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写真家・在本彌生の旅の記録 
おいしいものと、人のご縁。
懐の深い、北海道とは。|Page 3

おでかけコロカル|北海道・道北編

Page 3

深でトロッコ列車に乗って、白樺の林とせせらぎを走り抜け、
自然の恵みを身体いっぱいに受け止める……というと何ともさわやかだが、冬のはじめの道北の風はけっこう冷たい。
こうなったら風の子になるしかない。
何事も体感する、というのが何よりも強い経験になる。

自転車よりも速いスピードで進むトロッコ、
お化けのように毛布に包まってカメラを構え、せせらぎを捉える。
この冷たい風が澄み渡る空とおいしい空気をつくっているのだから、
そうだ、これでいいのだ。

ずっと行ってみたかった、音威子府
砂澤ビッキさんが大きな作品をつくれるようにと工房をもった場所だ。
いまは展示施設になっていて、
たくさんのビッキさんの作品を見ることができた。
朽ちゆくものはそのままに……風で倒れたトーテムポールは圧巻だった。
ビッキさんは作品を自然と共同制作している。
自然があるから人が生きていられる、ここでもそんなことをふと感じた。

下川では、若い人たちが森と共に生きる楽しさを教えてくれた。
見上げると「天まで届け」と
両腕を空に向けて広げているような枝振りのトドマツの林を歩く。
踏みしめる足下は、自然と落ちたトドマツの枝のクッションで
ふかふか。さわやかな香りが広がっている。

〈モレーナ〉は素敵な店だ。
もしこんな店が近所にあったら毎日でも通いたい。
家も、キッチンも、すべて手づくり。
「今年最後の収穫」ご主人はそう言って、
野性的な姿の野菜を私に見せて台所に入っていった。

ここのカレーは旨味が満点。冷えた身体にたいそう有り難かった。
世界中を旅したご主人が、このまちに落ち着き、
この土地で育った野菜でつくり出す味は、食べるごとに滋味深い。有り難い。
このまちの土も、水も、太陽も、人々も。
ため息が出るようだ。

北海道は、何をとっても懐が深い。
広い、広いところ。
だから時間をかけてもっともっと旅したくなる。
もっともっとこの土地のことを知りたくなる。
どうやら私は、北海道の魅力の扉の入り口に立ったところみたいだ。

写真・文 在本彌生