝わる。でも、それだけで興味を持ってもらえるかは別ですよね。まず曲を好きになって、後から静岡とのつながりに気づく。そこから『こんな場所があるんだ』『行ってみようかな』と興味が広がっていく。そういう発見を楽しんでもらえたらうれしいですね」

静岡発 ご当地アイドルfishbowl
衣装にも静岡の要素が散りばめられている。この日は、蝶が羽を広げたような尾びれを持つ金魚「蝶尾(ちょうび)」をモチーフにした「チョウビ衣装」を着用。昭和2年創業、浜松市中央区常盤町の〈二橋染工場〉が「浜松注染そめ」で染めた、水仙とあじさい柄の浴衣生地を使用している。

企業も、店も、自治体も。まずは仲間に

〈fishbowl〉の活動でユニークなのが、地元の企業や団体との関わり方だ。その出発点には、どうすれば地元の人たちにも応援したいと思ってもらえるか、というヤマモトさんの問いがあった。

「当時のご当地アイドルって、這い上がって東京で売れることを目指すという、一元的なストーリーを求められているように感じていました。もちろん、ビジネスの面でも地元だけでは完結できないといった事情もあるとは思います。でも、東京を目指すという話が静岡の人たちにとっても応援する理由になるかというと、必ずしもそうではない。静岡でやるからには、地元の人たちも関われる活動になってほしいと思ったんです」

その思いを形にしたのが、「応援企業・団体」という仕組み。JR東海やフジドリームエアラインズ、静岡県教育委員会、浜松市役所など、取材時点で約100の企業・団体が参加。大きな企業から数人で営む地元の店まで、規模も業種もさまざまだ。

「企業とアイドルの関係というと、CMや広告への出演が一般的ですよね。でも僕らはまず、静岡で一緒に頑張る仲間を増やしたかった。具体的な仕事がなくても、『何かあったら一緒にやりましょう』と、ラフにつながっておく。そこから仕事が生まれることもあれば、地域の活動で協力し合うこともある。そんな付き合いを広げていきたかったんです」

メンバーの活動の場も、ライブステージにとどまらない。静岡県教育委員会とは、高校生の困り事や悩み事を手伝う企画「fishbowlの高校生からのお願い叶えちゃってもいいですか?」を実施。JR東海とのコラボでは、浜松から三島へ向かう貸切列車「fishbowl号」に乗るツアーも開催された。2025シーズンからは、藤枝市や焼津市など県内6市町をホームタウンとするJリーグクラブ〈藤枝MYFC〉の応援マネージャーも務めている。

「ライブをした後にサッカーを見に行くこともあって、自分でも『私アイドルなんだよね?』と思う時があります(笑)。サポーターの皆さんと一緒に試合を応援するのは、ライブとはまた違う、不思議な感覚ですね。活動を通して、いろいろな人と関われるのが楽しいです」と吉田柚佳さん。

地域の人や仕事との出会いは、メンバーが将来の選択肢を広げる機会にもなっている。中学生の頃にアイドル活動を始めた佐佐木一心さんは、こう話す。

「これまでアイドルの世界しか知らなかったし、アイドル以外のことに興味もなかったんです。ただ、意外と現実的なところもあるので、いつかアイドルではなくなった時のことも、ぼんやり考えているんです。そんななか、応援企業や団体の方と関わるうちに、社会にはどんな仕事があるのかを知ることができて。『静岡にはこんな素敵な仕事があるんだ』と、将来の就職先として候補にしている会社もいくつかあります(笑)」

ヤマモトさんも、日々の活動で得られる経験やつながりが、メンバーの将来の選択肢を広げると考えている。

「プロデューサーとしては、アイドルのセカンドキャリアについてもよく考えていて。メンバーには、自分の力で誰かの役に立てたり、次の仕事につながったりする経験をしてほしいんです。それはライブのなかでも、それ以外の活動でもいい。〈fishbowl〉は、そうした経験を自信にしていけるプロジェクトだと思っています。将来、関わった企業で働くかどうかにかかわらず、地域の人たちに名前を知ってもらっていたり、『こんなことができる人なんだ』と知ってもらっていたりすることは、メンバーにとって役に立つことだと思うんです」

目指すは、静岡で誰もが知る存在

地元に根づいた活動を続ける〈fishbowl〉だが、最近では思いがけない場所からも反響が届いている。2026年5月に公開された『鰻登』のダンスパフォーマンス映像は、同年10月時点で580万回再生を超え、インドネシアなどでも聴かれるようになった。

今後の目標を尋ねると、大白桃子さんからは、こんな思いが返ってきた。

「アイドルとしては、武道館に立ちたいという夢がずっとあります。それと同時に、静岡でもっとたくさんの人に知られる存在になりたい。私たちのライバルは、ハンバーグレストラン〈さわやか〉です」

大きなステージに立つことと、静岡の看板になること。ヤマモトさんも、その両方を目指せると考えている。

「ご当地アイドルって、地方を離れて東京に行くか、東京での成功を考えずに地方だけで頑張るか、という二択になりがちなんです。でも、静岡で活動しながら、全国や海外に音楽を届けることもできる。その両方を自然にやれるんだと、この活動を通して示していきたいと思っています」

静岡発 ご当地アイドルfishbowl

Profile

ヤマモトショウ

1988年、静岡県生まれ。作詞家、作曲家、編曲家。東京大学文学部卒業。バンド〈ふぇのたす〉でギター、シンセサイザーと全楽曲の作詞・作曲・編曲を担当。解散後は、FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」「NEW KAWAII」をはじめ、虹のコンキスタドール、きゅるりんってしてみてなど、多くのアイドルグループに楽曲を提供。2021年から〈fishbowl〉をプロデュース。

Profile

fishbowl

フィッシュボウル/2021年結成、静岡を拠点に活動する6人組アイドルグループ。メンバー全員が静岡県出身で、静岡市出身の音楽家・ヤマモトショウがプロデュースを手がける。楽曲には静岡の地理や文化を取り入れ、企業や自治体、教育委員会とも連携。2025年10月から現在の6人体制で活動。

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静岡県は、雄大な富士山と豊かな海、山々の自然に恵まれた地域です。世界遺産の富士山をはじめ、駿河湾や伊豆半島の美しい海岸線、南アルプスの山々など、多彩な風景が広がります。温暖な気候のもと、お茶やみかん、わさびなどの農産物が育まれ、各地に豊かな食文化が根づいています。歴史ある宿場町や温泉地、地域ごとに受け継がれてきた祭りや伝統工芸も魅力。海と山の恵み、歴史と文化が日々の暮らしに溶け込み、訪れる人を穏やかに迎えてくれる地域です。

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