写真家・在本彌生の旅の記録  おいしいものと、人のご縁。 懐の深い、北海道とは。

訪れたのは紅葉も終わりかけたピリっと冷たい風の吹く晩秋の季節。 ハイシーズンではないけれど、道北の旅はドキドキする出会いがたくさんありました。 慈しまれた料理、森の取り組み、まちを愛する人々など。 そんな旅の記録を写真でめぐります。

移動に移動を重ねた道北の旅

今回、コロカルが写真家の在本彌生さんとめぐったのは、
北海道の道北エリア。まず、新千歳空港から占冠を目指し、
そこから、富良野や美瑛の素朴な田園景色を横目に、
音威子府まで北へと車を走らせます。

東川では豊かな水と旭岳の美しさを目の当たりにして、
途中日本海をめざし上川から増毛へ。
海岸線に夕日が沈でいく風景に目を奪われます。
早くから開拓がすすんだ旭川での人のご縁は運命的。
恵まれた出会いを惜しみつつも旭川をあとに、
美深と下川の静かでふかふかな森へも足を踏み入れました。

ため息が出るような大きな自然と人々の営みとの出会い。
改めて北海道の懐の深さを知ることになった在本さんが
この旅で感じたこととは。

海道はとにかく広い。道東をめぐったときもそんなことを言ったと記憶しているが、今回の道北をめぐる日々も、移動に移動を重ねた。

北海道のなかで移動していると、大地のスケールの大きさに、
自分がいつもより小さくなって、歩いても歩いても
端まで辿り着けないような、そんな気になる。
その感覚はもどかしいようで、実のところ少し心地いいのだ。

自分ではどうにもコントロールできない自然、
とてつもなく大きなものに身をゆだねるしかない。
そう感じるから、あっけらかんとした、大らかな心持ちになる。
何を見てもおもしろく、よくぞここで私と出合わせてもらえたものだと
いま目の前にあるもにの感謝してしまう。

役所を定年退職して、楽しいオブジェの王国をつくってしまったご主人、
愛嬌のある素敵な奥さまはアスパラをつくっていた。
黙々とチェーンソーを操るご主人は真剣な表情で、
話しかけるのもはばかられるようだった。
それでもひとたびご挨拶すると、温かく迎えてくださって、
とても丁寧に作品の説明をしてくれた。

北海道で見る日本海は、その先にある違う世界をにおわせている。
冷たく強い風にブルッと震えながら、
長い長い海岸線に夕日が沈むのをしばらく眺めた。
強くて、止まることがない存在がそこにある。
こうしていつも五感で何事も捉え、日々を過ごせたら素晴らしい。

北海道の真ん中、旭川でも素敵な人たち、おいしいものとの出合いがあった。
気さくなご主人と愛らしい奥さまのふたりがつくる
〈みづの〉のしょうがラーメン。
このまちに住む友人が週に一度は来るというこの店の馴染みの味を、
さらさらとすすった。
素直なおいしさに、身体がすっかり温まり、はい、もう一軒。
〈ぎんねこ〉では、焼き鳥と、めずらしい“鳩燗”をいただいた。

どうしても気になって立ち寄った〈川村カ子トアイヌ記念館〉で、
私の好きな女性ボーカルグループ、マレウレウの歌声が聞こえてきた。
喜んでいたら、声をかけてくれた副館長さん。
あら、メンバーの久恵さんではないですか!
このまちではこんなふうに人のご縁がつながっていくから素敵だ。

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深でトロッコ列車に乗って、白樺の林とせせらぎを走り抜け、
自然の恵みを身体いっぱいに受け止める……というと何ともさわやかだが、冬のはじめの道北の風はけっこう冷たい。
こうなったら風の子になるしかない。
何事も体感する、というのが何よりも強い経験になる。

自転車よりも速いスピードで進むトロッコ、
お化けのように毛布に包まってカメラを構え、せせらぎを捉える。
この冷たい風が澄み渡る空とおいしい空気をつくっているのだから、
そうだ、これでいいのだ。

ずっと行ってみたかった、音威子府
砂澤ビッキさんが大きな作品をつくれるようにと工房をもった場所だ。
いまは展示施設になっていて、
たくさんのビッキさんの作品を見ることができた。
朽ちゆくものはそのままに……風で倒れたトーテムポールは圧巻だった。
ビッキさんは作品を自然と共同制作している。
自然があるから人が生きていられる、ここでもそんなことをふと感じた。

下川では、若い人たちが森と共に生きる楽しさを教えてくれた。
見上げると「天まで届け」と
両腕を空に向けて広げているような枝振りのトドマツの林を歩く。
踏みしめる足下は、自然と落ちたトドマツの枝のクッションで
ふかふか。さわやかな香りが広がっている。

〈モレーナ〉は素敵な店だ。
もしこんな店が近所にあったら毎日でも通いたい。
家も、キッチンも、すべて手づくり。
「今年最後の収穫」ご主人はそう言って、
野性的な姿の野菜を私に見せて台所に入っていった。

ここのカレーは旨味が満点。冷えた身体にたいそう有り難かった。
世界中を旅したご主人が、このまちに落ち着き、
この土地で育った野菜でつくり出す味は、食べるごとに滋味深い。有り難い。
このまちの土も、水も、太陽も、人々も。
ため息が出るようだ。

北海道は、何をとっても懐が深い。
広い、広いところ。
だから時間をかけてもっともっと旅したくなる。
もっともっとこの土地のことを知りたくなる。
どうやら私は、北海道の魅力の扉の入り口に立ったところみたいだ。

写真・文 在本彌生

photographer profile

在本彌生 Yayoi Arimoto
フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年/青幻舎)。
yayoiarimoto.jp

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